実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社の破産と取締役の地位(1)

2009-06-05 13:32:58 | 最新判例
 最近の判例で,株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても,上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解すべきであるとする,最高裁判例(以下,「本件判例」とする。)が出た(最高裁平成21年4月17日第二小法廷判決)。出典は最高裁ホームページである。
   http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090417162419.pdf
 訴えの利益が消滅しないとする理由は,会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから,破産手続開始当時の取締役らは,破産手続開始によりその地位を当然には失わず,会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当であるという点にある。
 この判旨は,一見すると最近の学説に沿う判例かと思われ,この判旨を見る限りでは,特段の異論はないのかもしれない。
 また,本件判例は,株式会社の破産に関する新判例のようであるが,有限会社の破産に関する判例としては,本件判例も引用している,最高裁平成16年6月10日第一小法廷判決(本件判例が引用する文献は,民集58巻5号1178頁だそうである。以下,「平成16年6月判例」とする。)がある。ただし,この平成16年6月判例は,破産宣告当時の取締役であった者によって,破産宣告後に故意・重過失による保険事故が発生した場合に,保険免責条項に該当するか否かという,やや特殊な事案である。そのため,保険法の解釈に係る部分も大きい。そのためか,私はこの平成16年6月判例の存在を,本件判例が出るまで知らなかった。平成16年度の重要判例解説(山下丈・平成16年度重要判例解説,商法7判例)も見たが,この平成16年6月判例については主に保険法の解釈を主に議論している。このようなこともあり,平成16年6月判例は,会社法の判例としては目立たない判例だったといえようか。しかし,会社法の教科書レベルでも,この平成16年6月判例を,会社が破産しても取締役がその地位を当然には失わないとする判例として,既に取り上げている教科書も存在するようである。

 それはそうと,上記2判例(以下,「第一類型の判例」と言おう)を見る限りでは,従前の会社法や破産法の学説の議論に沿うものであり,それほど異論のないところかもしれないが,他の2つの最高裁の判例との整合性が,私にはどうしても理解できない。その一つが,最高裁昭和43年3月15日第二小法廷判決(民集22巻3号625頁,以下,「昭和43年判例」とする。)であり,もう一つが,最高裁平成16年10月1日第二小法廷判決(判時1877号70頁,以下,「平成16年10月判例」とする)である(以下,この2つの判例を「第二類型の判例」という)。

 つづく