徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:石黒圭著、『語彙力を鍛える~量と質を高めるトレーニング~』(光文社新書)

2017年12月11日 | 書評ー言語

石黒圭著、『語彙力を鍛える~量と質を高めるトレーニング~』(光文社新書)は2016年5月発行。これまでに読んだ語彙力の本4冊とは全く違うアプローチで、個別の言い回しや慣用句・ことわざなどの正誤を羅列するようなことは一切なく、あくまでも語彙力を高める方法論が展開されています。中には言語学的な専門用語もあり、簡単に説明されているとはいえ、予備知識のない方にどれ程理解できるものなのか分かりません。私は一応言語学修士ですので、その辺は問題なくスルーして理解も容易だと感じましたが。

著者の石黒圭氏は、国立国語研究所研究系日本語教育研究領域代表・教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授だそうです。

彼は語彙力を以下のように定義します。

語彙力=語彙の量(豊富な語彙知識)x 語彙の質(精度の高い語彙運用)

「脳内の辞書を豊かにする22のメソッド」と煽りにありますが、語彙の量を増やすメソッドが11、語彙の質を高めるメソッドが11、本書に紹介されています。

目次は以下の通りです。

はじめに 言葉が思考を規定する

第一章 語彙についての基礎知識

一 語彙について考える

二 理解語彙と使用語彙

第二章 語彙の「量」を増やす

一 類義語を考える

二 対義語を考える

三 上位語と下位語を考える

四 語種を考える

五 文字種を考える

六 書き言葉を考える

七 専門語を考える

八 方言を考える

九 新語と古語を考える

十 実物を考える

十一 語構成を考える

第三章 語彙の「質」を高める

一 誤用を回避する

二 重複と不足を回避する

三 連語の相性に注意する

四 語感のズレを調整する

五 語を適切に置き換える

六 語の社会性を考慮する

七 多義語のあいまいさを管理する

八 異なる立場を想定する

九 語の感性を研ぎ澄ませる

十 相手の気持ちに配慮する

十一 心に届く言葉を選択する

あとがき

参考文献

索引

この目次を見れば一目瞭然かと思いますが、語彙の「質」に実際の運用場面などの社会的文脈やコミュニケーションの質そのものまで含まれています。そこに著者の社会言語学者としての見識がふんだんに盛り込まれているということが理解できます。そうした言葉の社会性がコミュニケーションの際に重要なことは言うまでもありませんが、それを「語彙力」に内包させることには少々違和感があります。こうした観点は「コミュニケーション能力」の重要要素ではあっても、「語彙力」の構成要素ではないはずです。このため、第三章の内容は、阿部紘久著、『文章力を伸ばす 書くことが、これでとても楽になる81のポイント』の内容と重なる部分が多いです。つまり「語彙力」の範疇を超えてしまっているということですね。

そうした細かいツッコミは置いとくとして、本書は系統だった語彙力を高める方法論を提示しており、話題の達人倶楽部編『大人の語彙力が面白いほど身につく本 レベル1&2』のようにただやみくもに知識が羅列されているわけではないことが大きな特徴です。語彙を勉強するコツとそれを使う際の心構えを学ぶには優れた本だと思います。


書評:語彙力向上研究会著、『できる人の語彙力が身につく本』&『ビジネスですぐ使える語彙力が身につく本』

書評:話題の達人倶楽部編『大人の語彙力が面白いほど身につく本 レベル1&2』(青春出版社)

書評:阿部紘久著、『文章力を伸ばす 書くことが、これでとても楽になる81のポイント』(日本実業出版社)


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