実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権法改正-異議をとどめない債権譲渡の承諾(1)

2015-06-02 10:37:00 | 債権総論
 債権譲渡の債務者に対する対抗要件は、譲渡人から債務者への通知または債務者の承諾である。改正法においても、この基本構造は変わらない。
 そして、譲渡人からの通知がされたにとどまる場合は、通知を受けるまでに債権者に対して生じた事由をもって、譲受人に対抗できた。この点も、改正法は変わらない。

 また、これまでは、異議をとどめない債務者の承諾は、条文上、抗弁が切断されるものとされていた。そのため、例えば債務者が同時履行の抗弁を有していたとしても、異議をとどめずに債務者が承諾すると、その抗弁を主張できなくなるというのである。弁済の事実でさえ主張できなくなると言われていた。全額弁済していたような事案では、異議をとどめずに承諾することは通常考えにくいが、一部弁済をしていた場合にはシビアな問題となり、残額のみが譲渡されたと思ってうっかり異議をとどめずに承諾すると、一部弁済の事実すら主張してなくなってしまうのである。
 ただし、異議をとどめずに承諾した場合に、およそどのような場合でも一切債権者に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できなくなってしまうのかというと、必ずしもそうではなく、これまでの判例上、譲受人が抗弁の存在を知っていた場合は対抗しうるとされていた。学説的には譲受人の無過失を要求する説も多かったが、この点について、昨日最高裁のホームページで公表された判例で、無過失を要求する新判例が登場した。

 この善意無過失を要件とする異議なき承諾についての考え方を、学説上、公信力説という。動産の即時取得と同じように考え、債務者が異議なき承諾をしたことに対して公信力を認めたものだと考えるのである。昨日の無過失を要求する判例は、この公信力説をそのまま採用したものと評価できるだろう。