実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

一般社団,一般財団法人法(2)

2009-07-23 11:23:33 | 一般法人
 まずは,民法の規定の改正という点に焦点を当ててみたい。
 前提として、民法の法人の改正は、いわゆる、公益法人制度改革として改正されている。そのため、公益法人の規定であった民法上の法人について、そのほとんどを民法典から抜き出して別の法律を制定するという立法方法を採用している。その結果、民法の法人の規定は、わずかしか残っていない。残っているのは、法人の設立根拠(新民法33条)、法人の能力(新民法34条)、外国法人の規定(新民法35条)、登記による公示の規定(36条)及び外国法人の登記の規定(37条)のみが残り、法人の内容についての規定は、一切なくなる。
 ただし、改正前の民法34条に相当する規定は、民法33条2項となって、しかも重要な点で改正がある。ここが意外に重要である。
 改正前の民法34は、営利を目的としない(公益)法人についての設立に関する規定であった。ところが、新民法33条2項は、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営、管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。」と規定されることとなった。つまり、営利事業を営むことを目的とする法人の設立根拠は民法にその根拠を求めることになったのである。その意味において、会社法はこの新33条2項を受けた法律という理解になるのではないかと思われる。
 従来会社の規定は商法中に存在したため、会社法が商法法規の一部であることは明らかであったが、会社法制定後も実質的な商法法規の一部という前提があったと思われる。しかし、現行商法には、会社の規定であった旧第2編ごと完全に削除され、会社に関する規定はまったく何も残っていない。そして、今般の改正によって、営利事業を営む法人の設立根拠が民法に規定されたと理解できるならば、会社法は実質的には民法法規の一部であるという理解も、十分に成り立ちうるのではないか。
 この新民法33条2項の改正は、従前の会社法の解釈論に更なる影響を与える。法人の規定が上記のような形で新民法33条2項に規定されて営利事業を営む法人も取り込まれた上、その直後の新民法34条に、法人の能力として改正前民法43条と同じ条文が規定されることとなった(ただし、「又は寄付行為」という文言が「その他の基本約款」という文言に変わっている)。当然新民法34条に規定する法人の種類になんらの限定もない。したがって、営利事業を営む会社についても、新法34条が直接適用されるようになったと理解されるのである。
 会社の目的による制限についての従来の議論は、通説・判例は改正前民法43条が類推適用されるとしていたが、会社については改正前民法43条は類推適用されず、定款所定の目的は、単に機関の権限に対する内部的な制限に過ぎないという理解もかなり有力であった(改正前民法43条類推適用を否定する新会社法の解説書としては、神田秀樹・会社法第8版5頁)。しかし、新民法33条、34条のような規定になれば、会社も目的による制限は当然に適用(類推適用でもなく、直接適用である)されるとしか考えられないのである。現在の会社法の教科書も、このことを前提とした記述に変わっているようである。
 会社の目的に関する従前の判例を立法的に採用したと言ってしまえばそれまでであるが、判例の立場を否定する有力説もあったにもかかわらず、商法学者が改正議論に参加したか否かが極めて怪しいこの部分の改正は、やや唐突な印象を受けないではない。
 なお、今般の改正で、民法の社団法人・財団法人の規定は一切削除されるにもかかわらず、新民法33条2項の規定は、民法典の中に法人の組織等に関する規定が存在していることを前提とする条文となっているが、これはおそらく、相続財産法人(民法951条)を想定しているものと思われる。