実務家弁護士の法解釈のギモン

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全部取得条項付種類株式と反対株主(1)

2012-04-10 09:55:27 | 会社法
 上場会社が全部取得条項付種類株式を利用して実質的なキャッシュアウトを目論む場合、これに反対の株主の権利行使に関して、最高裁はかなり厳しい態度を示している。
 問題は、個別株主通知の問題である。

 まずは、個別株主通知がどのようなものかを説明する必要があるかもしれない。
 上場会社の場合、上場基準として「社債、株式等の振替に関する法律」(以下、「社債株式振替法」という)に基づいて、発行する株式について振替機関が取り扱うものとして取締役会で決定していることが必要となっている(いわゆる、株券の電子化である)。このように振替機関が取り扱う株式のことを、振替株式という。
 この振替株式に関して株主としての権利(少数株主権等)を行使するには、株主が口座を開設している証券会社等の口座管理機関を経由して申し出をすることによって、振替機関から会社に対して当該株主の氏名、住所、株式数等を通知してもらう必要がある(社債株式振替法154条3項)。これが個別株主通知と言われる。

 なぜこのような手続が必要かというと、振替株式の場合、株式の流通は振替機関や口座管理機関による口座管理簿に基づいて行われ、株主名簿の名義書換は基準日など一定の日に一斉に行われる場合(この場合は、振替機関から会社に対し、全株主の氏名、住所、株式数等が通知され、総株主通知が行われる)のほかは、行われないからである。そのため、総株主通知が行われてから、次の総株主通知までの間の真の株主が誰であるかは、会社には分からないのである。
 こうしたことから、少数株主権等を行使する前提として、自らが株主であることを会社に認識してもらうために、基準日時点の権利行使をする場合を除いて、個別株主通知が必要なのである。しかも、問題なのは、この個別株主通知は、株主であることの一つの証明手段という位置づけではなく、少数株主権等を行使する実体的要件となっているということなのである。