実務家弁護士の法解釈のギモン

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改正会社法-支配権の異動を伴う増資(5)

2014-10-02 10:36:44 | 会社法
 もう一つの実務の対応として、以上のような慌ただしい手続をしなければならない可能性があるくらいならば、支配権の異動を伴う募集株式の発行については、取締役会限りでの発行を当初からあきらめ、株主総会決議事項とする定款変更をしてしまうという方法もあり得そうである。

 ただ、改正法を前提にすると、この方法には解釈上の問題も発生しそうである。

 本来であれば、取締役会決議事項を株主総会決議事項とすることは、定款変更をすれば可能である。ところが、支配権の異動を伴う増資の場合、改正法に従えば、既に純粋な取締役会決議事項ではなくなっており、条件付(10分の1以上の議決権を有する株主の反対という条件)で株主総会決議事項になってしまっているのである。しかも、ここでの株主総会決議は、定款をもってしても定足数を完全に排除することはできず、改正法によれば、最低3分の1以上の議決権を有する株主の出席が必要なのである。
 以上のような改正法を前提に、それでも一応は取締役会決議事項であるとして、定款変更で支配権の異動を伴う募集株式発行を株主総会決議事項とすると、定足数を完全に排除した株主総会で、支配権の異動を伴う募集株式発行が可能になってしまうということになりかねないのである。10分の1以上の反対が十分に予想されるような場合を想定すると、この変更後の定款の定めは改正法が要求する要件を、定款で緩めたことになりかねないことはおわかりいただけると思う。おそらくそれは改正法が予定していない事態であり、結局、以上のような定款変更は違法な方法とされてしまう恐れが強そうである。
 そこで、変更後の定款には、当該株主総会決議の定足数は3分の1以上であることを要するとしておけば、改正法の趣旨を損なわないと思われる。
 以上のことからして、支配権の異動を伴う募集株式発行を、定足数3分の1以上の株主総会での決議事項とする定款変更をすれば、株主総会決議で支配権の異動を伴う募集株式発行が可能になるといっていいのではないだろうか。