Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Hoover

2007-06-17 | SSW
■Hoover / Hoover■

  自らの墓に腰掛けたジャケットが発売当時に話題になったかどうかは知りませんが、今日取り上げたのは、正体不明のシンガーソングライター Hoover のファーストにして、ラストアルバム。 簡単に言うと唯一のアルバムです。 このジャケットを見るたびに、その事実を妙に納得してしまいます。
  このアルバムに関する情報は、メジャーレーベルからのリリースにしては極めて乏しいです。 発売は 1969 年説と 1970 年説がありますが、たしかにレコードからは確定できません。 Hoover の本名も、W.Hoover まではわかるのですが、そこまでです。 バック・ミュージシャンのクレジットも無いために、どこでレコーディングされ、どんなミュージシャンが参加したかのかも分からないのです。 こんな状況では、語りようがありません。

 アルバムはアコギの穏やかなカッティングで始まる「I’ll Say My Words」でスタート。 この曲はアルバムのなかで一番元気のある曲とも言えます。 しかし、この調子で全編が続くと思ってはいけません。  曲の後半は、三味線みたいな音のシタールのソロが延々とつづき、1960 年代後半ならではの空気感が伝わってきます。 つづく「Leave That For Memories」は、アルバムの中でも光る曲。 頼りなげなボーカルとメロウなサウンドが妙にマッチして、心に忍び寄ってきます。  「Kommst Du Doch Mit Mir (Come With Me)」は、何語なのでしょうか。 Hoover もしくは両親の祖国のことでも歌っていると推測されるマイナー調で暗めなナンバー。  「That’s How A Woman’s S’pose To Be」 アップにしては淡々とした曲。 音楽とは関係ありませんが、Suppose To Be をタイトルのように略して書くのは初めてみました。 A 面ラストの「Free To Run Free」は、タイトルとは裏腹にしんみりした地味な曲。 控えめで寡黙なアレンジが好印象ですね。 A 面では「Leave That For Memories」と並ぶ佳作だと思います。

  レコードを裏返しましょう。 「All That Keeps Ya Going」はミディアムなナンバー。 いつものようにヤル気なさげな Hoover のボーカルを聞くと、軽い睡魔に襲われそうです。  「そんな男じゃないよ」と歌う「I’m Not That Kind Of Man」は、バックの演奏が聴こえるか聴こえないかという程に奥まっています。 つづく「One Man’s Family」は、バンドらしいまとまりのあるフォーキーなナンバー。 スワンプ的なテイストもありますが、ディランに近いものあります。 「Games」は、ダルな雰囲気のブルーズ。  ボーカルよりもベースのほうが目立っているような気もします。 ラストは、架空のミュージカルのテーマ曲というイメージなのでしょうか。「Theme From ‘tick tick tick’ 」というタイトルです。 曲調もそんな感じで、ラストシーンに出演者全員が登場し、♪Set Yourself Free♪と合唱しているみたいです。 この曲はアルバム全体からは異色なのですが、ラストに配置されていることもあり、このアルバムの中から自分の頭の中に残っている唯一の曲なのです。 逆に言うと、このラストのせいで、他の曲をすべて忘れてしまいます。 それはそれで構わないのですが、Hoover というミュージシャンがこのアルバムで何を表現したかったのか、何かを伝えたかったのは、あるいはそんな深くは考えていなかったのか…みたいな思いがリピートされるサビとともに頭の中をめぐっていくのです。

  何か特筆すべき点があるかというと何もないといったほうがいいかもしれないこのアルバムですが、その微妙にポイントを外れて位置しているようなたたずまい、シンプルなアレンジと眠たげなボーカル、そして圧倒的な情報不足から、この作品は妙に孤立した存在になっています。 誰かが掘り起こさない限りは、Hooverの音楽は、墓の下で静かに眠ったままなのです。



■Hoover / Hoover■

Side-1
I’ll Say My Words
Leave That For Memories
KOmmst Du Doch Mit Mir (Come With Me)
That’s How A Woman’s S’pose To Be
Free To Run Free

Side-2
All That Keeps Ya Going
I’m Not That Kind Of Man
One Man’s Family
Games
Theme From ‘tick tick tick’ (Set Youreself Free)

Produced by Chuck Glaser
Strings and Horn Arranged by Bill Pursell
Arrangements by Hoover

All Songs written and composed by Hoover

Epic Records BN 26537