実務家弁護士の法解釈のギモン

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金融商品取引法違反(2)

2012-04-05 09:40:58 | その他の法律
 ところで、私は、金融商品取引法にもっと使い勝手の良い条文が存在していると思っているのだが、それはダメなのだろうか。
 金融商品取引法157条2号に、虚偽文書による財産取得の禁止の規定がある。条文をそのまま掲載すると、

 「有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、重要な事項について虚偽の表示があり、又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書その他の表示を使用して金銭その他の財産を取得すること。」

が禁止され、これに違反すると10年以下の懲役や1000万円以下の罰金が待っている。法人には7億円の罰金がある。罰金刑の併科及び法人に対する処罰があるだけ、詐欺罪より重い。
 また、この規定は構成要件が実に広い。取引の内容として「有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等」とあるが、取引の種類や証券の種類に限定はないと解されているようなので、投資運用のための投資一任契約もこの中に含めて考えられるのではないのか。そして、「重要な事項について虚偽の表示」がある文書を使用することが要件となるが、文書に限定はないと解されているようなので、運用実績を偽った運用報告書その他の資料を用いて顧客に勧誘すれば、ここにいう虚偽表示文書に当たることは明かである。構成要件上重要なのは、虚偽表示文書を用いる意思があれば、故意として十分と解釈できる点である。故意の内容として騙す意思や損害を与える意思などは必要とは考えられない構成要件となっているのである。その意味で、詐欺罪よりも数段立証が容易である。そして、「財産を取得」することが要件となるが、虚偽表示文書を用いて投資一任契約を締結させ、金銭を預かれば、この要件に該当すると思われる。
 この規定は使えないのだろうか。

 ちなみに、金融商品取引法157条は3つの構成要件が規定されており、いずれもかなり構成要件が広い。特に1号は包括規定的な規定ぶりとなっており、構成要件の明確性が問題であって、罪刑法定主義の見地から問題があるという見方もないわけではないようである。ただし、最高裁判例は1号も明確性の問題はないとしているし、問題の2号は、1号の規定ぶりよりははるかに明確性が高い。そうであれば、157条2号を適用することに躊躇する必要はなさそうな気がするのだが。
 あるいは、「有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等」に、投資一任契約は含まれないということなのだろうか。

 いずれにしても、私には、現行法では運用する資金の規模に関係なく法定刑が定められている点に問題があるような気がしている。運用規模に応じた法定刑の定めをした方がよさそうである。そういう定めは出来ないだろうか。