実務家弁護士の法解釈のギモン

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金融商品取引法違反(1)

2012-04-03 10:00:04 | その他の法律
 今話題になっている、年金資金2000億円(これも誇大広告だったらしく、実際の預かり資金は1500億円程度という報道もある)の大半を某投資顧問が消失させてしまった問題。そのとんでもなさには呆れ返ってしまうばかりである。
 ところが、これを刑事事件としてみた場合、詐欺罪として立件できないと軽い刑しか待っていないというネット上の記事を目にした。

 ここでそもそもの問題は、投資顧問業者が投資運用業として顧客から預かった資金を投資に回した結果、得するか損するかはもともと保証の限りではないという点である。それが投資の本質である。そのため、年金資金2000億円が消失したとしても、その資金を投資にあてた結果損失を被ったに過ぎない場合、そのことそのものを刑事的に問題とすることは出来ないということである。民事的には誠実公正義務違反や受任者としての善管注意義務違反が問題となることはあり得るかもしれないが、あくまでも民事的損害賠償の話であって、資産の大半を消失させてしまった会社にいくら損害賠償を請求しても、某投資顧問会社にそれ程の資産があるとは思えない。
 仮に一億単位の損害賠償が現実に回収できたとしても、損失全体からすれば、たかが知れている。そこで、刑事事件でなるべく重く処罰したいという処罰感情となる。

 刑事的に問題となりそうなのは、まずは運用報告書の虚偽記載であるが、これはわずか6月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金である。しかし、損失の規模からして、これでは全く話にならない。
 いま証券取引等監視委員会が強制調査に乗り出した嫌疑は、偽計による契約のようである。この嫌疑だと、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が法定刑である。両罰規定により法人には3億円の罰金を科すことも出来るが、会社は解散してしまえば、痛くもかゆくもなくなってしまう。やはり事件の規模の大きさからして、この程度の刑罰では国民感情が納得しないだろう。
 もし、詐欺罪での立件が可能ならば、10年以下の懲役刑が科される。しかし、詐欺罪となると、とたんに立証が難しくなる。騙す意思があったかどうかが問題となるからである。某投資顧問会社の社長は、国会での参考人質疑では「騙す意思は全くなかった」と答弁していたようである。これが真実かどうかは全く分からないが、詐欺罪での立件となると、大きなハードルがあることは間違いがない。