実務家弁護士の法解釈のギモン

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詐害行為取消権の相対効?(3)

2009-06-23 10:25:23 | 債権総論
相対効で説明すると,詐害行為取消権を行使された結果,受益者や転得者は,債務者から取得した財産を失う結果になるにもかかわらず,その効力は当事者限りと説明することから,買主である受益者,転得者は,売主に対して追脱担保責任を追及することができないなどと,まことしやかに説明されることがある。しかし,それが本当に妥当だろうか。悪意の受益者,転得者は,詐害行為取消権を行使された結果,譲り受けた不動産等の財産を現に失うのである。いくら相対効だと言ってみても,財産を失う羽目になる受益者,転得者が到底納得できる話ではないはずである。相対効だとしても,受益者や転得者から債務者に対して不当利得返還請求権があるとも説明される場合があるが,債務者は無資力だからこそ,詐害行為取消権の行使が可能なのである。その債務者に対して不当利得返還請求権があったとしても,ほとんどの場合,空手形のようなものである。
 絶対効だとすれば,おそらく追脱担保責任が追及することにつき,理論的にそれほどの支障はないものと思われる。これは,転得者に対する詐害行為取消権が行使された場合に,転得者が受益者に対して追脱担保責任を行使する時に意味を持つ。それでは,この場合に追脱担保責任を追及される受益者は酷かどうか。私は,決して酷ではないと考えている。その理由は,他の取消権とのバランスである。親亀の売買契約が何らかの理由(例えば,強迫や制限行為能力)で取り消された場合に,基本的には子亀となる売買契約で譲り受けた第三者や,さらにその第三者からの転得者は,当然,その売主に対して追脱担保責任が追求できる。このことと同じである。
 また,追脱担保責任は,買主が悪意の場合であっても当然に適用されることが前提となっていることに注意が必要である(民法561条)。したがって,詐害行為取消権の行使によって財産を失うことになる転得者は,構造的に必ず悪意であることから保護に値しないという理屈も,あり得ない理屈だと思っている。悪意の譲受人であっても,追脱担保責任を適用する場面においては,法はそれなりの権利を認めているのである。

 まだまだつづきます。