徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:Hagen Schulze著、『Staat und Nation in der europäischen Geschihte』(C.H. Beck)

2018年03月21日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

Hagen Schulze(ハーゲン・シュルツェ)著の『Staat und Nation in der europäischen Geschihte(西洋史における国家とNation)』を読破したのはちょうど4年前の今日でした。FBのリマインダー機能で当時この本について書いた記事が出てきたので、こちらに転載します。

以下4年前のFB投稿:

色々な娯楽小説で何度も中断してましたが、漸く1月の初めから読み始めた本「西洋史における国家とNation」読破しました。読みながらタイトルを「国家と国民」と訳すのは間違いと気づきました。「国家と民族」でも間違い。問題はNation の概念の変遷にあります。
Nationとはローマ時代は主に文明的なローマと対照をなす未開の部族を指す言葉で、それ以上でも以下でもありませんでした。少し時代が下って、そうした部族の政治的代表を指すようになりました。その後「未開の」という言外のニュアンスが消え、漠然と民族・部族を代表するような政治的にアクティヴな地位ある人のグループを意味するようになり、モンテスキューの時代にはそれが「僧侶と貴族」と具体的に定義されています。現代の「民族」あるいは「国民」の定義からはかけ離れているのです。
Nationにある領土に住む一般大衆が含まれるようになるのはフランス革命の時代。この時、フランスの国土に住む全てのシトワイアン、シトワイエンヌ(市民)がフランスのNationを形成し、国家はNationの利益を保護することでその存在意義と正当性を得ると考えられました。ここでNationの概念は出自・血統は全く問題にしない、政治単位としての国家に属している「国民」という意味に変質し、フランス・ナショナリズムの基盤となります。ナポレオンというカリスマ的人物の登場も相まって、フランスで生まれたナショナリズムはヨーロッパ中に影響を及ぼすのですが、お隣のドイツに飛び火した時点でまたしてもNationの概念が変質します。なぜなら、当時「ドイツ」とは地理的な概念に過ぎず、政治的なくくりとしての国家が存在しなかった(300余りの領主国・公国・司教領に細分化されていた)ので、フランスのように統一国家の歴史が長い国のように単純に政治的な意味での「国民」ではナショナリズムの意味をなさなかったからです。そこで、Nationは共通の文化・言語・歴史を持つ集団と定義され、その集団は運命共同体として独自の国家を持つべきであるという思想につながり、ドイツ・ロマン主義と共にドイツ・ナショナリズムの火が付き、更にドイツ同様細分化されていたイタリアおよび東欧へ文化的な「民族」という意味でのNationの概念が広まっていったのです。特にロシア・オーストリア・プロイセンの列強に支配されていた東欧ではナショナリズムが民族独立の悲願という形で結晶し、その悲願は第一次世界大戦の結果として叶うわけですが、その第一次世界大戦後の民族自決権 ― 一民族一国家の原則はヨーロッパでは実は実現不可能で、どう国境線を引こうと、必ず少数民族を内包せざるを得なかったため、多くの内戦、および民族浄化の元凶となってしまいました。ナチス・ドイツの残念ながらかなり効率的に行われたユダヤ人殲滅政策がその動きの最悪の頂点と言えるでしょう。もちろん、ナチス・ドイツではナショナリズムに加えて人種主義、アーリア人至上主義、ファシズム、反ユダヤ・反ボルシェビキ主義の要素が絶妙にミックスされたので、ナショナリズムだけを600万人に上るユダヤ人虐殺の元凶扱いするのは不適切なのですが。いずれにせよ、20世紀初頭の「一民族一国家」の原則が世界中で、現在に至るまで紛争の種になっていることは間違いありません。

目次

Vorwort はじめに

Erstes Kapitel - Staaten 第1章 — 国家

1. Der moderne Staat tritt auf den Plan モダンな国家の台頭

2. Christentum und Staatsraison キリスト教徒とレーゾン・デタ(国家理性)

3. Leviathan レヴァイアサン

4. Rechts- und Verfassungsstaat 法治国家と憲法国家

Zweites Kapitel - Nationen 第2章 — ネーション

1. <<Nation>> ist nicht Nation 「ネーション」はネーションではない

2. Staatsnationen und Kulturnationen 国家民族と文化的民族

3. Achsenzeit 枢軸時代

4. Die Erfindung der Volksnationen 民族国家の発見

5. Die Wirklichkeit der Volksnationen 民族国家の現実

Drittes Kapitel - Nationalstaaten 第3章 — 民族国家

1. Der revolutionäre Nationalstaat (1815 - 1871) 革命的民族国家(1815~1871)

2. Der imperiale Nationalstaat (1871 - 1914) 帝国主義的民族国家(1871~1914)

3. Der totale Nationalstaat (1914 - 1945) 全体主義的民族国家(1914~1945)

Viertes Kapitel - Nationen, Staaten und Europa 第4章 — 民族、国家とヨーロッパ

本書は「Europa bauen(ヨーロッパの構築)」というシリーズの1冊です。

 

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