Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Lorence Hud

2007-06-05 | SSW
■Lorence Hud / Lorence Hud■

 中学生の頃、Mike Oldfield が弱冠 19 歳で「Tubular Bells」を制作したという事実を知ったときに、僕はプロのミュージシャンになろうなんてことはあきらめました。 というのは全くのウソで、僕はプロ・ミュージシャンになろうなどと思ったことは一度もありません。 しかし、若くして開花した Mike Oldfield の才能(というよりも執念?)には、多くのアマチュア・ミュージシャンが衝撃を受け、たじろいだことしょう。 当時の Mike Oldfield は多重録音によるマルチプレイヤーの代名詞だったと思います。 あとは Todd Rundgren かな。 いずれにしても、まだコンピューターや打ち込みが出る前の話です。
 そんな彼らとは異なり、全く無名のまま忘却されていったマルチプレイヤーが今日取り上げた Lorence Hud です。 彼のマルチ度合いは、並外れており、100% 自身による演奏であるばかりか、作曲・アレンジ・プロデュースに至るまですべてを彼一人で行っています。 こういったミュージシャンも珍しいでしょう。 睨み付けるような迫力のあるイラストからも、彼の自信が必要以上に伝わってきます。 そんなこのアルバムは、過日ご紹介した Bruce Miller と同様に、カナダの A&M から 1972 年に発表されました。 

  アルバムは、良くも悪くも Lorence Hud を聴く人に妙な後味を残す曲「Sign Of The Gypsy Queen」でスタートします。 アップで疾走感と悲壮感が同居するようなナンバーなのですが、ボーカルのエコーの影響でしょうか、彼自身がジプシーの血を引いているかのような印象を残します。 このような曲ばかりなのかと思うと、ややうんざりしてしまうのが、この 1曲目のマイナス効果ですね。 つづく「Where To Begin?」は、しっとり系のワルツ。  「Grab Hold & Hang On」はスケール感のあるバラードで、前半のハイライト。  ピアノをバックに歌いあげる様はなかなかの貫禄です。  軽快なピアノが前面に出たハッピーなナンバー「Kind Hearted Woman」につづく「Master Of Pantomime」は、スロウなワルツ。 アコーディオンがもう少し前面に主張してくれれば良かったのにと思うアレンジです。

 おだやかな空気感を漂わせる「Summer Rose」で B 面はスタート。 美しいメロディにくらべて、単調すぎるベースラインが面白くありません。 これは、自分で全部やろうとするマルチプレイヤーの悪いところですね。 アルバムの弱点がすぐに露呈してしまいます。  「Lost In The Crowd」も明るく伸びのある健康的なサウンド。 つづく「We’ll Get That Good Feelin’ Tonite」は、ゆったり系のワルツ。 これで 3 曲目ですね、こうしたワルツは。  ほぼギターのみのシンプルな「Someone I Know」は、インタリュード的な存在か。  シリアスな曲調の「Siren In The Night」につづいて、4 曲目のワルツ「Travelin’ Show」で、ややセンチメンタルにアルバムは幕を閉じます。

 こうして、アルバムを最後まで通して聴いてみての感想はただひとつです。 それは、このアルバムの最大の欠点が、Lorence Hud がすべての楽器の演奏にこだわったことだということです。 先にも書きましたが、ベースそしてドラムスの単調さは、数曲聴いただけでわかります。 ピアノはまあまあなのですが、ギターの音色もまろやかさに欠けますね。 このアルバムは、ふつうにセッション・ミュージシャンをバックに従えてレコーディングすれば全然ちがった表情をみせたのだろうと思います。 芸達者がゆえに陥った落とし穴。 もし、自分が Lorence Hud のような多才だったら、同じ過ちを犯したにちがいないと思うと、安易に彼のことを責めるのもどうかと思ってしまいます。
  しかし、その答えは彼のセカンド・アルバムにあるはずです。 このアルバムがどのような内容なのかによって、Lorence Hud の今作への自己評価がわかることでしょう。 聴いてみたくなりましたが、実はセカンドは持っていないのです。 このブログを書くまで、セカンドの存在すら知らなかったのですが、機会があったら買ってみようかと思っています。 すでに聴いている方がいらしたら、感想などをコメントください。

 

■Lorence Hud / Lorence Hud■

Side-1
Sign Of The Gypsy Queen
Where To Begin?
Grab Hold & Hang On
Kind Hearted Woman
Master Of Pantomime

Side-2
Summer Rose
Lost In The Crowd
We’ll Get That Good Feelin’ Tonite
Someone I Know
Siren In The Night
Travelin’ Show

All instruments & vocals by Lorence Hud

Instruments used:
Grand piano , Glockenspiel , Organ , Vibes , Mellotron , Tenor Saxophone , Clavinet , Guitar (acoustic & electric) , Bass , Drums , Harmonica

Written , arranged & produced by Lorence Hud

A&M Records SP 9004