弁護士法28条違反
つい先日の判例で,弁護士は係争権利を譲り受けることができないと定める弁護士法28条に違反するものであっても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではないとする最高裁判例が出た(最高裁平成21年8月12日第一小法廷判決・出典は最高裁ホームページ)。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090817153613.pdf
そして,係争債権を譲り受けた弁護士による債権仮差押えの申立を認めなかった原決定を破棄し,事件を原審に差し戻した。
この問題は,取締法規違反と私法上の効力の問題と共通する問題かもしれず,取締法規違反が,それのみをもって直ちに私法上の効力を否定することにはならないという一般論が妥当すれば,この判例のとおりなのかもしれない。
また,弁護士法28条の趣旨が,弁護士が依頼者を食い物にするようなことを防ぐ点にあるとすれば,依頼者からではなく,その係争権利の相手方から,係争権利の譲り受けの無効を主張させる意味がないという理解もあり得るのかもしれない。
しかし,弁護士法28条は,「弁護士は,係争権利を譲り受けることができない。」と規定して,係争権利の譲り受けそのものを明確に禁止した規定となっている。それにもかかわらず,当然には私法上の効力が否定されないというのは,いかにも分かりにくい。私法上の効力を否定することに格別の不都合があれば話は別であるが(不都合があるとすれば,例えば,訴訟提起前に譲り受けて時効期間経過直前に係争権利を譲り受けた弁護士が訴えを提起したような場合で,訴え直すと時効が完成してしまうような事例が考えられるか。),そのような特殊な事案はともかくとしても,一般的には私法上の効力そのものを否定しても,不都合は考えられないと思われる。
むしろ,本判例のように,私法上の効力を否定せず,保全命令の申立を認め,あるいは訴え提起を認めてしまうと,弁護士による係争権利の譲り受けの歯止めとしての実効性に疑義が生じかねないような気もする。本判例も,「他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別」という留保つきにはなっているが,公序良俗に反するような譲り受けかどうかを,事件の相手方が立証するのは,かなり困難だと思われる。
なによりも,法解釈のあり方として,わかりやすさというのも大切だと思っている。法律が「弁護士は,係争権利を譲り受けることができない。」と定めている以上,係争権利の譲り受けそのものが無効と解するのが文言上素直であり,わかりやすい。いわゆる,文言解釈である。そして,無効とすることに特殊な事案を除けば(特殊な事案は,個別に解決すればよいであろう)格別の不都合がないならば,私法上も無効とするのが,本来の法解釈のあり方だと思うのだが……。
事件が起きて訴訟事件等において法律を運用するのは,我々法律家かもしれないが,事件になる前に,あるいは事件にならないように法律を運用するのは,一般国民である。一般国民は,法の詳しい解釈など分からない可能性が高く,法律の形式的文言に従って日常生活を送る可能性が高い。本判例の事案においても,債務者は債権を譲り受けた弁護士からの請求など「無視していても構わない」,あるいは「無視しなければならない」と思っていたかもしれないのである。それにもかかわらず,いきなり仮差押えされては,債務者とすれば,「法律と違う」と思うかもしれない。「仮差押えされる可能性があるのなら,初めから誠実に対応しておけばよかった。」ということにもなりかねない。
私は,合目的的解釈の重要性を否定するつもりは全くない。むしろ,個別の事案を無視したような形式的な法の当てはめではなく,事案の特殊性に応じた法の柔軟な解釈,運用の重要性,必要性を大切にしたいと思っている。しかし,本判例は,弁護士法28条の一般的文理解釈の問題,原則論の問題である。原則論は,むしろ文言解釈に従って不都合がないならば(不都合が事例が生じた場合こそ,まさに柔軟な解釈・運用が必要となるのである),文言解釈に従うのが,一般国民に対する予測可能性という意味で優れていると思うのだが……。
つい先日の判例で,弁護士は係争権利を譲り受けることができないと定める弁護士法28条に違反するものであっても,直ちにその私法上の効力が否定されるものではないとする最高裁判例が出た(最高裁平成21年8月12日第一小法廷判決・出典は最高裁ホームページ)。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090817153613.pdf
そして,係争債権を譲り受けた弁護士による債権仮差押えの申立を認めなかった原決定を破棄し,事件を原審に差し戻した。
この問題は,取締法規違反と私法上の効力の問題と共通する問題かもしれず,取締法規違反が,それのみをもって直ちに私法上の効力を否定することにはならないという一般論が妥当すれば,この判例のとおりなのかもしれない。
また,弁護士法28条の趣旨が,弁護士が依頼者を食い物にするようなことを防ぐ点にあるとすれば,依頼者からではなく,その係争権利の相手方から,係争権利の譲り受けの無効を主張させる意味がないという理解もあり得るのかもしれない。
しかし,弁護士法28条は,「弁護士は,係争権利を譲り受けることができない。」と規定して,係争権利の譲り受けそのものを明確に禁止した規定となっている。それにもかかわらず,当然には私法上の効力が否定されないというのは,いかにも分かりにくい。私法上の効力を否定することに格別の不都合があれば話は別であるが(不都合があるとすれば,例えば,訴訟提起前に譲り受けて時効期間経過直前に係争権利を譲り受けた弁護士が訴えを提起したような場合で,訴え直すと時効が完成してしまうような事例が考えられるか。),そのような特殊な事案はともかくとしても,一般的には私法上の効力そのものを否定しても,不都合は考えられないと思われる。
むしろ,本判例のように,私法上の効力を否定せず,保全命令の申立を認め,あるいは訴え提起を認めてしまうと,弁護士による係争権利の譲り受けの歯止めとしての実効性に疑義が生じかねないような気もする。本判例も,「他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別」という留保つきにはなっているが,公序良俗に反するような譲り受けかどうかを,事件の相手方が立証するのは,かなり困難だと思われる。
なによりも,法解釈のあり方として,わかりやすさというのも大切だと思っている。法律が「弁護士は,係争権利を譲り受けることができない。」と定めている以上,係争権利の譲り受けそのものが無効と解するのが文言上素直であり,わかりやすい。いわゆる,文言解釈である。そして,無効とすることに特殊な事案を除けば(特殊な事案は,個別に解決すればよいであろう)格別の不都合がないならば,私法上も無効とするのが,本来の法解釈のあり方だと思うのだが……。
事件が起きて訴訟事件等において法律を運用するのは,我々法律家かもしれないが,事件になる前に,あるいは事件にならないように法律を運用するのは,一般国民である。一般国民は,法の詳しい解釈など分からない可能性が高く,法律の形式的文言に従って日常生活を送る可能性が高い。本判例の事案においても,債務者は債権を譲り受けた弁護士からの請求など「無視していても構わない」,あるいは「無視しなければならない」と思っていたかもしれないのである。それにもかかわらず,いきなり仮差押えされては,債務者とすれば,「法律と違う」と思うかもしれない。「仮差押えされる可能性があるのなら,初めから誠実に対応しておけばよかった。」ということにもなりかねない。
私は,合目的的解釈の重要性を否定するつもりは全くない。むしろ,個別の事案を無視したような形式的な法の当てはめではなく,事案の特殊性に応じた法の柔軟な解釈,運用の重要性,必要性を大切にしたいと思っている。しかし,本判例は,弁護士法28条の一般的文理解釈の問題,原則論の問題である。原則論は,むしろ文言解釈に従って不都合がないならば(不都合が事例が生じた場合こそ,まさに柔軟な解釈・運用が必要となるのである),文言解釈に従うのが,一般国民に対する予測可能性という意味で優れていると思うのだが……。
かなりゴリ押し過ぎると私も感じています。