実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分(4)

2010-11-04 10:31:49 | その他の法律
 ただし,前回のブログでの議論は,あくまでも建物収去義務があるのは,登記名義人ではなく,真の建物所有者だけであることを大前提とした議論である。問題は,本当にそれが正しいかどうかである。
 この点については,比較的近年の判例があり,民法177条の対抗要件に準じて登記名義人を相手にしてもよいという判例がある。つまり,判例からすると,建物の登記名義人はAであるが,既に当該建物をBに売却している段階で,誰を相手に建物収去土地明渡の訴訟を提起すべきかというと,Bが本来の相手方であるがAを相手方としてもよいということになるのだと思われる。
 そして,Aでもよいという理由を,判例は,民法177条に「準じて」と言う表現を用いていたと思われる。しかし,この点は,以前このブログでも指摘したように,民法177条は物権の「得喪」について登記を対抗要件としているのであって,法律は,明文で物権の「喪失」も登記を対抗要件としているのである。したがって,私は民法177条そのものの問題と考えている。
 ただし,訴訟係属中(口頭弁論終結前)に登記名義がAからBに移転してしまうと,訴訟承継の問題が生じ,これを看過し,Aを被告としたまま判決がなされても,強制執行ができなくなることになるのであろうから,登記の移転を防ぐために,建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分をするということになるのであろう。

 もしそうだとすると,建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分の登記は,物権の「喪失」という対抗要件が具備されないように,いわば消極的登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分と理解することができそうであるが,いかがであろう。

 私は,執行も保全も,実体法との接点があることなので,訴訟法的理解のみならず,実体法の解釈との整合性が必要な分野だと思っており,そのことを忘れたような解釈ではいけないと思っている。そのことを,建物収去請求権保全のための処分禁止の仮処分の理論的な点に基づいて述べてみたつもりである。考えすぎだろうか。

コメントを投稿