実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

株主総会と敵対的企業買収(1)

2009-05-29 19:52:22 | 会社法
 次は、最新判例についてと思っていたのですが,その前に時事に関連して……

 昨日は,衝撃的な株主総会が開催されたようである。会社提案による取締役選任議案の一部が否決され,株式大量買付者からの株主提案に係る取締役選任議案がすべて可決されたというのである。その結果,ある意味では予期せぬ経営交代が実現したといえ,表面的には,いわゆる敵対的企業買収の成功例第1号ということになろうか。
 この会社は,昨年の株主総会でも,取締役選任議案は否決されたということでマスコミでも報道されていた。今にして思えば,昨年の株主総会の段階で,すでに敵対的買収の成功が目前に迫っていたということだったのかもしれない。
 また,他の企業経営者たちには,一般株主の支持を得ておくことの重要性が改めて認識させられる出来事だったのではないだろうか。

 私が学生だったバブル経済の絶頂期は,株主総会といえば,いわゆる「シャンシャン総会」が当たり前だった。いかに短く株主総会を終わらせるかが,経営者の株主総会対策としての手腕であって,株式会社の株主軽視も甚だしいものだったようである。株主総会で積極的に発言をしようとする株主も,そのほとんどがいわゆる「総会屋」であって,株主総会を混乱させること,およびそれを脅しとして会社から金を引き出させることだけを目的としており,およそ株主権の行使としての正当性のない株主がほとんどだったようである。当時の会社法の教科書も,株主総会については,総会屋対策と,いかに株主総会を活性化させるかということが課題であるかのように書いてあった記憶がある。
 もっとも,これはあくまでも上場企業を念頭に置いた現象であり,かつ,上場企業を念頭に置いた教科書の記述であることに留意すべきであろう。上場していない会社の場合,おそらくそのほとんどの株式会社は大株主が存在し,その株主の意のままに会社が経営されてきたと思われる。中小企業に至っては,「大株主=代表者」の意思一つで会社が動き,零細の株式会社に至っては,適式に株主総会を開いたことすらないという会社も数多く存在するのではないか。
 中小企業の現状は,今でも変わりはないと思うが,上場会社の株主総会の現状は,当時とは隔世の感がある。上場会社の株主総会に対する対応は,株主に対してなるべく丁寧に説明するという意識に変わりつつあり,会社によっては,株主優待などを積極的に取り入れたり,株主総会において何らかの催しを開催するなど(自社商品をアピールする場となっていたり,一部音楽業界に属する会社などは,ミニコンサート同様の株主総会を開催している会社も存在するようである),一般株主の参加を積極的にアピールする会社すら存在する。おそらく,いま「シャンシャン総会」を行う上場企業は,市場から見放されてしまう存在となってしまうであろう。
 いわゆる「総会屋」も,消滅こそしてはいないものの,目立たない存在となってきたような気がする。今,株主総会で活躍する株主は,「総会屋」ではなく,広い意味での「機関投資家」といわれる存在になっている。いわゆる「M&A」に直結する話であり,会社経営者にとってやや耳障りな言葉で言えば,「敵対的買収」という言葉となる。
 昨年あたりはまでは,こうした市場の動きを受けて,上場会社の株主総会対策も,総会屋対策よりも,買収防衛をいかにするかが,もっとも注目される焦点となってたと思われ,昨年の株主総会で買収防衛策を導入した上場企業も少なからず存在していたと理解している。
 そして,今年はついに,株主総会において,買収者の意思による経営交代が起きたのである。

コメントを投稿