実務家弁護士の法解釈のギモン

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「ナカリセバ価格」

2011-05-02 10:25:26 | 最新判例
 ごく最近、会社法のある教科書を読んでいて、「ナカリセバ価格」という文字が目に飛び込んできた。問題となっているのは、組織再編等における反対株主からの株式買取請求権が行使された際の当該株式の買取価格たるべき公正な価格についての議論である。私は、この言葉はその教科書独特の言い回しだと思っていたら、なんと、その後ごく最近買取請求に関する最高裁の判例が登場し、この「ナカリセバ価格」という言葉が使われていたのには驚いた。私は知らなかったが、おそらく、会社法の専門家の間では普通に使われている言葉なのであろう。

 旧法時代は、買取価格について、「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」としていたのを、新法で単に「公正な価格」と改正し、その趣旨はシナジー効果を見込むべきであるからだとされている。しかし、シナジー効果が生じないような組織再編の場合の公正な価格は、結局旧法同様に、組織再編がなければ有すべき公正な価格といわざるを得ず、そのため、そのような価格を旧法時代のカタカナ用語を用いて「ナカリセバ価格」と表現しているのであろう。

 この判例の難しいのは、シナジー効果が生じない場合の市場価格ある株式の「ナカリセバ価格」について、その基準時は買取請求日だと言っている一方で、一般論としては、反対株主が株式買取請求をした日における市場株価は、通常、吸収合併等がされることを織り込んだ上で形成されているとみられることを理由に、同日における市場株価を直ちに同日のナカリセバ価格とみることは相当ではないといっていることである。
 この判例の言うところは理論的ではあるが、行うは難い気がする。現実には、基準日たる買取請求をする段階での市場価格は、必ず既に組織再編がされることを織り込んだ価格となっていることから、上記判例を前提に公正な価格を算定しようとすると、組織再編の公表がされる前の市場価格を前提に、そこから基準日たる買取請求日までの市場全体の動向等を考慮しながら加減計算をすることになるのだろうか。
 しかも、この判例の結論も、組織再編により企業価値が増加も毀損もしない場合には、買取請求日の市場価格等を用いることも裁判所の裁量の範囲内といって、結局買取請求日の市場価格そのものをもって公正な価格であるとする原審の判断を是認している。

 実務的に、実践するのが難しい判例のような気がするが、どうなのだろう。

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