徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:Ostfried Preußler著、『Krabat』(Thienemann)

2019年09月29日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行
この前読んだ『Das kleine Gespenst(小さなゆうれい)』に続いて、1972年度ドイツ青少年図書賞(Deutscher Jugendbuchpreis)を始めとする様々な文学賞を獲得した作品『Krabat』を読んでみました。ハードカバーで256ページの長編で、August der Starke アウグスト強健王として知られるザクセン選帝侯アウグスト1世兼ポーランド国王アウグスト2世の治世(1694~1763年)の時代の話のため、今では使わなくなった言葉やザクセン方言・スラブ語の要素が混じり(Kantorka = KantorinやFöhre = Kiefer「松」など)、調べることが多く、自分のドイツ語の語彙力が乏しいのではないかと疑いましたが、中にはドイツ人のダンナも首をかしげるものがあって(dritthalb = zweiundeinhalb 「2½」、Scholta = Schulze 「町長」など)、ちょっと安心しました😅 児童文学と侮るなかれ、ですね。

両親を亡くした後乞食として暮らしていた14歳の Krabat クラーバットが夢のお告げ(?)に従い、好奇心から Koselbruch コーゼルブルッフにある水車小屋に行き、そこで製粉マイスターの弟子入りします。1年目、2年目、3年目と3章にわたって水車小屋での出来事、友情と死別の悲しみ、そして秘めた恋が語られます。
クラーバットは最初、嫌になったらやめて出て行けばいいと軽い気持ちで弟子入りしましたが、実はマイスターは魔法使いで一度弟子入りした者はマイスターの命じる用事で以外で敷地を出ることができないと判明します。1年で Lehrling 弟子から Geselle 職人となったクラーバットはその日から毎週金曜日の夜にカラスに変身して仲間たちと一緒にマイスターの魔法の授業を受けることになります。年末が近づくと仲間たちみんながナーバスになり、クラーバットの世話をしてきた Tonda トンダは「みんな怖がっているのだ。理由はいずれ分かる」と説明しますが、当のトンダが大晦日の日に死んでしまいます。彼の埋葬が終わるころ、新しい弟子が入ってきます。そして、その翌年も Michal ミヒャルという仲間が同じように唐突に死亡します。その後に同じように新しい弟子が入ってきます。このおどろおどろしいミステリーが1つの魅力です。もう1つはクラーバットの秘めた恋の話です。トンダが「好きになった女の子の名前を仲間の誰にも、ましてやマイスターに知られてはならない」と警告されていたこともあり、クラーバットは彼女の本名を尋ねることなく Kantorka カントルカ(先唱者)と呼びます。知らなければ秘密を洩らしようがないからですが、結局最後まで彼女の本名が明かされないのはどうなんでしょうね😒 
なにはともあれ、どうやってクラーバットがマイスターから解放されるのか、そこに至る命がけのサスペンスが読みどころです。

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書評:Ostfried Preußler著、『Das kleine Gespenst(小さなゆうれい)』(Thienemann-Esslinger)