みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1442「神対応」

2024-01-11 18:16:57 | ブログ短編

 彼女がそれに気づいたのは、つい最近(さいきん)のことだ。見えないはずのものが見えてしまう。よくある話なのだが、彼女の場合(ばあい)はちょっと違(ちが)っていた。
 彼女が見えてしまうのは神(かみ)さま…。しかも、どういうわけか、神さまは彼女に愚痴(ぐち)をこぼすのだ。人間(にんげん)たちへの不満(ふまん)や憤慨(ふんがい)をぶちまける。普通(ふつう)の人なら耳(みみ)をふさぎたくなるような話しだ。でも彼女は生まれつき優(やさ)しい性格(せいかく)なので、親身(しんみ)になって聞いてあげていた。
 それで気に入られてしまったのか、日を追(お)うごとに現(あらわ)れる神さまが増(ふ)えていった。ついには行列(ぎょうれつ)ができるくらいに…。仕事中(しごとちゅう)でも神さまは話しかけてくる。これでは仕事が手につかない。でも、どういうわけか彼女の仕事がどんどん他(ほか)の人にまわされていく。きっと、これは神さまの仕業(しわざ)なのだろう。
 それから幾日(いくにち)も、彼女は寝(ね)る時間(じかん)を削(けず)って神さま対応(たいおう)を続(つづ)けていた。それでも、行列がなくなることはなかった。とうとう彼女は過労(かろう)で倒(たお)れてしまった。
 病室(びょうしつ)で寝ていると、見知(みし)らぬ女性が見舞(みまい)にやって来た。その女性は彼女に言った。
「ごめんなさいね。あなたには迷惑(めいわく)をかけてしまったわ」
 彼女は首(くび)を振(ふ)って、「いいえ。あたしは……。あの…どなたですか?」
 女性はそれには答(こた)えず、「もう、あなたのところへは誰(だれ)も行かせませんから。安心(あんしん)していいわよ。このお礼(れい)は必(かなら)ずするから、ゆっくり休(やす)んでね」
<つぶやき>この女性はいったい何者なのか…。神さまの元締(もとじ)めなのかもしれませんね。
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0001「いつか、あの場所で…」

2024-01-07 18:18:29 | 連載物語

 「初めの一歩(いーっぽ)」1
 初めてあの子を見たのは、校庭の桜が散り始めた頃。桜の花びらが教室の窓から突然舞い込むように、彼女は僕の前に姿を現した。<上野さくら>これが彼女の名前だ。僕がこんなことを言うのは変だけど、彼女は他の女子とは違っていた。まるで別の世界から来たみたいに…かわいかった。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、彼女の目には星がきらめいていた。少女漫画によくあるあれだ。僕はバカにしてたけど、本当にきらめいていたんだ。僕の目は、彼女に釘づけになった。先生が何か言ってるけど、僕の耳には入らなかった。まるでスロー再生のビデオを観ているように、ゆっくりと動いている。彼女の笑顔はお日様よりも明るく輝き、彼女の声は天使の歌声のように僕の心に響いた。僕は天使がどんな声なのか知らないけど、そんなことはどうでもいい。
「じゃ、席はそこの空いてるところね」先生がそう言う。彼女がどんどん近づいてくる。僕は彼女をそれ以上見ることが出来なかった。でも、聞こえるはずのない彼女の足音や息づかいが、僕の耳に飛び込んでくる。僕の心臓は高鳴り、口から飛び出しそうになった。彼女は間近で止まり、隣の席に座った。ほのかな香が鼻をくすぐる。今まで嗅いだことのない、これが都会の香なのかなぁ。「よろしくね」彼女はそう言って笑顔を僕に向けた。僕は不意をつかれた。何も答えられず、ただ頷いただけで目をそらす。…横目で彼女を見る。もうそこには、あの天使の笑顔はなかった。
 彼女はすぐにみんなにとけ込んだ。でも僕は…。何でこんなにどきどきするんだろう。こんなことは初めてだ。僕は人気者ってわけでもないけど、みんな友達だし女子とも平気でふざけあったりする。でも、彼女の前だと…。何も言えなかった。桜の花のように可憐で繊細で、笑ったときのえくぼがまぶしかった。僕は…、彼女と友達になりたかった。
 僕らの学校はそんなに大きい方じゃない。クラスの数も少ないからみんな知っている顔ばかりだ。その中でもゆかりは特別だった。何が特別って、一年の時からずっと同じクラスなんだ。でも、それだけじゃなくて、もっと深い因縁で結ばれていた。それは、物心がつく前から側にいたことだ。兄弟だと思われていたときもある。いつも男の子みたいな格好をして飛び回っていた。ゆかりにはいつもハラハラさせられる。何をするか分からなくて、怒られるときはいつも一緒だ。僕には関係ないことでも「幼なじみでしょう」の一言で付き合わされた。ときどき何でこいつとって思うときがある。明るくて気さくな子なんだけど男勝りなんだ。僕が知っている限り、喧嘩で一度も負けたことがない。僕でも勝てないかもしれない。だぶん男の兄弟の中で育ったから、闘争心に溢(あふ)れているのかもしれない。悪戯が大好きで、思ってることはすぐ口にしてしまう。だからゆかりと友達付き合いするのは難しい。一番長く付き合っている僕だって、ついていけないときがあるからだ。でも、不思議と彼女とはすぐに打ち解けて、いつの間にか友達になっていた。なんでだ? ぜんぜんタイプが違うのに。話が合うんだろうか? ちょっと羨ましかった。二人が楽しそうに笑っているのを見ると、心の何処かでもやもやとしたものが生まれてくる。…それがいけなかったんだ。この後、取り返しのつかないことになってしまった。
<つぶやき>春は出会いの季節です。いい出会いがあると良いですね。
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1441「制御不能」

2024-01-02 18:05:18 | ブログ短編

 あたしは、とあるホテルで開かれたパーティーに来ていた。こういうところはどうも苦手(にがて)なんだけど、仕事(しごと)がらみなので断(ことわ)ることができなかった。知ってる人もほとんどいないみたいだし、適当(てきとう)に切(き)り上げて帰るつもりでいた。それなのに…。
 あたしは、そこにいた一人の男性に釘付(くぎづ)けになった。その人のことが気になって目を離(はな)すことができない。誤解(ごかい)のないように言っておきたいんだけど…。別に、これは一目惚(ひとめぼ)れとか…そういう類(たぐ)いのあれじゃないからね。だって、全然(ぜんぜん)、あたしのタイプじゃないし、魅力的(みりょくてき)な人には見えない。あたしの目がおかしくなったとしか思えないわ。
 あたしがずっと見つめているのを、もしあの人に気づかれてしまったら? あたしはぞっとした。でも、あたしの目が勝手(かって)に追(お)いかけてる。どうしたらいいのよ。
「そうだわ。帰ればいいのよ。もう帰ってもいい時間(じかん)だわ」
 あたしはすぐに行動(こうどう)に移(うつ)した。でも、どういうわけか…今度(こんど)は足が動(うご)かない。なんでよ。なんでいうこときいてくれないの? あっ、まずいわ。あの人がこっちを見たわ。あたしは思わず目を閉(と)じた。しばらくして目を開(あ)けてみると…。
 なんでよ。あの人がこっちを見てる。あたしを…あたしのことを…。逃(に)げなきゃ。でも、足が動かない! あの人が、こっちに向(む)かって歩(ある)き出した。もう、だめ。もう、こうなったら…どうにでもなれよ。やってやろうじゃないの。かかってきなさいよ!
<つぶやき>これは、もしかしたら運命(うんめい)かもしれませんよ。お話(はな)しだけでもしときましょ。
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