大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界の調査・認定の在り方に関する検討報告書」について④

2021-06-16 09:51:06 | 日記
3)「イ」について
「イ」について。再掲します。
「イ 登記所に座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合において、上記アの指示点が現地に存しないときにあっては、申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整した点」

これからこの条項に対する論評をしようとしているのですが、正直言って、私にはこの項の意味するところがさっぱり分かっていません。自分なりの読み方・理解はそれなりにあるのですが、その内容が合っているのかどうか確信を持てません。あまりにも不合理で、こんなことをまともに言うということがあるだろうか?と思ってしまうのです・・・が、そんなことはいくら言っても始まらないので前へ進みましょう。
上記文章の中で言われている「上記アの指示点」というのは、「(14条1項地図の)申請土地の筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点の位置に対して,公差(位置誤差)の範囲内」にある「境界標の指示点」のことです。すなわち、「筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点」の近くに「境界標」がある場合にはその境界標を「筆界」と認めるけれど、ない場合には「山林・原野地域」においてそうするようにその「現地に表した点」を「筆界」と認める、というのではなく、「申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整した点」を筆界と認めるべき、としているわけです。
では、「申請土地の筆界点の座標値を基礎として、地図に記録されている各土地の位置関係及び現況を踏まえて画地調整した点」というのは何なのか?これが、さっぱりわからないのです。
わざわざ「座標値に基づき測量により現地に表した点」と区別して「画地調整した点」だと言っているということは、「画地調整点」というのは「筆界点の座標値に基づき測量により現地に表した点」とは異なる位置のものだ、ということなのでしょう。しかし、そのようなことは想定されることなのでしょうか?
そもそも「筆界が明確であると認められる」というのは、「現地復元性を備えた信頼性ある資料」によって、筆界の現地における位置が明確に指示・特定されていることを言います。その位置は、その資料の情報(数値情報=座標値)として、一度公的な認証を受けて広く社会に対して公示されているものです。ですから、それをそのまま「筆界」と見ることによって「筆界が明確であると認められる」ということになるべきはずのものです。
ところが、敢えてそれとは異なる位置の点を「筆界」として認めるようにしろ、ということをこの「イ」は言っているのです。これが私にとっては「まともに言われることなのか?」と疑問に思わざるを得ないことです。もしも、信頼性のある公示資料と異なる位置を「筆界」と認める、というのであれば(こういうことは、いかに「信頼性のある公示資料」とはいえ100%間違いがないという訳ではないので、ありうることではあるのですが)、このようなときにこそ「筆界特定手続」等の手続を踏むようにするとか、既存資料の問題点をきちんと説明したうえで「筆界確認情報」を得るようにする、という丁寧な措置が必要なのではないでしょうか。
ここでは、なにやら「画地調整」というもっともらしい作業をかませることによって高尚なことがなされているかのごとき雰囲気が醸し出されているのですが、とんでもない的外れなのだと私は思います。
ここで言われている「画地調整」というのは、「土地の位置の特定又は筆界点の復元を行う場合に、基礎測量を実施して、当該測量成果と各種資料との照合・点検を行った上で、土地の面積及び各辺の距離の調整計算を行う復元型」の「画地調整」のことだとされています。たしかに、このような「画地調整」を行うことは「筆界認定」にあたって重要なことです。しかし、「座標値の種別が測量成果である14条1項地図の備付けがある場合」というのは、当該地図作成の時点においてすでにこのような「画地調整」が行われている、ということなのであり、その上で「筆界認定」がなされている、ということであるはずです。そして、その「筆界認定」された位置が「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)」として記録・公示されているのです。ですから、その数値情報をそのまま現地に「表した(復元)」した位置と「画地調整した」位置とが相違する、ということを想定すること自体があってはならないことなのです(繰り返しますが、いくら「あってはならないこと」でもあることはあります。そのときは現にあったことを否定するべきなのではなく、より丁寧な手続きをとることが必要になるのです。)

なぜこういうことになってしまうのか?よくわからないながら推測に推測を重ねると、次のような問題があるのか、と思えてきます。
「筆界認定」ということ自体に関する考え方の問題です。
「筆界が明らかであると認められる」と判断することが「筆界認定」です。これは「筆界の現地における位置を特定すること」とも言えます。
この「筆界の現地における位置を特定すること」というのは「筆界特定」に関する不動産登記法の定義規定の中に出てくる言葉です(「123条 2号 筆界特定 1筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより筆界の現地における位置を特定すること(…)をいう。」)
すなわち、「不動産登記法第6章 筆界特定」の規定に基づいて「筆界の現地における位置を特定すること」が「筆界特定」であるわけで、表示に関する登記の中で「筆界の現地における位置を特定すること」が「筆界認定」だと言えるでしょう。
では、「筆界の現地における位置を特定」したもの、というのはどのような形で表現されるものなのでしょうか。二つの形がある、と言えます。一つは、現地に物理的な形で「筆界」を認識できるようにすることであり、具体的には「標識」を設置するという方法です。そしてもう一つは、筆界の現地における位置を「情報」として記録する、という方法です。「筆界認定」というのは、この「情報」として記録する、ということ、しかもそれを「公的」なものとして行い、誰でも知ることのできるよう公開(公示)する、というところまでを含んだものとして考えるべきものだと思います。
現地において「標識」を設置する方法というのは、誰の目にも明らかな方法として非常にわかりやすいものであり、その意味での利点を有しているということができます。しかし、弱点もあります。とりあえず二つを挙げますと、一つは、現地の「標識」自体は、それが「公的」なものなのか「私的」なものなのか判断できるものではない、ということです。もう一つは、現地の標識はいつ亡失してしまってもおかしくないものとしてある、ということです。そのような性格を持つものであるがゆえに、「永久標識」を設置するように努めることが強調されるのですが、現在ではどんなに大きなコンクリート杭を根巻きして設置したとしても重機などで簡単に除去されてしまいます。現地に真の意味での「永久標識」「永続性ある境界標」を設置することは無理なことなのです。
そこに、もう一つの方法、「情報」として記録する、という方法の重要性があります。今日では「基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値」として記録することとなっていて、これにより「筆界の現地における位置」は、たとえ境界標がすべて失われるようなことがあっても現地に復元しうるものとして特定しうる(明らかだと認められる)ものとなっています。そしてこの「情報」についてはその性格から、それが私的なものなのか公的なものなのか明らかです。また、永久性・永続性も明らかです。弱点としては、現地で誰にでもすぐにわかるものではない、ということがありますが、これは副次的な問題だと言えるでしょう。
このように、認定された筆界を「情報」化するわけですが、近年になるまでその「情報」を現地に一義的に(ピンポイントで)復元する、ということはできませんでした。更正図の公図がいくら「精度のいいもの」だとしてもピンポイントで表示しているわけではありませんし、古い時期の国調地籍図(の14条1項地図)も「図解法」によるもので同様です。「現地→情報」という回路をとっても「情報→現地」の回路をとることができなかったのです。現地への「標識」の設置は、「情報」におけるこの弱点を補う意味があったのだと、今日ではとらえ返すことができます。これに対して「座標種別が測量成果である14条1項地図」は、ピンポイントでの現地復元が可能な情報としてあります。ここに至って、「標識」に必ずしも頼らなくとも「現地」と「情報」との相互通行が可能になったのです。それにより「現地→情報→現地」という一つの循環がなされるようになりました。このような「情報」化は「現地」に標識を設置するのと同様の効果を有するものだととらえるべきなのだと思います。
この意義、すなわち〈登記制度が蓄積している情報によって筆界は明確になっている〉ということこそ強調すべきことなのだと私は思います。ところが「検討報告書(資料)」では、登記制度の蓄積している情報によっては、必ずしも現地の位置を一義的に特定することはできない、としてしまっているかのようです。というのは、「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)等に基づき,測量機器を使用して単に現地に表」すのでは、「本来の筆界点の位置を現地に再現」すること」はできなくて、「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)を基礎としつつ,各種資料や現況等の分析及び検討を行」わなければ「本来の筆界点の位置を現地に再現」することはできないのだ、というようにいたずらに問題を混乱させてしまっているのです。これは、「筆界確認情報に依存しない筆界認定」にまったく逆行するものだと言わなければならない、と思います。

このようなことを言う「検討報告書(資料)」の意図は、おそらく「広範囲の図面情報」たる14条1項地図の場合には、「一筆地の図面情報」である地積測量図、判決書図面よりも信頼性が高い、ということを言いたくて、必ずしも境界標の設置状況を考慮する必要がなく、この「イ」の「画地調整」でも「筆界認定」できるのだ、と言いたかったのかと思われます。14条1項地図の場合には「一定の範囲の各土地の座標値と現地の状況との位置関係を全体として照合、分析を行い、現地における元々の筆界点の位置を画地調整して導き出すことにより、一定の範囲の整合性が確保される」から必ずしも境界標の設置状況を考慮する必要がないのだ、という考え方です。しかし、今括弧書きの中で言ったことというのは、先にも述べたように、その14条1項地図を作成する際の筆界認定に当たって行われた(はずの)ことなのであり、今更その成果品たる14条1項地図を前にして行われなければならないことではないのです。「現地→情報→現地」という循環で言えば、第一の「現地→情報」の段階で「画地調整」はなされるものであり、第二の「情報→現地」の段階で行われるべきものではないのです。しつこいようですが、あらためて言っておきたいと思います。

なお、さらに想像をたくましくすると、この「画地調整」というのは、「すべての筆界点についての座標値が一定方向に一定距離だけずれているような場合」が想定されているのかもしれません(古い国調で基準点そのものがずれている場合、ありえることです)。その場合、たしかに「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)等に基づき、測量機器を使用して単に現地に表した」のでは不合理な結果を生み出してしまうでしょう。この場合、「画地調整」をする必要があるし、「画地調整」をすれば十分だ、ということになるかもしれません。しかし、そのようなケースというのはどれくらいあるのでしょう?例外中の例外と言うべきものでしょう。そんな例外中の例外のことをわざわざ6つ(「ア」から「カ」)しかない「要件」の中に入れる必要があるとは思えません。そうではなく、基本はあくまでも「筆界点の座標値等の数値情報(距離,角度等)等に基づき、測量機器を使用して単に現地に表した」点を「現地復元性を備えた信頼性ある資料」を現地に復元したものとして「筆界」と認定できる(資料についての要件)という点に置いて、その上で無条件にではなく所要の検証を行う必要がある(検証についての要件)、としておくべきなのだと思います。

以上、本来なら改めて論ずる必要もない当たり前のことを長々と言っていて、私自身空しくなっているのですが、とても基本的な問題をもはらんでいる、ということなのだと思いますのでもう少し続けます。次回は、「エ」の筆界特定に関することとして、また今回と同じようなことを言うようにしなければいけないと思っています。