Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Joe Taylor

2009-04-12 | Christian Music
■Joe Taylor / Spirit Light■

  Joe Taylor が 1972 年に発表したアルバムは、ヒッピー系の色濃いクリスチャン・ミュージックです。 音的には、ギター・ベースそしてコーラス中心のシンプルなフォーク・ロックで、ドラムが不在なところをベースが上手く補完しています。 その弾けるようなベースラインが、ルーラルでB級な印象を強めているのは間違いありませんが、逆に言うとそこがアルバムの個性となっています。

  Joe Taylor 本人によるカバーアートからは、宗教色の強さが強烈に伝わってきます。 思索にふける賢人達に割り込むように写り込んでいるのが、Joe Taylor 本人。 その横顔だけが写真というのもダサいのですが、左下のほうにも聖書を覗き込むような姿を発見し、思わず失笑してしまいました。 彼の真っ黒な長髪とあご髭は、当時の西海岸の音楽シーンのなかでは、かなりの異彩を放っていたことでしょう。 

  曲は一部の共作を除いて、Joe Taylor の自作曲なのですが、興味深いのはクリスチャン・フォークとは思えないようなグルーヴ感にあふれる曲が多い点です。 オープニングの「I'm In Love With My Lord」などは、曲のタイトルからは想像しにくいファンキーな曲。 神への感謝をテーマにしているのでしょうが、サウンドからはそんな真剣さが伝わってきません。 つづく「You Can Feel Real」は緩やかなバラード、妙なタイトルの「Plastic Jesus」はアシッド感あふれるフォーキーです。 Bob Friedman との共作「Spirit Light」は、落ち着きのある仕上がりで、コーラスにも味わい深いものがあります。 A 面ラストの「Open Arms For You」は、The Four Tops の名曲「I Can’t Help Myself」に酷似した歌い出しで、少々びっくり。 コード進行が同じだとベースラインも似てくるのですが、これは無意識にそうなってしまったのでしょう。

  B 面は、より能天気な気分の楽曲が続きます。 「Build Upon That Rock」、「Back To Galilee」、「Yours, Body And Soul」などは 1950 年台のロックンロールに通じるものを感じます。 あるいは、Jonathan Richman がソロでパフォーマンスする時の「いなたさ」に近いかもしれません。 パーカッションとギターのみの「In The Dark Of The Night」はスタンダードのような普遍性を感じさせる名曲。 ラストの「Bear Ye One Another's Burdens」はクリスチャン・ミュージックらしさが最もサウンドに現れたバラード。 ピアノが使用された唯一の曲で、Joe Taylor のボーカルも低音からファルセットに近い高音まで丁寧に歌われています。 この曲も Bob Friedman との共作ですが、彼が絡んだ 2 曲にはアルバムのなかでも出来がいいものとなっていました。

  こうして Joe Taylor のアルバムをレビューしてみましたが、ここに収録されていたのは、こてこての宗教音楽ではなく、むしろ西海岸のビーチで昼寝しながら聴きたくなるような、リラックスしたフォーク・ロックでした。 このジャケットからは想像できないサウンドとのギャップには、どうしても払拭できない違和感が残るのですが、1972 年という時代性、カリフォルニアという土地柄、そして本人のキャラクターがこうしたアルバムを生み出したのでしょう。  
  その後の Joe Taylor は音楽シーンから離れたようで、現在はなんとテキサス州で Mt. Blanco Fossil Museum という化石博物館の館長さんになっていました。 この「Spirit Light」も2007年には彼によって CD 化されており、ここから試聴することもできます。 しかし、まさか化石の研究家になっているとは...。


 

■Joe Taylor / Spirit Light■

Side-1
I'm In Love With My Lord
You Can Feel Real
Plastic Jesus
Spirit Light
Open Arms For You

Side-2
Build Upon That Rock
Back To Galilee
Yours, Body And Soul
In The Dark Of The Night
Bear Ye One Another's Burdens

Cover design and art : Joe Taylor
Rhythm guitar : Don Lee, Dave,John&Mark Smith, Joe Taylor
Piano : Kathy & Joel Peck
Bass guitar : Mark Smith, Don Lee
Lead & Steel guitar : Don Lee, Mark&John Smith, Joe Taylor
Back-up vocals : Teri Ketchum, Kathy Peck, Candy Perkins, Joe Taylor

ARK records ARK 607

Suni McGrath

2009-03-12 | Christian Music
■Suni McGrath / Childgrove■

  珍しく仕事が早く終わって、少しばかり自分の時間ができた夜に、聴きたくなるようなアルバムです。 部屋の灯りを少し落として、熱いコーヒーを入れておけば、準備万端。あとは、レコードの溝を針がゆっくりとトレースするのを眺めるだけです。 しばらくすると、ここに刻まれた繊細なギターの音色が、癒しとかリラックスといった領域を超えて、スピリチャルな響きに聴こえてくるはずです。

  今日取り上げたのは、クリスチャン・ミュージックにおける 12 弦ギターの名手 Suni McGrath が Adelphi に残した 3 枚のアルバムのうち、ラストとなる作品です。 Suni McGrath のことを知ったのは、比較的最近のことなので、彼のアルバムはこの作品しか聴いたことがありませんが、最近まで知らなかったことを後悔してしまうほど、素晴らしい内容です。 とはいえ、アコースティック・ギターのインストゥルメンタルなので、苦手な人には退屈に感じられるかもしれません。 

  このアルバムは Suni McGrath 名義ですが、もう一人のギタリスト Jack Denlinger の貢献度が非常に高いのが特徴です。 左に Jack、右に Suni が映っているジャケットに、その関係性が良く表れており、二人の共作名義でも発表されていたとしても違和感はありません。 B 面を占める大作「The Lions Of Judah」では、Jack Denlinger がリードをとり、Suni McGrath はセカンド・ギターにまわるといった主役交代が起きているほどです。 さっそくアルバムを振り返ってみることにしましょう。
  アルバムはブリティッシュ・トラッドの「The Star Of Country Down / Childgrove」で幕開け。 Suni のリード、Jack のセカンドによるオーソドックスな演奏が楽しめますが、逆に個性はあまり感じられません。 つづく 2 曲はオリジナル。 「Love Abides」はバロック音楽のような古典的な香りのする気品ある楽曲なのに対し、「Zoe」はリズム感の強調されたポップな仕上がりです。 Gary Davis なる人物の曲「Lo, I’ll Be With You Always」は、ギターの教則本の課題曲のようなメロディとコード進行ですが、リラックスしたムードは満点です。 オリジナルの「The Harvest」は変拍子の難解な楽曲。 つづく「(Jesus Said) I Am The Resurrection」は、このブログでも取り上げたことのある Ray Repp の作品。 訳すと「私は生まれ変わりである」というタイトルが強烈ですが、緩急のある奥深いギターサウンドが堪能できる楽曲となっています。
  B 面はさきほど軽く触れたとおり、22 分の「The Lions Of Judah」1 曲が収録されています。 この曲は、Suni と Jack の夢幻の邂逅とでもいうべきサウンドで、アルバム最大の聴き所と言えるでしょう。 二人のギターの演奏は、見事に息のあったものというわけではなく、たどたどしい一発録りのような危うさをはらんでいますが、そこがかえって魅力となっています。  中盤と後半で 2 箇所ほど Ellen Matthews なる女性のつぶやきにも似たボーカルが挿入され、冗長にならないような工夫が施されているのも評価できるところです。 このような長尺のギター・サウンドは、今ふうに言えば、「チルアウト」なのでしょうが、まさに、その類の音楽の元祖ともいえるアルバムと言えるかもしれません。

  Suni McGrath は、1972 年にこのアルバムを発表した後、長い沈黙に入りました。 その間、何をしていたのかは不明ですが、彼が沈黙から目覚めたのは 2004 年のことです。 32 年のブランクの割にはコンピレーション盤に 1 曲参加しただけというさりげない復活でしたが、翌 2005 年には 7 inch 盤を 1 枚発表しているようです。 この 7 inch 盤というフォーマットに彼の意志を感じたのは僕だけでしょうか。 近い将来、彼の新作が CD ではなく、アナログ盤オンリーで届けられる日が来ることを期待してしまうのです。

 

■Suni McGrath / Childgrove■

Side-1
The Star Of Country Down / Childgrove
Love Abides
Zoe
Lo, I’ll Be With You Always
The Harvest
(Jesus Said) I Am The Resurrection

Side-2
The Lions Of Judah

Produced by Gene Rosenthal for Black Dog Productions
Recorded in March, 1972 at Adelphi Studios

Suni McGrath plays solo six and twelve-string guitar on all pieces, with exceptions of ‘The Star Of Country Down / Childgrove’, where he is joined by Jack Denlinger on
2nd guitar, and ‘The Lions Of Judah’ , on which Jack plays lead, Suni plays 2nd guitar and Ellen Matthews contributes the vocals.

Adelphi Records AD1022


Jerry Sinclair

2009-02-22 | Christian Music
■Jerry Sinclair / It’s Just The Mercy Of God■

  一度見たら忘れることのできないアルバムです。  僕も長年、クリスチャン・ミュージックのレコードに多く接してきていますが、このジャケットを超えるインパクトを持つ作品には未だに出会っていません。 このジャケットが故に、このアルバムでもアメリカでもカルト的な扱いをされているようですが、内容はいたってマイルドで予定調和なサウンドで占められており、典型的な CCM として語ることのできる作品です。 時代的にも、サイケ感やアシッドなテイストを想像してしまいがちですが、そういった指向性は全くありません。 

  アルバムがリリースされたのは 1974 年、オクラホマ・シティのマイナーレーベル CAM の作品です。 時代的には、まだ洗練されておらず、まったりとした MOR 感が全体を包んでいるのですが、厚めのコーラスと、全編に漂うストリングスがアルバムを美しくコーティングしているような印象です。 この手のサウンドの魅力を上手く伝えることは難しいのですが、参加ミュージシャンのなかに、唯一見覚えのある名前がありました。 
  その人物は、Hadley Hockensmith です。 彼は AOR 的な CCM アルバムのなかでも名盤の誉れ高い Bruce Hibbard の「Never Turnin’ Back」に参加し、ギターやプロデュースで大活躍しているのことで知られているミュージシャン。 その Hadley Hockensmith の参加したレコードとしては最も古い部類に入ると思われるのが、このアルバムなのです。 ‘Hawk’ というミドルネーム付のクレジットもここでしか見たことがありません。
  そういえば、Bruce Hibbard もオクラホマ出身。 彼のデビュー作「A Light Within」は 1976 年の作品ですので、このレコードよりも 2 年遅れでのリリースです。 Bruce Hibbard と Jerry Sinclair をつなぐのはオクラホマの CCM 人脈ですが、この 2 人がどこかですれ違っていた可能性は少なくないのではと思っています。

  前置きが長くなりましたが、アルバムを簡単に紹介しておきましょう。 冒頭の「He Is The Truth Of Life」は、仰々しすぎるくらいのバラードですが、嫌味のないアレンジに好感。 つづく「I’m Gonna Rise」も同様の歌い上げ系。 しっとりしたバラード「Jesus Lifegiver」、女性コーラスが桃源郷のような気分にさせる「Here’s The Same」と続き、ハイライトの「It’s Just The Mercy Of God」へ。 この曲はゴスペル的なコーラスとJerry の熱唱が重なり、全ての人の心に染み入るであろう感動的な楽曲です。 
  B 面は、メロウで落ち着きのあるバラード「Just Now」、ソフトロック的な陽気さが漂う「You Can Count Your Nickels, Girl」、ホームパーティで歌うような「Happy Birthday (Jesus)」と元気のいい曲が並びます。 「Stompin (In The Name Of The Lord)」は平凡なミディアムですが、ラストの「The Cross Is The Bridge」は、Jerry Sinclair が歌い上げるスロウ・バラードで、ホーンセクションが唯一入った曲。 ラストに拍手が収録されており、この曲だけが 1973 年のライブ録音に、ボーカルを録り直したものでした。 
  こうして楽曲について簡単に触れて見ましたが、どことなく野暮ったい雰囲気は拭えないものの、メロディの美しさやボーカルの魅力など楽曲の持つ本質的なクオリティはかなり高いものがあると言えるでしょう。 

  このアルバムは、Norm MaGary なる人物が描いたこのジャケットの影響もあって、正当な評価がされないまま埋もれてしまいました。 クレジットには、「Front cover drawn from personal experience」とありますが、いったい彼はどんな経験をしたのでしょうか。 そして、何故 Jerry Sinclair は自らの大事な作品にこの絵を選んだのでしょうか… 
  残念なことに、Jerry Sinclair は、1993 年 1 月にロスで亡くなっており、この疑問が解明されることは永遠になさそうです。



■Jerry Sinclair / It’s Just The Mercy Of God■

Side-1
He Is The Truth Of Life
I’m Gonna Rise
Jesus Lifegiver
Here’s The Same
It’s Just The Mercy Of God

Side-2
Just Now
You Can Count Your Nickels, Girl
Happy Birthday (Jesus)
Stompin (In The Name Of The Lord)
The Cross Is The Bridge

All materials on this album produced, written, arranged, and sung by Jerry Sinclair
Recorded at CAM studios, Oklahoma city, Oklahoma

Jerry Sinclair : piano, chimes, strings, lead vocals
Jonathan David : piano
Harlan Rogers : organ
Hadley ‘Hawk’ Hockensmith : bass, guitar
Mike Scone : bass
Mike Raymond : drums
Keith Edwards : drums
Jerry Hall : steel guitar
Vic Cappetta : flute, conga, cowbell
Billy Walker : guitar
Kenny Walker : guitar
Bobby Williams : guitar
Bruce Glover : horns, strings
Joe Wright : strings

Group One Background Vocals : Darrell Coppedge, DeLaine Wilson, Bill Myers, Renee Pitt, Tracy Dartt, Mike Cates, Kathy Newman, Diane Sulliva, Russel Hall

Group Two Background Vocals : Rhenda Edwards, Bob and Ruthie Renflow, Mark Knox, Jerry Sinclair

CAM Records 1428

Dust And Ashes

2009-02-11 | Christian Music
■Dust And Ashes / A Different Kind Of Blue■

  Dust And Ashes はJim Moore、Tom Page、Jim Sloan の 3 人によるクリスチャン・ミュージック・グループ。 3 人それぞれが曲を書け、リードボーカルも務めるので、メンバーのソロ活動が前後に行われていた可能性があります。 しかし、このアルバムは特別なフロントマンがいたわけではなく、むしろ 3 人の声の区別がほとんど分からないので、3 人編成のアルバムということを忘れてしまいがちです。 唯一「When You’ve Been Away For a Long Time」だけは、ボーカルが交代して 3 人がリードを取るので、微妙に声が違うことは確認できました。 

  冒頭にも書きましたが、彼らは CCM に分類されますが、サウンドはカントリー・フォークといったところでしょう。 土埃や汗の匂いはしないのですが、中西部のテイストの漂う B 級サウンドといった趣きです。 特にテンポの速めの曲のほとんどは、取るに足らない出来で、スキップしたくなります。 しかし、ミディアムやスロウのなかに、3 人の音楽的な素養がにじむ場面もあり、そうした曲をつまみ食いして楽しむのが、このアルバムとの接し方です。 つまみ食いの対象となるのは「Do You Know My Name」、「Who Were The Children」、「The Beggar」そして「Song For A Carpenter」あたりでしょう。

  とくに、アルバム冒頭の「Do You Know My Name」はTom Pageによる慈愛に満ちたメロディーが美しい佳作。 この調子でアルバムが続くことを期待してしまうと残念な結果になるので、要注意です。 「Who Were The Children」は Jim Sloan による典型的な CCM バラード。 予定調和の世界です。 「The Beggar」と「Song For A Carpenter」はやや地味ですが、ブラザース・フォアのような 3 人のコーラスが聴きどころとなっています。

  全体的にたいした内容ではないこのアルバムですが、なかなか手放せない理由があるのです。 それは、このレコードが 1960 年代後半から 1970 年代にかけて存在したマイナーレーベル Avant Garde Records の作品だからです。 このレーベルは、個性的なフォークやサイケなサウンドで知られているニューヨークのレーベルで、トータルで 50 枚くらいの作品を残して消滅しています。 Avant Garde Records のディスコグラフィーを整理したサイトによると、「A Different Kind Of Blue」は 1972 年の作品でした。 しかも同じ 1972 年に「The Lives We Share」というアルバムが存在していることを知りました。 しかも、このアルバムは Avant Garde Records が発表した最後の作品でもあったのです。 あまり縁起のいい話ではありませんが、Dust And Ashes にとってもラストアルバムだったに違いないでしょう。

  ちなみに、そんな検索を続けているうちに、彼らには 1970 年に「From Both Sides」というファースト・アルバムがあることも発見。 あまり興味もなく、探そうという意欲の持てないクリスチャン・グループですが、彼らが世に残したアルバム 3 枚の全貌が見えてしまいました。 でも探さないぞ。



■Dust And Ashes / A Different Kind Of Blue■

Side-1
Do You Know My Name
Those Who Need A Friend
Travelin’ Down A Dirt Road
18th Hour Of Dyin’
Who Were The Children

Side-2
Charleston
When You’ve Been Away For a Long Time
Don’t You Know The Face
The Beggar
The Beatitudes
Song For A Carpenter

Produced by Clay Pitts

Acoustic guitar : Jim Moore, Tom Page, Jim Sloan (Dust and Ashes)
Bass guitar : John Darnall
Drums : Kenny Malone
Pedal Steel : Weldon Myrick
Dobro, electric guitar, harmonica, viola and drums : John Darnall
Piano : Clay Pitts

Recorded at Woodland Sound Studios, Nashville, Tenn. And Arlue Studios, Jackson, Tenn.
Mixed at Record Plant, New York City

Avant Garde Records AVS 134

Phil McHugh

2008-12-22 | Christian Music
■Phil McHugh / All Glory To You■

  歳を重ねてもクリスマスは楽しく過ごしたいものです。 若い頃は「別にクリスチャンでもないのに」という冷めた気持ちを抱いたこともありますが、それも昔のこと。 クリスマスを迎える時期に、不思議と心を癒してくれる気分になれるのは、人々の暮らしと密接に関係してきた歴史があるからでしょう。 
  そんな前置きはさておき、「別にクリスチャンでもないのに」と自分が言われてしまいそうなレコードを取り上げてみました。 レーベル名が Jesus Folk Records という直球具合には驚かされますが、ミズーリ州から届けられた Phil McHugh のファースト・アルバム(1976年)です。 彼のセカンド「Canvas For The Sun」はすでに取り上げましたが、先日入手できたこのアルバムも素晴らしい内容でした。 
  
  アルバムのほとんどの楽曲が、Phil のギターと Greg(フルネーム不詳)のベースを中心に組み立てられ、時折、鍵盤やパーカッションが脇を固めていきます。 クリスチャン・フォーク特有の癒し感に包まれたミディアム「Jesus Stood By The Water」でアルバムは始まり、ややカントリー色のする「The Prince」、聡明で奥行きのあるバラード「Morning For The Whole World」と気品のある佇まいで進んでいきます。 つづく「The Last Generation」はポップなアレンジで彩られるため、雰囲気がやや変化した印象ですが、つづく「Saviour」はピアノのみの内省的な世界へと向かいます。 A 面ラストの「Backslider Blues」は唯一のブルース。 内容は悪くないのですが、他の曲との整合性は残念ながらとれていません。 

  B 面は A 面をさらに深化させた内容になっています。 「There’s A River」はめくるめくメロディーが高原のそよ風のように美しい楽曲。 間違いなくアルバムを代表する 1 曲です。 つづく「Children Of The Promise」はピアノ、ベース、パーカッションそしてストリングスが柔らかにボーカルを包み込み、リスナーに綿毛のような浮遊感を与えます。 そして、タイトル曲の「All Glory To You」は、メランコリックなマイナー調のミディアム。 後半みせる Phil McHugh の裏声を含んだボーカルが聴き所です。 優しく爪弾かれたギターを背景にした「Sometimes」は、しっとりとしたバラード。 ラストの「We Are Free」では、CCM ならではの禁欲的で且つポジティブな女性コーラスが心を解放し、希望に満ちた楽園へと向かうような気分にさせられます。 

  こうしてアルバムを聴き終えて、思い出したのが Phil Keaggy のソロ・デビュー作「What A Day」です。 こちらは 1973 年の作品なので、「All Glory To You」よりも 3 年前になりますが、同じ CCM のミュージシャンとして共通点は多く見出せるような気がします。 サウンド面では、Phil McHugh がウェスト・コーストに近い音で、Phil Keaggy がギター中心という違いはありますが、Phil Keaggy も Phil McHugh も共に、ポジティブで俗世界との接点を大切にしていると思うのです。 同じ CCM でも聖書や聖典の影響を強く受けた作品がありますが、そこまで宗教色が濃く表れているわけではなく、むしろ日常の暮らしと信仰との関わりの強さを表現していると思います。 

  一般的に CCM の特徴としては、予定調和な展開、シンプルなメロディー、まろやかなアレンジなどを挙げる人が多いでしょう。 それは、間違いではありません。 しかし、言葉でうまく形容できないのもこのジャンルです。 ひとたび、そこに包含された独特の安らぎに心魅かれてしまえば、もうあなたも CCM の虜。 新しい扉を見つけてはそこを開けて、その奥にある優しい光を求めて歩み出してしまうのです。  メリー・クリスマス!



■Phil McHugh / All Glory To You■

Side-1
Jesus Stood By The Water
The Prince
Morning For The Whole World
The Last Generation
Saviour
Backslider Blues

Side-2
There’s A River
Children Of The Promise
All Glory To You
Sometimes
We Are Free

Produced by Tri-Art Productions
All Word and Music by Phil McHugh
Arranged by Greg Nelson

Thanks to
Keith for drums
Jeff for guitar on ‘Jesus Stood By The Water’ and ‘All Glory To You’
Glenn for steel guitar on ‘the Prince’
Greta and Curtis for strings on ‘Children Of The Promise’
Greg for bass on everything except ‘There’s A River’ and for electric piano on ‘The Last Generation’, ‘There’s A river’ and ‘All Glory To You’ , for piano on ‘We Are Free In Him’ , for percussion on ‘The Last Generation’ and ‘All Glory To You’

Jesus Folk Records JFR-4001

Phill McHugh

2008-10-02 | Christian Music
■Phill McHugh / Canvas For The Sun■

  秋の乾いた空気に似合いそうなアルバムということで、Pat Boone が主催するレーベル Lambs & Lion から発売された Phill McHugh のアルバムを取り上げてみました。 ジャケットのイラストだけで内容は想像できるのですが、実際その通りの優しさあふれるアルバムです。
  Phill McHugh はクリスチャン・ミュージックの世界で 5 枚くらいのアルバムを発表しているミュージシャン。 この「Canvas For The Sun」は 1977 年にリリースされたセカンド・アルバムです。 彼のレコードはこの 1 枚しか持っていませんが、予定調和な展開、角のとれた丸みのある演奏、温もりの伝わるボーカルといったクリスチャン・ミュージックの特徴はすべて満たしています。

  爽やかなウェストコースト・ロックの「Sing」、フォークロック調の「Happy With Me」といったミディアム・ナンバーもいいのですが、彼の持ち味はリズムを排除したバラードにあります。 ストリングスがそよ風のような「Canvas For The Sun」、映画のサントラのような優雅で上品な「End Of The Rope」、「Your Word」といった曲です。 そんななかでも最もお気に入りなのは「Better To Agree」。 この曲はまさにビター・スウィートという言葉がぴったりの曲で、メロウなサックスソロもあいまって AOR 風に仕上がっています。 やや残念なのがアルバム中もっとも商業的な匂いのする「Common Ground」です。 この曲は西海岸のB級ハードロックみたいでいただけません。
  アルバムはラストのワルツ「For The Searcher」でゆったりと幕を閉じるのですが、アルバム全体としてのクオリティは、繊細な演奏とアレンジ、そして何よりも Phill McHugh の優しいボーカルに支えられていると感じました。

  話を Lambs & Lion の主宰者 Pat Booneに戻しましょう。 個人的には Pat Boone は「砂に書いたラブレター」でしか知りません。 むしろ彼の娘の Debby Boone の大ヒット曲「恋するデビー」(You Light Up My Life)の方に思い入れがあります。 この曲は 1977 年に 10 週間連続 1 位を記録したモンスター・ヒットですが、僕はこの曲をリアルタイムで聴いていたからです。 シングル盤は買わなかったものの、10 代前半ながらもこういった仰々しいバラードを素直にいいと思っていたかと思うと自分はバラード指向なのかな、と思ったりして。
  この「Canvas For The Sun」はその「You Light Up My Life」と全く同じ年にリリースされていたことになりますが、当時は国内盤も発売されず、日本にわずかに輸入盤が入ってきた程度のようです。 そうしたことから、Phill McHugh は日本ではほとんど知られていませんが、良質な CCM として位置付けられるミュージシャンでしょう。 彼のファーストアルバムを聴いてみたいところです。

 最後に、Lambs & Lion の完全ディスコグラフィーが掲載されたサイトをみつけたので、ご紹介します。 これを見て Pat Boone や Boones の多作振りには驚かされました。



■Phill McHugh / Canvas For The Sun■

Side-1
Sing
Canvas For The Sun
Thank For The Answers
End Of The Rope
Jimmy’s Song

Side-2
Common Ground
Your Word
Happy With Me
Better To Agree
For The Searcher

Produced by Tri-Art Productions
Arranged by Greg Nelson
All songs written by Phill McHugh except ‘Jimmy’s Song’ by Jim Gloth

Phill McHugh : 12 strings guitar, guitar, , vocal , background vocal
Steve Hanna : drums, percussion, vibes
Greg Nelson : bass, synthesizer, wind chimes, piano, fender Rhodes, clavinet
Jeff Knudson : pedal steel
Dave Swenson : electric guitar
Randy Hammel : organ
Dan Posthuma : bass
Jim Gloth : electric guitar
Bill Gese : electric guitar
Linda Schmitt : flute
Rose Heaylett : background vocal
Jim Smith : background vocal

Lamb & Lion LL-1032

Ray Repp

2008-05-26 | Christian Music
■Ray Repp / By Love Are We All Bound■

 Ray Repp のアルバムをもう 1 枚取り上げます。 これは、1981 年発表の 8 枚目のアルバム。 前回とりあげた「Benedicamus」とは同じレーベルからのリリースで、レコーディングスタジオも同じですが、バック・ミュージシャンはドラムス以外が入れ替わっています。 それがどのように影響しているのかも興味のひとつです。

 結論からいうと「Benedicamus」よりも親しみやすさ、覚えやすさ、全体の統一感などあらゆる面で「By Love Are We All Bound」のほうが上です。 シンプルな演奏にサポートされた質素なサウンドが全体を包んでいるのですが、特徴的なのは K&R chorus とクレジットされたコーラス隊の存在です。 曲によって男女混声だったり男声のみだったりするのですが、この K&R chorus が個々の楽曲をさりげなく引き立てています。 元々 Ray Repp のマイルドなボーカルはソロでも光るのですが、ややもすると単調になってしまうのが難点です。 そこを上手く調整しているのが K&R chorus といえるでしょう。
 
 個々の楽曲もリラックスしたムードのものが多く、オープニングを飾る「Happy Are The People」はシングルカットできそうです。 この曲はカレッジフォークのような柔和な楽曲。 親しみやすい雰囲気に好感が持てます。 オススメの曲はゆったりした落ち着きのあるバラードの「Follow Me」やラストの「Lord, Hear Our Prayer」です。 とくに後者は美しいギターをバックに、おごそかに歌唱される気品漂う作品。 アルバムを締めくくり、深い余韻を残します。
 「Canon Of The Seed」や「The Kingdom Of The Lord」、「Sisters And Brothers」といった曲は宗教色が強いのですが、「Benedicamus」に見られる楽曲のような重々しさはありません。 それには 1981 年という時代背景も影響しているのでしょう。

 さて、改めてクレジットを見てひとつ発見したことがあります。 それは、このジャケットを書いた人物なのですがそこには、Sadao Watanabe と書かれているのです。 まさかサックス奏者の渡辺貞夫のことかと思ってネットで調べてみました。 すると、同姓同名の芸術家で渡辺禎雄という画家・版画家がいることがわかりました。 いくつかのサイトをチェックしましたが、まさしくこの絵はこの渡辺禎雄によるものだと確認できました。 彼の略歴の載ったサイトによると、海外のキリスト教会で展示会が開催されており、Ray Repp も何かのきっかけで彼のことを知ったのでしょう。
 このブログを書くところから、全く知らなかった日本人芸術家のことを知ることになり、驚いています。 残念なことに渡辺禎雄は 1996 年にすでに他界していますが、彼の残した独特のタッチの作品は世界中の美術館に収蔵され、永遠の命を与えられていました。



■Ray Repp / By Love Are We All Bound■

Side-1
Happy Are The People
Canon Of The Seed
By Love (Colored Like A Ranbow)
Come, Let’s Build
May We Grow

Side-2
The Kingdom Of The Lord
Follow Me
Lord, Have Mercy
Sisters And Brothers
Lord, Hear Our Prayer

Guitars : Chad Mcloughlin , Ray Repp
Keyboards : CRJ Szabo
Bass : Al Hartland
Percussion : Lex O’Brien

Arranger : Ray Repp
Producer : Rev. William , M.Kelly , Ph. D.

All songs written by Ray Repp
Except ‘Lord, Have Mercy’ by Bea Verdi
‘Sisters And Brothers’ based on a 17th century French song
‘By Love’ based on Gregorian Chant

K&R records KRS-1091

Ray Repp

2008-05-19 | Christian Music
■Ray Repp / Benedicamus■

 Ray Repp は 1960 年代半ばから活動しているクリスチャン・ミュージックのベテランです。 今日取り上げた「Benedicamus」は、1978 年に発表された 6 枚目のアルバム。 どことなく和風なイラストが印象的です。 
  Ray Repp に関しては本人のホームページはありませんでしたが、カトリック系のミュージシャンだそうです。 いままで取り扱ってきたクリスチャン・ミュージックのアーティストのなかで、明確にカトリックだとかプロテスタントと知って語った人はいませんが、アメリカはプロテスタントがほとんどですので、Ray Repp は少数派になるのでしょう。

  アルバムタイトルの「Benedicamus」は修道院で有名なベネディクトと関係があることは想像できますが、辞書を引いても意味は分かりませんでした。 この曲は2つのパートに分かれているものの、ほとんど朗詠のようなサウンドで、音楽的な魅力はありません。  このような楽曲はラストの「Alleluia (The Lord Of Love Has Come)」も同様です。 大方の予想通り、ハレルヤの繰り返しです。 このように宗教色が色濃く、厳かな雰囲気でオープンとエンドを構成するのはオーソドックスな構成なのでしょう。
  アルバムのなかで親しみやすさが目立つのは「Till You」、「Share A Little Bit Of Your Love」、「We Are Grateful」、「Lilies & Sparrows」でしょう。 個々の曲調は異なりますが、淡さやマイルドさは共通のもの。 とくに「Share A Little Bit Of Your Love」は、ソフトロックの趣のある楽曲。 瑞々しい男声コーラスによる親しみやすいメロディーがまるでアソシエイションのようです。  「We Are Grateful」はピアノのリリカルな響きから、初期の Jimmy Webb が手がけた小品のようなイメージです。  ほかにもアルバムは全体としてマイルドな印象なのですが、それは、ほとんどの CCM がそうであるように、ボーカルの声質のせいでしょう。 CCM でいながらハスキーだったり、甲高い声というのはあまり耳にしたことがありません。

  The Song Of The Earth というサブタイトルがついているこの作品は、ニューヨーク州のイサカでレコーディングされました。 イサカといえば、Swallowtail Records の拠点でもあった美しい土地です。 あの名盤「September Sky」を生み出した Bill Destler と場所が重なってきますが、とくにミュージシャンとして交流があったような形跡は見当たりません。 制作年度が 5 年も違うことや、音楽の性格がゆえ、当然のことでしょう。

  Ray Repp の音楽は日常のなかで息づく信仰というよりも、もっと濃密で深いものを感じさせます。 その彼が 20 年以上にわたって音楽活動を行い、確認できているだけで 9 枚以上のオリジナル作品を発表することが出来たのには、それなりの経済的なバックグラウンドがあったからでしょう。  その背景が何だったのかは分かりませんが、そこには人種・宗教・思想といったものの多様性から成り立つアメリカ社会の奥深さが横たわっているようにも思えます。



■Ray Repp / Benedicamus■

Side-1
Benedicamus
Part 1 – The Song Of The Earth
Part 2 – The Dance Of The Seasons
Till You
Children Of The Morning
With Every Step
Share A Little Bit Of Your Love

Side-2
We Are Grateful
Lilies & Sparrows
Garment Of Gold
Brand New Day
Alpha & Omega
Alleluia (The Lord Of Love Has Come)

Produced by William M. Kelly
Recorded at Pyramid Studio , Ithaca , New York

All Music written by Ray Repp
Arrangements : Ray Repp , Chip Smith

Chip Smith : keyboards
Rat Repp : guitars
Paul Johnson : guitars
David Verdery : bass
Clint Swank : bass
Al Hartland : drums
Stuart ‘Kraz’ Krasnoff : percussion
Kevin Miles : trumpet
Jeanne Vernon : recorder

K&R records KRS1011

Wendy Vickers

2008-04-11 | Christian Music
■Wendy Vickers / Sow A Seed■

  女性の髪のおしゃれ「つけ毛」のことを「エクステンション」ということすら認知していなかったのですが、さらに略して「エクステ」と呼ばれていることには驚きました。 自分がそのことを知って会社で驚いている光景を傍から見ると、まさに典型的な中年なんでしょうね。 ちょっと悲しい気分です。

  その「エクステ」の豪快さでは、レコード・ジャケット至上3本指に入るのではないかと思われるのが今日ご紹介する Wendy Vickers の「Sow A Seed」です。 このアルバムは 1974 年にオハイオ州のシンシナティで制作されました。  曲のタイトルからわかるように、このアルバムはクリスチャン・フォークなのですが、あまりそうした意識をせずに楽しむことができます。
  彼女の声は、容姿から想像したとおりの張りと腰のあるもので、存在感が強く感じられるものです。 楽器はアコースティックなものばかりなので、アルバム全体が彼女のボーカルに支えられているといっていいでしょう。 そのうえ楽曲のクオリティーが高いことから女性クリスチャン・フォークの名盤のひとつに数えられる作品です。
 
  アルバムのなかでも聴き応えのある名曲から触れていきましょう。 A 面では「Glory To God」と「Sow A Seed」をピックアップしました。 前者はタイトルどおり宗教色の強い曲ですが、うっとりするようなメロディーと華麗な歌唱が見事です。 アルバムタイトル曲の後者はギターやフルートの優しい演奏と Ed O’Donnell とのハーモニーが心に触れる名曲です。 B 面では、よりフォークロック調の名曲が目立ってきます。 ラストの 1 曲がやや違和感のある残念な出来なのですが、それ以外はほぼ完璧な流れです。 「High Time」は 1974 年にしかできないのではと思えるフォークロック。 出来の良さに言葉が出ません。 「The Lord Gave Me A Song」はフィドルのソロが美しい、落ち着きのあるワルツ。 1 分ほどのインタリュード的小曲「Holy , Holy」を挟んだ「Keep The Faith On Movin’」は伸びやかなWendy のボーカルが堪能できるミディアム。 彼女のボーカルの魅力はこの曲とつづく「Come To My Table」で最大に発揮されているように思います。 典型的なワルツをベースに予定調和な展開を見せるのですが飽きることはありません。
  ここに取り上げなかった楽曲もけして見劣りすることはありませんが、さきほど少し触れたようにラストの「Go In Peace」だけが、個人的には減点ポイントとなってしまいます。 この曲がせめてラストでなければ聴き終えた後の余韻がより深いものになったはず、と思うと残念です。 とはいえ、これだけのクオリティを保っているアルバムもそれほど多くはないと思います。 Epoch VII Records という聞いた事もないレーベルからリリースされた作品ですが、これからも大切にしていきたいアルバムのひとつです。

  いつものように Wendy Vickers で検索してみたのですが、同姓の女性 SSW がナッシュビルに存在することが分かりました。 しかし、彼女の写真や年齢(52歳)からして、同姓の別人の可能性が高いと思っています。 このアルバムを発表した Wendy Vickers はその後どのような人生を歩んだのでしょうか。 この「エクステ」はもしかすると、実毛なのではないかさえ思うようになってきて、僕の心はもやもやするばかりです。



■Wendy Vickers / Sow A Seed■

Side-1
Get On A Board
Were You There?
Glory To God
Let Me Do It With Love
Sow A Seed

Side-2
High Time
The Lord Gave Me A Song
Holy , Holy
Keep The Faith On Movin’
Come To My Table
Go In Peace

Recorded and mixed by Roger Byrd at Counterpart Creative Studios, Cincinnati, Ohio
Production coordinated by Erich Sylvester

All selections written by Wendy Vickers except for the traditional ‘Were You there?’

Wendy Vickers : lead vocals , rhythm guitar , dulicimer , background vocals
Ed O’Donnell : lead guitar , tambourine, background vocals
Lou Anderson : electric bass, background vocals
Kevin Weiler : piano
Susan Felton : flute
Jeanne Neyer : cello
Jr. Bennett : strings
Chico McNeal : organ
Billy Hinds : percussion
Chuck Rich : pedal steel guitar

Epoch VII Records  WV01

Jim Miller

2008-02-22 | Christian Music
■Jim Miller / Entertainer■

  前回の Rick Johnson も平凡な名前でしたが、今日の Jim Miller も負けてはいません。 ハリウッド映画に登場する典型的な銀行員みたいな名前です。 しかも、このアルバムのジャケットに加え、タイトルが「Entertainer」となれば、数百円でも食指が伸びないアルバムです。 1983 年の作品というのも微妙な気持ちになります。

  そんな Jim Miller ですが、ジャンル的にはクリスチャン・ミュージックに入るミュージシャンです。 ジャケットからは想像できませんが、アルバム 1 曲目の「Son Of the Father」が特に CCM 色の強い曲となっています。 この曲は気品あふれるバラードなのですが、「Written for God」とクレジットされています。 この表現にはかなりの勇気がいると思いますが、それだけの自信を感じさせる名曲です。
  
  アルバムはほとんどが自作なのですが、目を引くのが Harry Chapin の代表曲「Taxi」のカバーです。 僕は実は Harry Chapin についてはあまり詳しくないのですが、この曲は 1972 年の彼のデビューヒット。 日本では Harry Chapin は極端に人気がありませんが、1970 年代にアメリカで過ごし、実際にライブを見たことのある人から聞いた話では、考えられないほどの人気だったようです。 ライブの収益をチャリティーするなどの行為は最近ではよく目にしますが、Harry Chapin こそがその元祖的な存在とも言えるようです。
  その「Taxi」に続くのが「The Final Story (Tribute To Harry Chapin)」で、ここで Jim は Harry Chapin を賛美しています。 1981 年に自動車事故で亡くなってしまった Harry の貢献について歌った曲ですが、残念ながら歌詞がわかりません。

  アルバムは、この冒頭 3 曲で語るべきことの 90% を締めているので、他に目立った曲を触れておきましょう。 
  A 面ラストの「Closer Every Day」は、CCM の香りする美しい小曲。 B 面の「Strange Way」はゆったりしたワルツですが、曲の良さとストリングスの心地よさが相まって、アルバムを代表するバラード。 「I’m Just A Barroom Singer」は、Kirk Orr という人物の曲。 有名な曲なのかと思って検索しても出てきませんでした。 しかし、アコギのさりげない弾き語りの曲なのですが、メロディーや雰囲気や可愛らしさ等、このアルバム1番のお気に入りなのです。 Kirk Orr についても正体はわかりませんでした。 ラストの「Did You Ever?」は、憂いのあるミディアム。 心にわだかまりがあるようかのような切ないボーカルが、ストリングスアレンジとともに寄せてきます。

  このようにアルバムには数曲のステ曲(この言葉は好きではありませんが)があるものの、心やすらぐようなメロディーを持つ曲が多く、全体としての出来は悪くありません。 80 年代にありがちな耳障りなシンセの音がなく、生のストリングスを多用していることもアルバムのクオリティに貢献しています。 くどいですが、アーティスト名、タイトル名、ジャケットでことごとく損をしてしまっているのが勿体ないアルバムです。



■Jim Miller / Entertainer■

Side-1
Son Of the Father
Taxi
The Final Story (Tribute To Harry Chapin)
Sing
Closer Every Day

Side-2
Strange Way
Misty Mountain Morning
Feelin’ The Rock
I’m Just A Barroom Singer
Did You Ever?

Produced by Jeff Isaacs and Jim Miller
Engineered and Mixed by Jeff Isaacs

All songs by Rick Johnson
Except ‘Taxi’ by Harry Chapin , ‘I’m Just A Barroom Singer’ by Kirk Orr

Jim Miller : lead and background vocals , acoustic guitar
Kathy Knittel : violin
Angela Sidler : violin
David Odekirk : violin
David Fletcher : violoncello
John Gottschalk : keyboards
Bruce Baugher : drums
Jeff Isaacs : bass guitar
Al Stee : electric guitars
Dave Plaehn : harmonica

Grand Junction Records GJR-05

Erick Nelson

2007-12-23 | Christian Music
■Erick Nelson / Flow River Flow■

 クリスマスイブを含む連休ということもあって、心優しく暖かな気持ちに慣れるアルバムを取り上げようと思い、このアルバムを選びました。 意識したわけではないのですが、そうなるとやはりクリスチャン系の SSW に手が伸びてしまい、その結果選ばれたのは Erick Nelson です。 
Erick Nelson は、1975 年に同じ Maranatha というレーベルから「Good News」というグループの一員としてアルバムを残しています。 この「Good News」でも Erick Nelson ほとんどの作曲を手がけるなどソングライターとして頭角を表していたのですが、グループのサウンド指向がより華やかなポップなものだったために、本作で味わえるような温かみは残念ながらあまり感じることができません。 「Good News」ではリードボーカルを務めていないなどのストレスがあったことでしょう。 そうした制約から放たれた彼は 1976 年 3 月に一気にアルバムを仕上げ、このソロアルバムは同年に発表されました。 レーベルは同じにも関わらず「Good News」のメンバーが誰一人参加していないこともこのアルバムの重要な着目点でしょう。

 前置きが長くなりましたが、各曲を紹介してみましょう。 A 面はアルバムタイトル曲の「Flow River Flow」でスタート。 この曲は、心の高鳴る様がサウンドの広がりによって表現された見事なバラードです。 難病を患った実在の若者を題材にしたことがクレジットに書かれていますが、そうした背景も自然に聴き手に染み込んでくるようです。 まさに名曲といえるでしょう。 ちなみに、この曲はSteve Berg と Don Stalker の共作です。 つづく「Soldiers Of the Cross」は、Good News 的なポップソングですが、David Foster の気の利いたアレンジによって洗練された仕上がりになっています。 インタリュード的な小曲「Prelude」をはさんで、名曲「The Gift」が始まります。 この曲は歌いだしのメロディーから心を虜にする魅力があり、素晴らしいアレンジも相まって至福の仕上がりとなっています。 クリスチャン系の楽曲で「The Gift」ですから、それなりの出来でないと許されないですよね。  つづく「Sunlight」も心が洗われるようなバラードです。 チェンバロとドラムスが耳に残ります。

 B 面は、「Movin’ On」と「Prodigal’s Return」に尽きるでしょう。 前者の「Movin’ On」は、「The Gift」と並ぶこのアルバムのハイライト楽曲。 亡くした友人に捧げたとのクレジットがありますが、この世の煩わしさから解き放たれたかのような不思議な爽快感が全編に漂っています。「Prodigal’s Return」はアルバムのラストならではの落ち着きのあるバラード。 短編小説の最後の 1 ページのような余韻を残します。
 他の曲も簡単に触れておきましょう。「Something Happened To You」は、ポップなアレンジとコーラスが Good News 的な曲。 「Beside You」や「One Last Night」もけして見劣りのする内容ではありませんが、卓越した出来の曲に囲まれて相対的に気の毒かなというくらいです。

  このレビューを書きながら、アルバムを2回通して聴いてしまいましたが、「Good News」に比べると格段上の内容になっていることを再認識しました。 実は、「Good News」を取り上げてから Erick Nelson にしようと思っていたのですが、こうして正解でした。 
 このアルバムが名盤となった理由はいくつか考えられますが、その一つは先に書きましたが、Erick Nelson の「Good News」への不満や反発が一気にモチベーションとなってこのアルバムに注がれたことがあると思います。 しかし、それに加えて若き日の David Foster による洗練されたアレンジと、それをサポートするレベルの高いバック陣という要素を見逃してはならないと思います。 
 
  昨晩は、こうして生まれた良質のレコードを聴きながら、静かな夜を過ごしていました。 この冷たい雨も明け方には雪になるのかなと思って寝たのですが、残念ながら初雪にはなりませんでした。 東京では雪のクリスマスなんて滅多にないですからね。



■Erick Nelson / Flow River Flow■

Side-1
Flow River Flow
Soldiers Of the Cross
Prelude
The Gift
Sunlight

Side-2
Something Happened To You
Movin’ On
Beside You
One Last Night
Prodigal’s Return

Produced by Lenny Roberts
Arranged by David Foster

Keyboards : Erick Nelson , David Foster , Michael Omartian
Drums : John Raines , John Mehler
Guitars : Thom Rotella , Ben Benay , Erick Nelson , Al Perkins
Bass : Henry Davis , Scott Edwards , Lenny Roberts
Vocal : first verse of ‘Soldiers Of the Cross’ Michele Takaoka

Singers : Erick Nelson , Steve Berg , Don Stalker , Michele Takaoka , Rodger Brasier , Crackers , Ginger Blake , Maxine Willard , Julia Tillman , Stormie Omartian , Marty McCall , Myma Matthews

Maranatha! Music HS-028

Bob Williston

2007-12-02 | Christian Music
■Bob Williston / Gypsy Fortune■

 いよいよ 12 月です。 今年ももう終わりが近づいてきました。 我が家も暖房を試運転するなど、冬への準備が始まっています。 毎年、冬になると「暖炉に温まりながら聴きたい」とか「毛布にくるまれたような」という表現を使いたくなるのですが、ここ東京は暖冬傾向でそんな気分にさせてくれる日は滅多にありません。
 さて、今日取り出したレコードも、「暖炉系」の心温まる一枚です。 ジャケットからは陽気なカントリーを想像してしまいますが、以外にもエレピをメインとした温もりと質感のあるサウンドが全体を包み込んでいるのです。 アルバムの印象としては、マイルドな AOR/SSW ファンには知られている Dobie Gray の「Welcome Home」に通じるものがあります。

 レコードを買った後で知ったのですが、Bob Williston はクリスチャンミュージックの分野で活動してきた人物で、公式ページによるとカナダのバンクーバーで今も現役で活動を続けているようです。 しかし、残念ながらこのアルバムに関する記載は一切ありませんでした。 レコードにも発売年度が書かれておらず、いつの作品なのか全くわかりません。 おそらくは 1980 年前後だと思いますが。 さっそくレコードを聴きなおしましょう。

  最初にこのレコードを聴いたときには、「Gypsy Fortune」のような音が出てくるとは思わなかったので、興醒めしてしまった覚えがあります。 しかし、覚えやすいメロディーとセンスの良いアレンジから徐々に引き込まれていきました。 ジャケットの裏にはギターのネックがイラストになっていますが、アコースティック・ギターはアルバムには一切使用されていません。 ちょっと騙しが入っていますね。  つづく「Blue Boy」は、中盤まで静かな展開ですが、一気にボーカルが歌い上げてきます。 抑揚が効きすぎている気がします。 「Sky-High Flying Dove」は、ポップな展開ですが、やや凡庸。 しかしアルバムは次の「Dare To Dance」で息を吹き返します。 この MOR の権化のようなサウンドには、頭であれこれ考えるより、身を委ねてしまったほうがいい…そんな曲です。 若い頃はこのような曲をいい曲だなんて思わなかったはずですが、季節感と心地よさ、肌ざわりみたいなものが自然に入ってきます。 僕の年齢のせいかもしれませんが。 余韻を残す「Serenade」がゆったりした時間を刻んで A 面が終わります。

 続いて B 面の「Newspaper Daddy」へ。 この曲は新聞ばかり読んでいてなかなか話をしてくれない父親に対する愛情を表現した歌で、心優しいメロディーが耳に残ります。 つづく「The Dawn」は、Dale Jacob のフェンダーが心地よいバラード。  どこかのスタンダード・ナンバーを聴いているかのような非の打ち所のない曲です。  このようにクオリティの高い曲が続きますが、次の「How Richer Can We Be」も同様です。 この曲はメロディーやボーカルのスケール感が際立ち、心を浄化されていくのが実感できるような曲。 後半、転調してからのサビでのボーカルは、このアルバムの中でも最も気持ちが込められている場面です。 まさにハイライトです。 つづく「Touch Me Friendly」は親しい友達から囁かれているような曲なので、一転してボーカルも抑制気味です。 ラストの「Peace In The City」 は、平和が訪れた喜びをかみしめるかのようなナンバーで、まさにラストにふさわしい仕上がりです。
 このようにアルバムをレビューしてみましたが、多くのクリスチャン系アルバムのように、曲名に Jesus とか、Lord という言葉は見当たりません。 歌詞についても同様です。 しかし、歌われていることは平和や愛といった普遍性のあるテーマのようで、やはり分類としてはクリスチャン・ミュージックと言えるでしょう。

 冒頭のほうで、このアルバムのことを「暖炉系」と書きましたが、実は「クリスマス系」なのかもしれません。 Bob Williston のスピリチュアルなメッセージ、心温まるサウンドを聴くと、ミルクティーでも飲みながらゆっくりくつろぎたくなります。 ありきたりのクリスマス・ソングではちょっと過剰だなと思えるような場面でひっそりと流れていて欲しい...そんなマイルドなアルバムです。



■Bob Williston / Gypsy Fortune■

Side-1
Gypsy Fortune
Blue Boy
Sky-High Flying Dove
Dare To Dance
Serenade

Side-2
Newspaper Daddy
The Dawn
How Richer Can We Be
Touch Me Friendly
Peace In The City

Produced by Dale Jacobs
Musical Arrangements : Dale Jacobs

All Lyrics and Music by Bob Williston
Except ‘Blue Boy’ and ‘The dawn’ Lyrics by Stefan Neilson , Music by Bob Williston

Bob Williston : Vocals
Brian Harrison : Electric Bass
Doug Cuthbert : Drums & Percussion
Larry Kennis : Violin
Dale Jacobs : Fender Rhodes , acoustic piano , Roland RS-2000 synthesizer , Roland RS-201 String Ensemble , Orchestra Bells

AEON

Daybreak

2007-07-17 | Christian Music
■Daybreak / After The Rain■

  前回に続いて、雨を題材にしたアルバムを。 雨が上がったらということで、クリスチャン系のグループ Daybreak の「After The Rain」をピックアップしてみました。 アルバムを買うときには、どちらがタイトルで、どちらがアーティスト名なのか、分からないまま勢いで買ってしまった覚えがありますが、間違いなく Daybreak がアーティスト名です。
  このアルバムは 1976 年にナッシュビルで録音され、発表された作品ですが、ジャンル的にはクリスチャン・ミュージックの部類にカテゴライズされるものです。 さっそく、針を落としてみましょう。

  梅雨が明けたら夏の日差しということで、アルバム冒頭を飾る「Summer Sun」は、爽やかなアカペラ・コーラスナンバー。 続いているかのようにリズムセクションが聴こえてくると、それはすでに 2 曲目の「Who’s Fool Are You?」です。 「誰の虜なの?」という意味でしょうか。 パワー・ポップ的なナンバーに続いては、しっとり系バラードの「And I Love You」へ。 コーラスに、♪Jesus♪と聴こえてくるように、この曲は決して身近な人への愛を歌ったものではなさそうです。 つづく「He May Be Coming Soon」は、陽気なミディアム・ナンバー。  ここでの He も彼氏ではありません。 メンバー以外が書いた唯一の曲となる「Movin’ On」は、コーラスとベース、パーカッションのみのシンプルな楽曲。 それにしてはアルバム最長の5分超となっているのは、同じフレーズを繰り返しながら徐々に盛り上げていくという典型的なスタイルだからです。

  アルバムタイトル曲「After The Rain」には悲しい過去がありました。 それは、Daybreak のドラマーとして 2 年間いっしょにプレイしてきた Ray Sauder が 1975 年にニュージャージーで溺死してしまったという出来事です。 そして、その死の直前に彼が書き下ろしていたのが、この曲だったのです。 ということで、この曲はアルバムのタイトルにもなり、Ray Sauder がこの世に残した唯一の楽曲なのです。 そうした事実からは想像もできないように明るく陽気なナンバーなのですが、たしかに自分の運命を予感して曲作りをする人などいないですね。 この明るさが、悲しいエピソードと対比されて、アルバムのなかでも最も輝きを放つナンバーになっています。
  つづく「Free In You」はピアノに導かれるミディアム・バラード。 リード・ボーカルの伸びやかなハイトーンが印象的です。  「Send Me Your Rain」は、久しぶりに分厚いコーラスワークが堪能できるほんわか系のミディアムで、彼らの真骨頂が発揮されています。 つづく「Lord Forgive Me」は意識的にルーズでスワンピーなアレンジにしていますが、コーラスがきれいなのでその色に染まりきれていません。  ノーマルなカントリー「Back On The Road」に続いては、冒頭の「Summer Sun」の Reprise となりアルバムはエンディングを迎えます。   Reprise というよりは、曲の後半部分という感じに聴こえます。

 このようにアルバムを通じて言えるのは、ソングライティングは中々のものがあり、クリスチャン系のサウンドのいい部分が表れたアルバムだということです。 信仰心あふれる若者たちが、夢や希望を音楽にのせて表現する。 そんなレコードがアメリカの各地で録音され発表されたのが 1970 年代から 80 年代前半です。 政治的な背景や、経済的な問題などは時代それぞれに抱えていたはずですが、この時代のアメリカの音楽には、二度と見ることができない新緑のような眩しさを感じることがあります。



■Daybreak / After The Rain■

Side-1
Summer Sun
Who’s Fool Are You?
And I Love You
He May Be Coming Soon
Movin’ On

Side-2
After The Rain
Free In You
Send Me Your Rain
Lord Forgive Me
Back On The Road
Summer Sun (Reprise)

Produced by Randy and Monty Matthews

Marlin Nafziger : bass , vocals
Daryl Shirk : lead vocals
Jim Nafziger : lead guitar , harmonica , vocals
Fred Miller : drums
Vernon Stoltzfus : lead vocals , piano

Mike Johnson : bass . lead guitar , piano
Bobby Daniels : drums , percussion

Holy Kiss Records HK-01

Overland Stage

2007-05-19 | Christian Music
■Overland Stage / Overland Stage■

 大手の Columbia から 1972 年に発表されたものの、まったく話題にされないまま、35 年も経過してしまったアルバム。 その責任の所在はこのアルバム自身の出来にあるといっては元も子もないので、今回取り上げてみました。
 Overland Stage はノースダコタ州ファーゴ出身の 6人組。 「ファーゴ」といえば、1996 年製作の同名の映画を思い出します。 この映画は、コーエン兄弟が監督した作品の代表作のひとつ。 実際に起こった話に基づいているとか、それ自体ウソであるとかいろんな論評が飛び交っている作品でもあります。

 そんな彼らがレコーディングにやってきたのはお隣ミネソタでもなく、シカゴでもなく西海岸でした。 アルバムは、「To The Park」(シカゴ録音)以外全部が San Francisco の Columbia Studio なのですが、メンバーは荒涼とした故郷の空気感とはずいぶん異なったものを感じたのではないでしょうか。
 アルバムの裏面には「Six Jesus freaks playing rock and roll」で始まる簡単なバンド紹介が記されています。 従って、分類はクリスチャン・ミュージックとしましたが、サウンド的にはスワンプ色の薄い SSW 系フォーク・ロックとなっています。 スワンプ色が薄い理由はギターのあっさり感じとボーカルやコーラスの清涼感によるものでしょう。 また、コンガやフルートが効果的に使用され、時折ユニークなリズムが使用されるなど、一風変わった感触があります。 
乾いたコーラスと叫ぶようなフルートが砂漠をイメージさせる「Cherokee」や、アコースティックなグルーヴ感とフルートがマッチした「It’s Just Life」のような曲が彼らの得意のスタイルだと思いますが、「She Will Leave Me」のようなバラードでは、クリスチャン系ならではの癒しテイストが込められています。

 最もシングル向きと思うのは、メロウな繰り返しが気持ちいい「Don’t You Believe」でしょうか。 とはいえ、ヒットする可能性を微塵も感じないところは、セールスの結果を知っているからだけではありません。 どこをどう切り取っても、売れるファクターが見当たらないのです。 こうした田舎のバンドを、どのような意図をもってメジャー・レーベルが契約し、西海岸にまで連れてレコーディングしたのでしょうか。 その謎を解くべく、プロデューサーの Bob Destocki で検索してみました。 ところが、この人物もあまり多くの作品を手がけていないことがわかりました。 最も有名なところが、人気が下火になっていた(というよりも 1980 年代にアルバムがあったのか、という感じですが) Grand Funk Railroad の 1981 年のライブアルバムという程度です。 少なくとも売れっ子プロデューサーではないことは確信しました。

 そのようなマイナーな風が荒涼とした大地を吹き抜けていくこのアルバム。 もしかして、もう二度と聴かないのかも、と思いながらもレコード棚に戻してしまうのです。

 

■Overland Stage / Overland Stage■

Side-1
Salvation
Cherokee
She Will Leave Me
I’m Beginning To Feel It
Brother Moses

Side-2
To The Park
After You Leave Me
Don’t You Believe
It’s Just Life
Indian

Produced by Bob Destocki

Julian Elofson : congas , vocals
Dave Hanson : drums , vocals
Jim Flint : organ , piano
Steve Babbs : bass
Don Miller : lead guitar
Rick Johnsgard : guitar , flute , vocals

Columbia KE31319

Lydell

2007-02-20 | Christian Music
■Lydell / Wake Up Suddenly■

 前回に続いて、クリスチャン・ミュージックのアルバムを取り上げます。 今日の主人公の Lydell は作詞・作曲をいっさい行わないので、SSW とはいえません。 そこで、今日から Christian Music というジャンルを追加することにしました。 CCM (Contemporary Christian Music) にすると、1980 年代以降の AOR 風のサウンドをイメージしてしまうので、逢えてこのような表記にします。 それに伴って、過去に取り上げたアルバムもいくつか、このジャンルに登録変更を行っておきました。 

 さて、今日ご紹介するアルバムは、Lydell (本名は Lydell Feist )の 1976 年の作品。 おそらくはデビュー作だと思われます。 針葉樹の森の中に、映し出された Lydell の表情から推測するに、年齢はすでに 40 歳を超えているのではないかと思いますが、そんな Lydell の心温まるボーカルが全編にあふれるアルバムとなっています。 一部のアップテンポやカントリータッチの曲を除けば、ミディアムスロウで洗練され、品のいいサウンドが展開されています。
 なかでも、珠玉の名曲「On The Bank Of Lake Superior」がオープニングに控えており、そのことだけで名盤と躊躇なく呼びたくなります。 五大湖で最も大きな湖、スペリオル湖の湖畔にて、というタイトルも素敵ですが、この曲は素晴らしい音楽が時折垣間見せる奇跡ともいえる完成度です。 ジェントルで上品なメロディー、セルフコーラスのユニゾンとなる美しいサビ、シルクのようなストリングス、「Superior」を「♪すぺらいおーる♪」と優雅に発音するラスト…ついつい何度も繰り返して聴いてしまうこのような曲と出会った時こそ、レコード蒐集冥利につきる瞬間だと思います。
 
 他にも名曲が目白押しです。 今どきのカフェでかかっていそうなボサノバタッチの「Michelangero」や、美しいバラード「Just Believe」、「Small Girl」などが A 面では光ります。
 B 面も充実しており、とくに「God , A Woman & A Man」、「Cross Out No」、「Wake Up Suddenly」がお薦めです。 「God , A Woman & A Man」はピアノやストリングスを背景に、Lydell の繊細なボーカルが堪能でき、アルバムタイトルでもある「Wake Up Suddenly」はラストにふさわしい余韻を残してくれます。

 このように、このアルバムの魅力は Lydell の美声、美しいアレンジ、そしてクオリティの高い楽曲のトライアングルが高い打点で結びついているところなのですが、肝心のソングライターについて触れてきたいと思います。 名曲「On The Bank Of Lake Superior」、「Jesus Took My Troubles Away」、「Just Believe」、「There’s More To Jesus」の 4 曲が Steve Keck なる人物のペンによるもの。 残念ながら、この人物については情報を得ることができませんでした。 「Michelangero」と「Wake Up Suddenly」が、John Cowan によるもの。 彼もどのような人物なのか不明です。 これ以外の作曲者も、聞いたことのない人物ばかりなのですが、このような優れたソングライターが埋もれているというのもクリスチャン・ミュージックというジャンルの底の深さなのでしょう。

 気がつけば 2月も下旬。 日差しは伸び、春の足音が次第に聞こえてくる季節。 そんな静かな夜に、Lydell のレコードを聴くひとときは僕にとって最高の癒しなのです。

 

■Lydell / Wake Up Suddenly■

Side-1
On The Bank Of Lake Superior
Michelangero
Jesus Took My Troubles Away
Just Believe
Small Girl

Side-2
Count On Me
God , A Woman & A Man
There’s More To Jesus
Cross Out No
Wake Up Suddenly

Produced by Lydell Feist
Orchestration arranged and conducted by Billy Barber
Engineered by Paul Martinson and Scott Rivard
Recorded at Sound 80 Studio , Minneapolis , Minnesota

Lydell : all vocals
Steve Keck : acoustic guitars , background vocals
Larry Larson : acoustic guitars
Jimmy Johnson : bass guitar
Paul Nye : electric guitar
Billy Barber : fender Rhodes , background vocals
Gary Gauger : percussion
Bill Berg : precussion
Dave Carr : clavinetta , recorder
Cal Hand : pedal steel
Lonnie Knight : electric guitars

Golden Streets Music