実務家弁護士の法解釈のギモン

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譲渡禁止特約付債権の担保(6)

2010-09-16 13:37:38 | 債権総論
 しかし,例えば取立権留保型(すなわち,譲渡担保に供した後も,実行時までは譲渡人に債権の取立権が留保されているもの)の債権の譲渡担保であって,その旨も債権譲渡通知に明示されているような事案であった場合ならどうか。この場合は,いずれにしても譲渡担保権が実行されるまでは,債務者にとっても弁済先が変更されるわけではないのであるから,実質的な不都合はないはずである。
 したがって,債権の譲渡担保も担保的構成を取ることを前提に,かつ,譲渡禁止特約付債権の質権設定を認めるべきとするならば,最低限,取立権留保型の譲渡担保は認められてしかるべきではないかと思うのである。そして,担保権者による担保権の私的実行も,担保権者による直接の取立の範囲に限られるのであれば(私的実行の方法が債権の第三者への売却換価という方法も考え得るが,譲渡禁止特約付債権にこの方法を認めることはできないであろう),実質債権質の直接の取立権と変わりはないので,債務者はこの程度の私的実行も甘受すべきなのである。

 実務上,債権の譲渡担保は,様々な方法で行われているようで,具体的事案を離れた机の上での抽象論があまり意味がない分野かもしれない。判例が「債権譲渡」と「債権の譲渡担保」を区別しないのも,区別すべきでない事案だからかもしれず,事案によっては区別した判断が示される判例も登場するのかもしれない。そのような曖昧な部分もあって,仮に譲渡禁止特約付債権の譲渡担保が認められる事案が存在するとしても,どのような譲渡担保まで認めるべきかは,また難しい問題ではある。
 しかし,よく,譲渡禁止特約は強い債務者が特約を付する場合が多いと言われる。裏を返せば,弱い立場の債権者がその債権の処分(担保設定等)をすることが出来ずに困るという事態が生じかねない状態といいうると思うのである。
 この,弱い立場にある債権者の持つ譲渡禁止特約付債権を担保化する方法があれば,中小企業の資金調達の便宜になる可能性もあると思われる。その意味においても,「債権の譲渡担保」を一律に「債権譲渡」と同様に考えて民法466条2項をそのまま適用することには,慎重さがあってもよいのだろうと思い,譲渡禁止特約付債権の担保について考えてみた次第である。