大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

今年のベストセラー本―「聞く力―心を開くための35のヒント」(阿川佐和子  新潮新書)

2012-12-06 06:21:04 | 本と雑誌

今年の本のベストセラーは、阿川佐和子さんの「聞く力」だったそうです。売上部数80万部。ミリオンセラーがでなかったのは、出版業界の厳しい状況を示している、とのことです。

この本、私も春頃に読みました。阿川さんのインタビューはテレビや週刊誌で見ていて、気持ちのいい聞き方だな、と思っていたので、その「聞く力」の秘訣が示されているのか、と期待を持って読みました。

大体、何かをする時に、あらかじめ期待を持ってしまうと外れることの方が多いようです。読中読後の感想としては、「ちょっとがっかり」でした。

なぜがっかりしたか?一言で言えば、私の「偏見」ですね。阿川さんの個人的な事情の上に書かれているものにすぎないように思えたのです。言わば、「世襲議員による選挙運動講義」を聞いた、というような感じです。現在の阿川さんが、ご自身の能力と魅力で活躍されている、というのは確かなことだと思うのですが、スタート地点で「阿川弘之の娘」というアドバンテージのあったことも確かなことです。まず、そこに引っかかってしまう、というのが私の偏狭なところでしょうか・・・。

でも、今回、これを書くためにパラパラと読み返してみると、やっぱりなかなか面白いです。ADRの研修などで何度も聞いていささか食傷気味の「技法」を、単なるテクニックとしてではなく、「人間への共感」を基礎におく関係性の表現としてとらえるべきことが、興味の持てる実例を交えて示されています。

いくつか紹介します。

「一対一の言葉のやりとりは、案外、繊細なものです。目の動かし方一つ、息の吐き方一つで、『もしかして、自分との会話を楽しんでいないのかな』と疑心暗鬼になります。そういう不信感を相手に抱かせないためにも、私はできるだけ余計なものを排除して、会話に集中するように心がけます。質問の内容はさておき、『相手の話をしっかりと聞いていますよ』という態度で臨み、きちんと誠意を示すことが、まずはインタビューの基本だと思うからです。」

「『私』をひとつの基準に設定することは無駄ではありません。『私なら、そんなとき、どう思うだろう』『私だったら泣いちゃうぞ』。自分と同じであることを『正しい』とか『当然だ』と過度に思いこまないようにさえすれば、目の前の人が、『私』とどう違うのか、どのくらい近いのか遠いのか。そのスケールをもとに質問を広げていくことは、有効な手立ての一つとなります。」

「人の話はそれぞれです。無口であろうと多弁であろうと、語り方が下手でも上手でも、ほんの些細な一言のなかに、聞く者の心に響く言葉が必ず潜んでいるものです。・・・・・そして、そんな話をする当の本人にとっても、自ら語ることにより、自分自身の心をもう一度見直し、何かを発見するきっかけになったとしたら、それだけで語る意味が生まれてきます。」

「聞く力」ということを考えるのであれば、読んで損はないほんでしょう。なにしろ、今年のベストセラーでもありますし。