大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界認定の在り方に関する検討会」について・・・連載①

2020-09-11 12:42:06 | 日記
ずいぶんと長い間、ブログの更新をせずに来ました。特に事情があった、ということではないのですが、自分が書かなければいけないと思うようなことがなく、ズルズルと月日が過ぎました。
その状態に大きな変化はないのですが、そろそろ「最後」に向けて言うべきことは言っておきたいとも思い、最近の重大トピックだと私の思う「筆界認定の在り方検討会」について、何回かに分けて書いていきたいと思います。             


「筆界認定の在り方に関する検討会」が開催されている、ということです。この検討会は、一般社団法人金融財政事情研究会が主催して法務省、財務省、国土交通省等の関係省庁、弁護士、土地家屋調査士、司法書士、法務局の実務家、有識者などが参加して「筆界認定の在り方」等に関して検討を行うもの、だといいます。
具体的には、土地の表示に関する登記(表題登記、地積更正登記、分筆の登記)の審査、登記所備付地図作成作業における筆界を調査・確認する際に、筆界を接する各土地の所有者の当該各筆界に係る認識が合致していることを証するものとして、各土地の所有者の全員が立ち会い当該筆界を確認したことを証する情報(「筆界確認情報」)の提供を求め、登記官が筆界を認定する際の有力な証拠として取り扱っている、という現状があるわけですが、これが不動産取引の阻害要因となっているとの指摘がなされている(確認情報を得るための労力が過大となるケースや、隣地所有者が不明であるケースでは確認情報を得ることに実際困難を伴い、そうすると分筆等が進まない)とのことで、そのようなことを受けて
「本検討会は、一部の場合に、確認情報の作成・提供を不要又は軽減することを検討するものである。」(登記情報702号2020.5伊藤栄寿上智大学法学部教授)

とのことです。
私は、以前より登記実務における「筆界認定」のあり方、特に「筆界確認情報」をあまりにも偏重し、過度に頼り切っているあり方には大いに問題があると思っていました。特に最近の社会情勢の変化から、人びとの土地に対する意識や境界に対する認識が大きく変わってきている中にあって、このような状態を続けていくことは、社会経済活動への支障となっていくのではないか、特に国際化の進む中で一つの非関税障壁として国際問題にもなってしまうのではないか、と危惧していました。
ですので、この「筆界の在り方検討会」は、まことに時宜にかなったものであり、意義は非常に大きいと思います。特に私たち土地家屋調査士にとっては、最重要のものと言えるのだと思います。
「登記情報」誌の報告(706号)によると、検討会はすでに「1月29日の第1回会議及び同年6月19日の第2回会議に引き続いて、同年7月29日に第3回会議が開催された。」とのことであり、次回では「取りまとめ」がなされるそうです。どのような形で取りまとめられるのか期待するものですが、その期待感から、いくつか思うところを述べることとします。

1.前提としての「筆界確認情報」をめぐる現状認識
(1)共有者全員の筆界確認情報?
率直に言って不安を覚えるのは、この「筆界確認情報」をめぐる検討がどれほど「現実(実態)」に即して行われているのか?ということです。
たとえば端的な例として、第3回検討会について、「登記情報」誌(706号)が次のように報告している事柄があります。
「第3回会議では、・・・『筆界確認情報の作成主体が複数であり得る場合において、そのうちの一部の者の作成した筆界確認情報で足りるとすることが考えられないか』という問題設定の下、以下のとおり、検討・議論が行われた。」
「第一に、「隣接土地に共有者又は未登記相続人の一部の者が占有しているケースではその者の筆界確認情報で足りるとすること」について検討された。
「第二に、「隣接土地に占有者が存せず合理的な探索をしてもなお共有者又は未登記相続人の一部の所在等が知れないケースでは所在等を把握することができた共有者又は未登記相続人の筆界確認情報で足りるとすること」(以下省略)
この問題設定では、「ある土地が複数の相続人によって共有されている場合には、原則として、共有者全員(相続人全員)の筆界確認情報の作成・提供が必要とされていることが多い」という現状認識がベースにあるようです。だから、「そのうちの一部の者の作成した筆界確認情報で足りるとすることが考えられないか」という問題設定がなされるわけです。
しかし、私はこの現状認識自体に疑問を持っています。私の知る「現実」は、このような場合には「そのうちの一部の者の作成した筆界確認情報で足りるとすること」が実際になされています。所有権界についての確定協議であれば全員でするものでなければならない、ということになるのでしょうが、「筆界確認」はそれとは異なり「客観的に固有」な筆界に関するものであり、筆界認定の一資料にすぎない、という建て付けの下で求められているものですから、「共有者又は未登記相続人(の共有)」の場合、その中の誰かが占有している(上記第一)とか、その中に所在不明の者がある(上記第二)場合にはもちろんのこと、たとえそのような事情がないとしても、一部の者の「筆界確認情報」をもって足りるとする取り扱いが現実にはなされているものと思います。
これは、私の知る範囲内のことであり、「法務局によっては、一定の場合に確認情報を求めないこともあり、統一がされていない」(前掲伊藤教授)ということですので、全国的な「現実」については確言できませんが、理論的に考えてもこのような取扱いが一般的であるべきだと思いますし、そうでないという話は聞いたことがありません。またもしも、このような場合に「共有者全員の筆界確認情報が必要」というような運用が実際になされているとすると、それこそ筆界認定がなしえないとして分筆登記等ができない事案が続出してしまい、不動産取引の大きな阻害要因になっていることでしょう。事態はそこまでは行っていないのだと思います
そして、そうだとすると、検討会の第三回会議において検討した議論というのは、ドン・キホーテが風車を巨人だと思って突撃したように虚構に対してなされたものであり、そこから新しい方向性が見えてくるわけではないように思えてしまいます。
もちろん、このような検討を行い、「一部の者の筆界確認情報で足りる」という現状に即した結論を出すとかか、さらに進んで「そのような場合には筆界確認情報を求めること自体を不要とする」というような結論を出す(ために議論する)ということには意義がある、と言えるでしょう。しかしそのためには、しっかりとした事実に関する確認とその事実認識の共有が必要なのであり、それがきっちりとなされているのか?ということについて疑問と不安を抱かざるを得ないのです。
・・・・以下、かなり長い「連載」として、3日おきくらいに書いていきたいと思います。


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