Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Steve Bateman

2007-06-28 | SSW
■Steve Bateman / Someday■

  人気のない廃墟のような街角のベンチに座る男が一人。 おそらく、この街では何もすることがないのでしょう。 本を読むか、昼寝をするか、あるいは太陽の出ている時間からバーボンを煽るか…。
  そんな C 級な予感に満ちた Steve Bateman の唯一のアルバムは、1976 年に発表されました。 正直、このジャケットではなかなか手が伸びないのですが、内容はそれほどひどいものではありません。 もしかして、絶望的に陳腐なカントリーかもしれないという恐怖すら感じるのですが、実はそうでもない内容となっています。 そもそも、Steve Bateman がギターをかき鳴らす曲が少なく、ピアノや女性コーラスを交えたミディアムなバラード集といった趣のアルバムなのです。

  アルバムには、2 曲の Beatles カバーが収録されており、この 2 曲が中々の出来栄えです。ななかでも「Drive My Car」は、Steve Bateman の大胆なアレンジと歌いこなしが格好良く、アルバム最大の聴き所になっています。 「Drive My Car」は初期 Beatles のナンバーの中では、珍しくも素行が良くないというか、不良少年みたいなイメージが強い曲だと思いますが、そこを上手くついてスワンプ味を付け足したという印象です。 もう 1曲の「I’ve Just Seen A Face」は「夢の人」という邦題で有名な Paul McCartney の曲。 オリジナルからして、カントリー・タッチな曲ですが、Steve Bateman はノンフライ・オイルのようにさりげなく軽く揚げています。

  他の収録曲では、ピアノとストリングスを基調としたセンチメンタルなバラード「Full House」や、 アルバムタイトル曲の「Someday (We’ll Do It Right)」が光っています。 ともに音数の少ないピアノとバックの女性コーラスとストリングスにまろやかに包まれた洋菓子のように甘い名曲に仕上がっています。 抑制された音作りと、人柄の伝わってくる温かいボーカルがこのアルバムの魅力であることを再認識させてくれます。
  また、いかにも南部の匂いを強く感じさせる曲もあり、「Louisiana Darkness」や「Let Me Down Easy」はそんなテイストに満ちています。 と思えば、軽いペダル・スティールに主導権を預けた「Stronger Than You Think」や「The Blues Over You」といった純正カントリーもあったりして。 このように振れ幅はそれなりにあるのですが、アレンジ・センスのブレがないためか、アルバムとして散漫になることはなく、落ち着いた印象のアルバムに仕上がっています。 

 とはいえ、このアルバムが後世にまで残るべき名盤だということはありません。 広大なアメリカを一人旅したいと思っても、なかなか南西部の見知らぬ街へ一人でバスを乗り継いで出かけようという気にならないのと同じで、何か特別な理由がない限りは、このアルバムと接する必要はないかもしれません。

 冒頭で述べたこのジャケット。 テキサス州ヒューストンで撮影されたということがクレジットされています。 この場所が、いまどのようになっているのかを、知りたいと思う人は誰一人としていないでしょう。  仮に知りたいと思ったとしても、たどり着く術がないことに、途方に暮れてしまいます。 ついつい、そんなことを考えてしまうマイナー感あふれるアルバムです。



■Steve Bateman / Someday■

Side-1
Stronger Than You Think
The Memory Of You
Full House
Drive My Car *
In The Form Of Me

Side-2
Someday (We’ll Do It Right)
The Blues Over You
Louisiana Darkness
I’ve Just Seen A Face *
Let Me Down Easy

Produced by Vic Clay
Arranged by Steve Bateman
Engineered by Larry Ratliff

All Songs Written by Steve Bateman Except * by J.Lennon & P. McCartney

Amherst AMH 1004


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