実務家弁護士の法解釈のギモン

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定期建物賃貸借の書面による説明義務(2)

2010-07-21 10:17:29 | 最新判例
 ロースクールが設置している無料法律相談で私が担当した際,借地借家法38条2項所定の書面が,契約書と一緒に綴じ込まれて,契約書と一体として賃借人に交付しているという事案について,賃借人からの相談を受けたことがあった。相談者は問題の契約書を持参してこなかったので,実際の状況がどのようになっているのか,確認のしようはなかったが,証拠上,借地借家法38条2項書面の受け取りを示す本人の受領印まである事案だそうで,既に高裁段階で敗訴判決を受けており,上告するかどうかを悩んでいるようだった。
 正直なところ,現に更新がない旨の説明文書が一応存在し,かつ,その書類の受領印まである事案であるという以上,上告審でひっくり返すのは難しいのではないかと思ったが,その相談者の疑問も分からないわけではなかった。要するに,契約書と一体となっている以上,契約書と別の書面とは思っていなかったということなのであり,受領印も,契約書への必要な署名ということで,特に意識することなく業者が示す署名欄にいくつか署名しただけということのようなのである。

 そもそも,定期建物賃貸借契約を締結するに当たって,契約書を作成すれば,その契約条項のどこかに,必ず更新がないこととする条項が存在するはずなのである。だから,本来その契約書を熟読すれば,その契約が定期建物賃貸借であることは分かるはずである。それにもかかわらず,別途書面による説明を要求している趣旨は,契約書など読まない(常識的な契約となっているはずと思っているのであろう),あるいは契約書の内容が理解できない,という人がいることを前提に,更新がない契約であることを,借主に特に意識させる点にあるのだと思う。
 だからこそ,借地借家法38条1項の契約書とは別に,更新がないことを書面を交付することにより説明しなければならないのであって,そうだとすれば,契約書と一緒に綴じ込まれて見た目が契約書と一体となっている状況では,借地借家法38条2項の要件を満たしていないといってもよいような気もしているのだが……。

 上記最高裁判例は,当たり前といえば当たり前の判決ではあるが,たとえ公正証書で契約をし,更新がない旨を公証人役場で十分な説明を受けていた可能性があったとしても,別途説明文書を交付していない限り借地借家法38条2項所定の要件を満たさないとする以上,この判例は,更新がない旨の説明文書が契約書と一緒に綴じ込まれているような事案においても,借地借家法38条2項所定の要件を満たさないとする方向性が高い判例といえないだろうか。

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