Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Bill Destler

2006-09-28 | SSW
■Bill Destler / September Sky■

 毎年、秋の訪れとともにレコード棚から引っ張り出す 1枚。 このブログを立ち上げたときから、9 月の最終投稿はこのアルバムにしようと密かに思っていたレコードです。
 これは、いまやバンジョーコレクターとして有名らしい Bill Destler が 1973 年に残した唯一のアルバム。 セピア色のジャケット、茂みに座ってギターを爪弾く Bill の姿、そして大きくレイアウトされた文字。 このアルバムの持つ独特の寂しさと味わいを見事に表しているように思います。 センスのあるデザインではないと思いますが、その洗練されていないもどかしさ故に、心に染みてくるような気がします。

 このアルバムは、ブックマークしている素敵なページ「S.O.N.G.S」でも取り上げられましたが、1 曲目の「Septembersong」の持つ味わいがアルバム全体の印象に直結しているように思います。 静かに爪弾かれるギターをバックに、つぶやくようなボーカルで歌われるこの曲は、吹く風がひんやりし始めた 9月に、ふと気づいてしまった自分の孤独さを歌にしたかのようです。 夏の終わりとともに恋が終わってしまったかのような寂しさに包まれた名曲と言えます。 アルバムでは重要な役割を果たしている Ron Rutowaski との息のあったギターが聴ける「Go Jump In The River」、ベトナム戦争で離れ離れになってしまった友人兄弟のことを歌った「Pack The Flag Away」など、アルバムは淡々と進行していきます。 A面ラストの「Daddy , What’s A Train」は、親友である Bruce Philipps の曲で、バンジョーの響きも優しいオールドタイミーなサウンド。 Ron Rutowaski のコーラスも楽しめます。
 B 面も粒ぞろいですが、なかでも「Green Grass」が秀逸です。 別れ(Separation)と再会(Reunion)をテーマにしたこの曲は、「Septembersong」のような深い哀しみではなく、哀しみの向こうに見えたかすかな光、あるいは木漏れ日から見えるささやかな希望を感じ取ることができます。 Bill 一人の弾き語り「Willie Moore」につづく「Came Into Spring」は珍しく明るめの曲調。 Bill 自身は「Happy song」と表現していますが、「ハッピーな歌よりも悲しい歌のほうが書きやすい」ともコメント。 この言葉は Bill Destler 自身の性格や人生観をよく表したものですね。 「Every Day She Takes A Piece Away」は、「多くの人が過去にすがって生きていると感じる。それは悲劇だ」というコメントが添えられている曲。 そういう意識で聴くせいか、Bill のボーカルが他の曲よりも力強く、雄々しく聴こえます。 ラストの「Little Jimmy Brown」はトーキングスタイルの曲で異色といえば異色。 最後が「アーメン」で終わるあたりはクリスチャン・ミュージックかのようです。

 アイビーリーグのコーネル大学のある町として有名なニューヨーク州のイサカ。 人口も数万人しかいない小さな町ですが、周囲には多くの滝があり豊な自然に囲まれているとのこと。 そんな町を拠点にしたローカルレーベル「Swallowtail Records」は素朴で良質なアコースティック・サウンドが特徴です。 そろそろ 9月も終わり… イサカの町の木々も徐々に色づきはじめるのでしょう。
 澄み切った 9月の空の下、若き日の Bill Destler が見つめる先にはどのような風景が広がっていたのでしょうか。 

 

■Bill Destler / September Sky■

Side-1
Septembersong
Go Jump In The River
Pack The Flag Away
Beth Is A Ling Way From Home
Threes and Fours
Daddy , What’s A Train

Side-2
Green Grass
Willie Moore
Came Into Spring
Never You Mind
Every Day She Takes A Piece Away
Little Jimmy Brown

Bill Destler : guitar , vocal ,
Ron Rutowaski : guitar , five string banjo , fiddle

All Songs were written by Bill Destler
Except ‘Daddy , What’s A Train’ by Bruce Phillips and ‘Willie Moore’ traditional

Producer : Phil Sharpiro
Engineer : Ken Coleman
Cover Design : Vic Curran
Photography : Carl Stecker

Swallowtail Records ST-3

Rick Fielding

2006-09-23 | Folk
■Rick Fielding / Solo■

 情けないジャケットやチープなデザインのレコードは、世の中に満ち溢れていると思いますが、普通はその情けなさが愛しかったり、チープさが憎めなかったりするものです。 しかし、Rick Fielding のこのジャケットセンスは何度見ても好きになれません。 もう少し何とかならなかったものでしょうか?

 そんなアルバムですが、これは最近まで現役で活動を続けていたカナダのミュージシャン Rick Fielding が 1979 年に発表した作品。 おそらく、ファーストアルバムではないかと思いますが、彼の公式サイトにも過去のディスコグラフィーが掲載されていないため、何とも言えません。
 内容のほうは、習作あるいはデモに近い作品といえるでしょう。 特に優れた作品でもなく、Rick Fielding 自身に強烈なクセとか個性が感じられないため、あまりお勧めできるものではありません。
 お勧めの曲は、しっとりした弾き語りの「This World’s No Place To Live In」と「Nancy’s Song」です。 後者はジャケットの写真を撮った女性 Nancy Perrir のことを歌った曲です。 バンジョーのインストも「Nervous Breakdown」と「Ural Mountain Yak Steppe」と2曲ありますが、ここまで紹介した4曲以外はすべてライブ・レコーディングです。 そんなクレジットは書かれていないので、最初に拍手を聞いたときにはかなり驚きました。 ライブとは判らないくらいに静かなライブハウスでのレコーディングだったのでしょうか。 拍手の人数も遠くの方に10人、という風ににしか聞こえません。 しかし、このライブですが、時折ハーモニーが聴こえてくることが気になります。 ジャケットのクレジットでは、すべての楽器やボーカルは Rick 自身によるものと書かれていることから、ライブ録音に自身のハーモニーだけを重ねたのではないかと推測しています。 うーん、そんな手間かけるのであれば、最初からきちんとレコーディングすれば良かったのに、と思ってしまいますが、このジャケット・デザインも含め、当時の関係者もしくは本人しか知り得ないような特別な事情があったのでしょう。 A 面 16分46秒、B 面 12分13秒という収録時間からも、そんなことを思ってしまいます。

 残念ながら Rick Fielding はガンとの闘病生活の末に 2004年 3月に亡くなったそうです。 公式ページには、このアルバムに関する記載はありませんでしたが、ギターをもった写真を見ることができます。 その表情から間違いなく、同一人物であることを確信しました。

 

■Rick Fielding / Solo■

Side-1
This World’s No Place To Live In *
Nervous Breakdown
Waiting For Me
Dancers In The Rain
Kelly’s Tune
Song For Charlie Chamberlain

Side-2
Ural Mountain Yak Steppe
Nancy’s Song
Pit Ma Blues
Tanis Of The Darkness
Mr. Sam’s Rag

All Songs were written by Rick Fielding
Excpet * by Duffrey , Hill

The concept , production ,and all instruments and vocals wer done by Rick Fielding

Top-Cat Records RF-1001

The Family

2006-09-22 | Folk
■The Family / The Mountains Sing■

 ある晩、家族勢ぞろいした食卓でお父さんは言いました。 「なあ、家族みんなでレコードを作ってみるなんてどうかなぁ?」 それに対して、母は無言。 娘「えー、やだぁ。かっこ悪い~」、息子「ありえねえ~」…… そんな反応となるのが日本のごく普通の家庭ではないでしょうか。

 しかし、30 年近く昔のアメリカでは、母「面白そうね~」、娘「それって素敵!」、息子「いいアイディアだよ、お父さん!」みたいなことがあったのかもしれません。 いや、そんな風景があったに違いないからこそ、このようなアルバムが存在しているのです。 1979 年、バージニア州での Clynard C. Belcher 一家では、おそらくそんな場面があったのです。

 そんなことが現実となって、有体物となって僕の手元に渡ってきたのが、このレコード。 なんで、こんなレコードを持っているのかと聞かれても、うまく答えられないのですが、アメリカのおそらく裕福な家庭ドラマともいえるこのアルバムをご紹介しましょう。
 まずは、「The Family」のことから。 Clynard C. Belcher と Anita A. Belcher 夫妻に、息子の Hugh と Kerry 、娘の Becky と Judy という 6 人家族構成となっています。 Becky と Judy はすでに結婚していて、それぞれMorecraft 、Rogers という名前になっています。 しかも、バージニアには住んでいないようです。
 そんな離ればなれになっている Becky や Judy を集めて、1 枚のレコードを残すとは、家族愛にあふれた家族なのか、Clynard の家長としての求心力の強さの表れなのでしょう。
 
 アルバムは、ゆったりしたワルツが多く、古典的なフォーキーなのですが、全曲オリジナルというところは驚きです。 なかでも素晴らしい出来なのが、Becky と Judy 姉妹のデュエット「Tell My Mountains I Said Hi (For Becky)」と「Granny Anne (For Anne Fuller Anderson)」です。 前者は姉妹の微妙なビブラートと清楚な歌声に魅了されるばかり。 後者のほうは、唯一の Becky 作曲のものなのですが、アルバムの代表曲と言えるでしょう。 Becky の澄んだソプラノをメインに、コーラスも伸びやかにサポートするのですが、曲の途中で「Amazing Grace」のサビの部分をうまく挿入してくるあたりが実に良く出来ています。
 他の曲は、Becky や Judy のソロに近いものが多いのですが、「Hills of Virginia (For Tommy)」と「Take Me Back」は、長男である Hugh のリードボーカル。 彼の声はなんとなく James Taylor に似ており、リラックスしたアルファ波が出ていそうな雰囲気です。 クレジットを見てもわかるとおり、Clynard 夫妻は前面には出てきません。 二人の娘をフィーチャーしたかったのでしょう。

 さて、そんなこの家族はいまも健在なのでしょうか? そんなことを探りたくなったので、検索してみたところ、Clynard 夫妻は、いまもバージニア州で保険業を営んでいるようです。 そこには住所もメールアドレスも掲載されていました。 4 人の子供たちも、すでに立派な中年になっているはず。 時折、このアルバムのことを思い出したりするのでしょうか。 もし、長男にインタビューすることができたら、きっとこんな答えが返ってくるのでしょう。

「レコーディングは楽しかったさ。 アルバムが完成したときは嬉しかったよ。 中身も悪くないと思うんだけど、あんまり売れなかったんだ。 僕たちは、それはお父さんの描いたあのジャケットのせいってことにしていたんだよ!」

 

■The Family / The Mountains Sing■

Side-1
Tell My Mountains I Said Hi (For Becky)
Hills of Virginia (For Tommy)
The Swallow – High Above A Mountain
Going Home To The Mountains

Side-2
So You Want To Come Back
Granny Anne (For Anne Fuller Anderson)
Take Me Back
Life Has Been Hard (For Sarah Raines Anderson)

Producers : Clynard C. and Anita A. Belcher
Cover Design : Clynard C. Belcher

‘Granny Anne’ written and composed by Becky B. Morecraft
The reminder of the songs written and composed by Anita A. Belcher

Singer Credits
Becky B. Morecraft , Judy B. Rogers , Hugh C. Belcher : lead
Becky B. Morecraft : soprano
Judy B. Rogers : alto
Hugh C. Belcher : tenor
Clynard C. Belcher , Hugh C. Belcher, Kerry G. Belcher

Musician Credits
Kerry G. Belcher : 6&12 string guitarc
Judy B. Rogers : 6 string guitar
Hugh C. Belcher : piano
Chuck Tipton : rhythm and bass guitar and harmonica
Bruce Rush : Arp Omni

Transworld Records TWL-034

The Songsmith

2006-09-17 | SSW
■The Songsmith / The Songsmith■

 一見したら忘れられないイラストに、「The Songsmith」と書かれた不思議なアルバム。これは、昨日ご紹介した Bob Stromberg が「In New England」のリリース後に、Tracey Danz 、Rick Carlson と3人で結成したユニットです。 Stream Mountain から 1981 年に発表されています。 Bob Stromberg のソロアルバムが素晴らしい内容なだけに、このアルバムを初めて聴いた時には、かなりの期待を抱いたものです。
 ジャケ裏にクレジットされている曲名や、歌詞を斜め読みすればすぐに想像できるのですが、このアルバムは、子供向けのエデュケーショナルなクリスチャン・ミュージックという色合いの濃い作品です。 曲によっては、子供のコーラスも入ってきて、そんな曲は一瞬ですが、Carole King の「Really Rosie」を想起させたりします。 チャイルド系の曲も多いのですが、メロウでアダルティーな弾き語りなどもあり、しみじみした味わいのあるアルバムといえるでしょう。
 いい曲は数多いのですが、A 面では CCM 色の強い「My World」、「The Little One From Bethlehem」が秀逸。 ゆったりしたアレンジと予定調和な展開に落ち着ける仕上がりです。 ゆったりしたラウンジ風のピアノが華麗な「We’re A Family」もA面ラストに相応しい曲。 B 面では、2 分に満たない「Lights To The World」や「Draw Me Closer」などの奥ゆかしい曲にセンスを感じますが、ラストの2曲が最大の聴き所でしょう。 ゆったりしたワルツ「A Child Of The King」の上品さは格別。 ラストの「Children’s Prayer」は意外にも、ラウンジでカクテルでも飲みながらで聴きたいジャジーなナンバー。 時折垣間見せるこうした洒落たセンスは、アレンジを手がける Rick Carlson の手によるものなのでしょう。
 そんな SSW/CCM 的な楽曲もありますが、ほとんど教育テレビに近いものもあったりします。 「Oh Clap Your Hands」は、子供のコーラスが可愛らしいのですが、「ハレルヤ」ではなく、「アレルー」と歌うあたりは対象年齢が低いのかなあ、なんて思ってしまいます。他にも「I’m A Fisherman」や「Don’t You Worry」「Make Us A Song」などで子供たちのコーラスが聴けます。 ひと言でまとめると、この作品は家庭で親と子の両方が楽しめるように意図された宗教教育的な性格の色濃いアルバムということになるのでしょう。

 Bob Stromberg 主催のプライベートレーベルと思われる Stream Mountain ですが、この Bob の「In New England」と「The Songsmith」以外の作品を見かけたとはありません。 そういえば、レーベル名に「Mountain」がつくレーベルは良質なところばかりのような気がします。 ウィスコンシン州の「Mountain Railroad」、バーモント州の「Green Mountain」は比較的規模が大きいですね。 他には、Steve Eaton のセカンドで有名な「Mountain Bluebird」 がありますが、この「Stream Mountain」も仲間に入れてあげてください。

 

■The Songsmith / The Songsmith■

Side-1
The Sun’s Comin’ Up
Oh Clap Your Hands
My World
The Little One From Bethlehem
I Am What I Am
I’m A Fisherman
We’re A Family

Side-2
Family Tree
Don’t You Worry
Lights To The World
Draw Me Closer
Make Us A Song
A Child Of The King
Children’s Prayer

The Songsmith ; Rick Carlson , Tracey Danz , Bob Stromberg

All Songs written by Bob Stromberg except
A-④, B-③⑥ by Tracey Danz
A-③⑤, B-① by Rick Carlson
B-④⑤ by Bob and Judy Stromberg
B-⑦ by Rick Carlson and Bob Stromberg

Music arranged and directed by Rick Carlson
Engineered by Bob Stromberg
Produced for Stream Mountain Music by The Songsmith

Stream Mountain Records SM 8101

Bob Stromberg

2006-09-16 | SSW
■Bob Stromberg / In New England■

 「ニューイングランドの秋」
そんな邦題を勝手につけたくなるような素晴らしいアルバムです。 7 月 16 日のブログでも取り上げた Bob Stromberg のこれは、おそらくセカンドアルバム。 1980 年の作品です。前作がシカゴで録音されたのですが、これはメイン州に拠点を置く「Stream Mountain Records」からのリリースです。 メイン州やバーモント州などの 6 州を「New England」と呼ぶようなのですが、このアルバムを聴くと、歴史も古く自然が豊かで、四季のうつろいがはっきりしたこの地方を、一度は訪れてみたくなるような気にさせてくれます。

 全体として、前作よりもシンプルで透明感のある出来上がりで、録音も良く、より私的な内容になっているという印象です。 繊細で透明感のある弾き語り「I’d Love To Live In New England」は、今日のように湿気のないからっとした晴天によく似合います。 アップでカントリーテイストもある「Hembygden」につづく「Baby Mine」は名曲。 子供たちへの愛情を表現したサウンドの後半にほのぼのしたホーナー社製のピアニカが登場するあたりは、叙情的な SSW 好きにはたまりません。 そんなピアニカの素朴なメロディーによるインスト「Melody」は、映画のワンシーンで使えそうな曲です。 アップでファニーな「High Steppin’」を挟んで、これまた美しいバラード「Was It I」へ。 乾いた響きのギターに Bob Stromberg の優しい声が重なり、暖炉の前のような暖かさを感じます。
 B 面もクオリティは落ちません。 奥さんへの愛を歌った「「It’s Just You , Dear」も秋風のひんやりした感じと、この秋にはじめて長袖のネルシャツを着た時のような暖かさが同居している感じです。 歌詞カードには、1976 年 5月24 日、結婚 2 周年の日に書かれた曲との記載があります。 Bob Stromberg はジェントルマンですね。 ミディアムな「What Do You Say?」は、転調するところではっとする感じ。 タイトルだけで曲調がイメージできる「Child In A Mother’s Arms」も音数の少なさが心に染みます。 1 分に満たないインタリュード的な「The Iowa Interstate Tatooed Toad Tune」を挟んで、淡々とした味わいの「Frozen Light」、「Rivers Of Light」でアルバムは静かに幕を閉じます。 アルバムの後半で特に盛り上げていかない感じも、良質で上品なサウンドを表しているかのようです。

 このアルバムを、久しぶりに晴れた土曜日の午前中に取り出して聴いていますが、そんな聴き方が似合うなあ、なんて勝手に自己満足してしまいました。 数日後にやってくる台風が過ぎ去ったら、いよいよ本格的な秋の到来です。

 


■Bob Stromberg / In New England■

Side-1
I’d Love To Live In New England
Hembygden
Baby Mine
Melody
High Steppin’
Was It I

Side-2
It’s Just You , Dear
What Do You Say?
Child In A Mother’s Arms
The Iowa Interstate Tatooed Toad Tune
Frozen Light
Rivers Of Light

Bob Stromberg : lead vocal and back up vocal , guitar , piano melodica
Fred Malouf : guitar , bass
George Johnson : guitar

Produced by Bob Stromberg for Stream Mountain Music

All Songs were written by Bob Stromberg except ‘Melody’ by Dennis Moon and Bob
‘The Iowa Interstate Tatooed Toad Tune’ by Larry Swan and Bob

These songs were recorded in 4-track between February 9th and 22nd 1980 ,in Little Studio

Stream Mountain Records

Leon & Malia

2006-09-13 | Folk
■Leon & Malia / Leon & Malia■

 忘れ去られようとしているアルバム。 そんなアルバムは世界に数多く存在すると思いますが、これはハワイでいまなお現役(と言っても、ハワイアン・クラシックや子供向けの音楽活動ですが)で活動しているデュエット Leon & Malia のデビューアルバム。 このアルバムについては、彼らの公式ページにも一行だけ記載されているだけで、ディスコグラフィーからは外されており、その存在を知ることはかなり難しくなってきています。 

 そんなこの Leon & Malia のファーストアルバムは、ハワイではなく西海岸でレコーディングされました。 発表年は明記されていませんが、おそらく1970 年頃の作品です。
 収録曲は、A 面 1 曲目にサイモン&ガーファンクルの「The Boxer」が、B 面 1 曲目には、ドノヴァンの「The Hurdy Gurdy Man」がカバーされている以外は、オリジナルの楽曲となっています。 どちらのバージョンも、ふたりの美しいボーカルとハーモニーに包まれた仕上がりとなっていますが、両面の 1 曲目に収録するあたりは、レコード会社の安易な発想が丸見えです。 他のオリジナルでは、「Heeia」や「Na Alii」が現地語で歌われるトラディショナルであるほかは、癒し系のハーモニーが全面を満たすようなミディアム・スローな楽曲ばかりです。 とくに、「Stone Shepherds」を聴いていると思い出すのが、1971 年に A&M から発表された Tom Jans & Mimi Farina の「Take Heart」。 このアルバムの持っている雰囲気と、この Leon & Malia は、かなり似ているといえるでしょう。 もしかすると、Richard & Mimi Farina のほうが近いのかもしれませんが、僕はきっちり聴いたことがないので何とも言えません。 
 他の曲では、Bruce Langhorne のギターをバックにしたおだやかな「Funny Ways」、見上げたら曇り空という曲調の「Looking At The Sky」、ソフトロック色を感じる「New Day」などが聴き所です。 Malia が参加していない唯一の曲「Calling Me」は、まったく別物に聴こえてしまいます。 ということは、Malia の清涼な声の存在感が大きいということでしょう。

 さて、このアルバムを取り上げたきっかけは、前回の John Braden のアルバムにもギターで参加していた Bruce Langhorne が全面参加しているということ。 Bruce Langhorne は、1960 年代の Bob Dylan や Carolyn Hester 周辺で活躍したギタリスト。 いまも元気に活躍しているみたいで、彼のホームページには参加したアルバムのコンプリート的なディスコグラフィーが掲載されてました。 ところが残念なことに、ここにも Leon & Malia のアルバムは載っていません。 本人が忘れてしまったのか、アルバムを持っていないのか、なのでしょうか。 
 このような事が重なって、このアルバムの存在そのものが忘れ去られようとしているのです。 レコードの世界では、別に珍しい話でもないかもしれませんが。

 

■Leon & Malia / Leon & Malia■

Side-1
The Boxer
Funny Ways
Heeia
Looking At The Sky
New Day

Side-2
The Hurdy Gurdy Man
Stone Shepherds
Na Alii
Sea Splashing Sadly
Calling Me
North Shore Road

Leon Siu : vocals & acoustic guitar
Malia Elliott : vocals & Tambourine

Dennis Rasmussen : drums
Curt Jered : piano , bass
Bruce Langhorne : electric guitar , bass , percussion

Producer : Clayton Blehm
Recorded at Living Sound Recorders , Arcadia , California

Quadrum Records QSE-2004

John Braden

2006-09-10 | SSW
■John Braden / John Braden■

 仕事が忙しくて、久しぶりの投稿になってしまいました。 いつもマイナーレーベルの作品が多いので、今日はソフトロックの名門 A&M から発表された John Braden のアルバムを取り上げてみました。 1968 年にレコーディングされ、翌 1969 年に発表されたこのアルバムは、Ry Cooder が参加している作品として、彼のコレクターからは知られているものです。 Ry Cooder が実際に参加しているのは、2 曲だけなのですが、その件については曲の解説の方で触れたいと思います。

 この John Braden ですが、長身かつ小顔、美形にして美声ということで、売れる要素が全て揃っているかのように思えますが、そうは問屋が卸してくれなかったようで、中古市場に出回っているアルバムは、ほとんどが Promotional Copy のようです。 作品的にそれほど劣っているわけではないのですが、A&M というレーベルカラー、そして John Braden が兼ね備えた容姿が、かえって仇になってしまったのではないかと思ってしまいます。

 さて、そんな作品ですが、アルバムとしては A 面の出来がよく、B 面はやや劣ってしまいます。 Paul Horn のフルートがまるで小鳥のさえずりかのように聴こえる「Wild Birds」、ストリングスやオーボエの響きが上品な「Delancey Street」は高い叙情性を備えた楽曲です。 この 2 曲のようなクオリティをラストまで維持できていれば最高なのですが。 Richard Bell のエレピを基調としたオールドタイミーな「Furnished Rooms」に続き、Bob Dylan のカバー「I Want You」が始まります。 アルバムを通じてギターの弾き語りのみの曲なのですが、このカバーは一聴の価値があるかもしれません。 コメントしていませんでしたが、John Braden の美声というのは日本の叙情派フォークの歌手みたいに、高くて線の細い声なのです。 そんな声で、「I Want You」を歌うのですから、誤解を招きそうな表現となることを承知で言うと、さだまさしが Bob Dylan をカバーしたような印象なのです。
 さて、A 面ラストとB 面の 1 曲目は、Ry Cooder が参加した 2 曲となります。 この 2 曲は、Sneaky Pete , Richard Bell , Ry Cooder , Felix Falcon , Chris Etheridge という編成によるもの。 トラディショナルの「What A Friend We Have In Jesus」は、Sneaky Pete のソロを Ry Cooder がバックアップするというスタイルですが、2 人のギタープレイの味わいはかなり奥深いものを感じます。 「Carriage House Song」での Sneaky Pete のスティール・ギターも自由奔放なもので、この 2 曲はアルバム冒頭の 2 曲のテイストとは異なるものの、アルバムを語るには重要な要素となっています。 B 面は、地味で素朴なナンバーが続きますが、牧歌的なワルツ「Ribbons Of Friendship」、クリスチャン・テイストを感じるシンプルな「They Are Waiting」などが印象的です。
 このアルバム以降の John Braden の足跡をネットで追ってみましたが、アルバムらしきものはありませんでした。 1971 年から最近では 2003 年まで、映画の脇役に時折クレジットをみつけることができた程度です。

 表のジャケットは黄色く染まった木々の前で帽子を脱いで決める John Braden。 裏ジャケは枯れ野原に佇む写真となっていますが、これはアルバムのレコーディングが行われた 1968 年の秋の風景なのでしょう。 目を閉じて、レコードを聴きながら、38 年前のカリフォルニアの秋風を想像するのも秋の夜長の過ごしかたの一つですね。

 

■John Braden / John Braden■

Side-1
Wild Birds
Delancey Street
Furnished Rooms
I Want You
What A Friend We Have In Jesus

Side-2
Carriage House Song
Baptist Funeral
Hand Me Down Man
Song To Raymondo
Ribbons Of Friendship
They Are Waiting

Produced by Michael Vosse & Henry Lewy
Arranged by Richard Bell except ‘Song To Raymond’ by Sneaky Pete

All Songs Written by John Braden
Except ‘I Want You’ by Bob Dylan , ‘What A Friend We Have In Jesus’ traditional

John Braden : acoustic guitar
Richard Bell : electric guitar , celeste , piano
Paul Horn : flute
Felix Falcon : drums
Judd Huss : bass
Gene Cipriano : oboe
Ry Cooder : acoustic guitar
Sneaky Pete : pedal steel guitar
Chris Ethridge : bass
Bruce Langhorne : electric guitar
Russ Titleman : acoustic guitar

Paul Shure Strings Quartet
Jules Chaikin Horn Ensemble

A&M Records SP 4172

Sparky Grinstead

2006-09-02 | US Rock
■Sparky Grinstead / Won Out■

 1978 年、カリフォルニアのオークランドの自主制作レーベルから届けられた愛しいアルバム。 Sparky Grinstead の「Won Out」を取り上げてみました。

 このアルバムは、昼下がりによく似合うリラックスしたハッピー・サウンドです。 逆にいうと、秋の夜長にじっくり聴くタイプのものではありません。 ということで、久しぶりに聴いたのも土曜日の午後 2 時、昼食を済ませた時間でした。 ジャケットのデザインからもある程度イメージできるのですが、このアルバムはひと言で言うと、シンプルでメロディックなフォーキーです。 若い人向けに言うならば、1990 年代のイギリスのネオアコ的なサウンドとも言えるでしょう。 ちょっとマイナーですが、John Cunningham や Harvey Williams のソロ作品の持つ味わいに似たものを感じます。

 アルバムの内容を簡単にご紹介しますと、全曲が Sparky Grinstead の多重録音で出きており、曲によって恋人と思われる Arlene Lee のピアノが彩りを添えるという構成となっています。 A 面に針を落とすと、唐突にサウンドコラージュ的な SE が入り、すぐに「Fall On Me」が始まります。 この曲は陽だまりのなかでビールを飲んでいるときのような心地良さで、アルバムを象徴する名曲です。 落ち着いてメロウな「Love Is All Right」、弾き語りの雰囲気がピクニック気分の「Trucks In The Sky」では、はじめてArlene Lee のピアノが聴けます。 続く「No Magic」はアルバム随一のバラードです。 「珠玉の」と形容するほど、精巧なアレンジや切れのある場面はないのですが、逆にこの二人のシンプルな編成だからこそ、胸がキュンとしてしまう気がします。 ちなみに、この曲のエンディングには曲と関係のないセッションが数秒収録されています。
 B 面では、「Everything They Say」が出色の出来です。 セルフユニゾンするハーモニーの清涼感、美しいメロディ、サビでのバックコーラスなど、内容的には突出して完成度の高いものになっています。 タイトル通りブルースっぽい「You Know Me Blues」や二拍子のポップソング「Breaking Point」も悪くありません。この曲だけはライブの一発録りらしき「Ten Years (Abortive)」では、他人の息使いや気配を感じ取ることができます。 陽気なロックチューンの「Big Ass」が終わると、オープニングに似た細切れのコラージュとなり、クレジットの通り「Fall On Me」が20 秒程度ですが細かく裁断されてエンディングを迎えます。 このようなユニークなオープニングとエンディングも、このアルバムをより個性的なものにしているような印象です。 

 さて、僕は以前からこのアルバムが彼の唯一の作品だと思っていましたが、ネットで調べたところ、Sparky Grinstead Project という準公式サイトのようなものがあり、それによると通算 3 枚あるうちの、2 枚目だということが判明しました。 1 枚目も3 枚目も見かけたことはありませんが、今はそのサイトから CD でも買えるようです。
 本名は、Earl J. Grinstead Jr. とクレジットされている Sparky Grinstead と唯一のゲストメンバーでもある恋人の Arlene Lee の名前からネーミングしたと思われる Sparlene の1001 番となっているこのアルバム。 両面合わせて、25 分しかないアルバムですが、ポップな味わいの私的な SSW アルバムとして、毎年 5 月頃から 9 月頃の間に聴きたい作品ですね。 梅雨時期と盛夏には似合いませんが。



■Sparky Grinstead / Won Out■

Side-1
Fall On Me
Love Is All Right
Trucks In The Sky
No Magic

Side-2
You Know Me Blues
Everything They Say
Breaking Point
Ten Years (Abortive)
Big Ass
Fall On Me

Piano and Electric Piano : Arlene Lee
Vocals , Guitars , Bass and Drums : Sparky Grinstead

Produced by Sparky Grinstead
Remix Engineer : Jim Weyeneth
Photography : Steve Hanamura

Sparlene SP-1001