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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

レビュー:樹なつみ作、『八雲立つ』全10巻(白泉社文庫)

2019年05月08日 | マンガレビュー

今続編の『八雲立つ 灼』が連載中で、数日前に2巻を買って読んだばかりで、因縁のありそうな謎の人物が登場したので、元祖『八雲立つ』の方に何かヒントはないかと気になり出して、10巻全部読み返してしまいました。

『八雲立つ』は1992~2002年にララで連載していた作品で、古事記や出雲風土記などの世界を現代に蘇らせたような漫画のため、その設定や世界観が割と入り組んでいます。七地健夫(21)が主人公と言えるのかどうかちょっと微妙なところですが、取り敢えずこのさえない男が自分の家に伝わる剣を、部活の一環で古代出雲族の取材に行くついでに剣の神であるという経津主神と素戔嗚尊を祀る神社に奉納しに行くところから話が始まります。その先で古代出雲族の末裔であり、代々巫覡(シャーマン)としてその地の神事を行い、結界を守ってきた布椎(ふづち)家の若い当主闇己(くらき、16)と運命的な出会いをします。実はこの二人の前世は大和朝廷に国譲りする前の出雲族の巫覡であったマナシ(真名志)と彼のために神剣を鍛えた鍛冶師のミカチヒコ(甕智彦)で、その強い絆が現代に蘇るという設定です。初回では七地の夢に一瞬だけ前世のワンシーンが出て来るだけですが、3巻から徐々に古代編として真名志とミカチヒコの物語が展開します。現代の方では、布椎家に伝わる6本の神剣のうちの盗まれた5本を見つけ出し、結界に閉じ込めてある「念」を一度開放して昇華するため、七地が闇己に協力することになります。言い伝えによればミカチヒコの血統の者のところに神剣は帰ってくるとのことだったので。

闇己は実は先代当主の息子ではなく、その先代当主の妻・瀬里とその弟の真前(まさき)との間の子どもで、先代当主からすると甥にあたります。母の瀬里は真前と一緒に逃げて行方不明になっており、闇己は先代当主の実の息子として育てられた、というかなり重い事情を背負っています。ただでさえ旧家の当主としての重圧もあるのに、巫覡としての能力も桁外れで、しかも体質的に負の巫覡、つまり負のエネルギーと言える「念」を体内に飼い慣らし、使役することもできるという闇をかかえています。かなりしっかりした高圧的・威圧的なところもありますが、こころの弱さもあり、お人好しの七地に癒されている感じです。

七地と闇己は、布椎家とは別に神剣を集めている勢力や東京で念を活性化させている勢力に対抗しながら、神剣と力のある巫覡を集めていく展開です。

こういう古代世界を現代に持ち込むファンタジーは、結構好きです。樹なつみの絵柄もきれいで私好み


レビュー:藤田麻貴作、『楽園のトリル(エデンのトリル)』全8巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月08日 | マンガレビュー

『楽園のトリル(エデンのトリル)』は題名から想像できる通り音楽関係の学園ものです。主人公の律は自他ともに認める不幸体質で、普通科と音楽家のある高校の普通科の方に通っていましたが、家庭でのストレスのために胃潰瘍となり、ストレス軽減のために寮に入ることになります。その不幸体質ゆえに学園の敷地内で昼寝をしていた金持ちでピアノと作曲の天才児で、現在札付きの問題児である映里を踏んずけてしまうというドジをやらかします。この寝ているところを踏んずけてしまう出会いは少女漫画にありがちで、ほとんど古典的と言ってもいいですね。まあ、この出会いによって目をつけられてしまった律は希望していた女子寮ではなく特別な寮「天宮館」に入ることになり、この俺様の篁と寮で「ペア」を組まされて同室になり(寝室は2つある2LDKっぽい)、なおかつ理事長判断で音楽科へ転科する羽目になるという怒涛の如く変化がおとずれるので、ちょっとくどい感じがしないでもないです。

話が進行していく中でこの律の生い立ちや音楽との関りとトラウマみたいなものが明らかになっていき、また天才俺様の篁の方もなんでワルになったのかその経緯が明かされて行きます。篁は通常は他人を全く視界に入れないのですが、律だけはなぜか顔が気に入ったらしく最初から視界に入ってて…という設定で、お互いにかなりいろいろ衝突していますが、いい影響を与え合って二人とも音楽の世界に復帰し、互いに必要とする恋人同士になっていく展開です。もちろん恋のライバルっぽい人も登場しますし、いろんなトラブルも起こります。

最初の設定がちょっとくどいことを除けば、どっかで読んだような話と思えるようなありがちな少女漫画的展開で、そこそこ読めるけど、いまいちオリジナリティーに掛けるような気がしますね。


レビュー:藤田麻貴作、『バロック騎士団(ナイツ)』全8巻(プリンセス・コミックス)


レビュー:藤田麻貴作、『バロック騎士団(ナイツ)』全8巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月07日 | マンガレビュー

『バロック騎士団(ナイツ)』は2010年~2013年の作品でちょっと古いんですが、かつて絵柄が気に入ってまとめ買いし、ちょっと気が向いて読み返しちゃうくらいには面白い謎な学園ものです。斎華王学園という全寮制の学校は紳士淑女の通うエリート校で一度入ったら卒業するまで敷地から出られない謎な学校。敷地が広く、小さな町みたいになっており、なんでも揃っているのでさほど不便はないらしいのですが、主人公の筑波都はそのことを知らずにそこの高等部に編入します。初日に同じく編入生である立花上総は都と同室の野宮千沙子といとこ同士であるため、運悪く都の着替え中に部屋を開けてしまい、彼女に強烈な蹴りを食らってしまいます。以来彼は都の「犬」に。都は口が悪く暴力的ですが、まっすぐで不器用な優しさを持つ女の子で、上総は元やくざの跡取り息子だったため、彼女がまっすぐに彼に体当たりしてくれるところにちょっと惹かれたのかも知れませんね。あんまりにも猪突猛進でほっとけないというのもあるかもしれません。とにかく特別寮に入れば外出許可をもらえるという話を聞いて、まず特別寮はなんなのか探り出そうとする都に忠実なわんことして従い続けます。上総を「ぼん」と呼ぶ舎弟または世話役(?)の宇治と都といる上総(「カズ君」)が楽しそうだと喜ぶ千沙子(のちに「ちいちい」)の4人でとある事件をきっかけに学園の理事長判断で特別寮に移動になります。特別寮で待ち受けていたのはいわゆるエリートだけではなく、特殊能力を持つ危ない人たちも多く居て、彼らを監視・管理するのが特別寮・執行部。執行部の総長である葛城理央はかなり謎な人物で、なぜか都をいたく気に入っていて、暴走気味の彼女を保護・監視する意味もあって彼女をわんこ付きで執行部付の役員に迎えます。

都は子どもの頃から「見える」人で、執行部で活動している間に徐々に彼女の能力が顕現化しますが、かなり後になるまで、彼女の能力の本質は謎のままです。

どこらへんが「バロック」で「騎士団」なのか作中では明言されていません。学園の雰囲気や作中に使われている飾り文字などのイメージはバロックというよりゴシックですね。「騎士団」はそう名乗ってはいませんが、執行部の皆さんのようです。それぞれ自分の異常能力のせいで悩み苦しみ、あるいは力を持て余したり、普通の高校生の悩みとは違うところで悩んでますが、大まかに言えば「人と違う悩み」と言えるので、特殊能力のない人でも共感できるのでしょう。

「ラブ」の要素は薄いですが、都と上総の「女王様と番犬」の関係は実にユーモラスで面白いです。時々予知夢を見る大人しめのちいちいは癒し要因で、メカ系に強い宇治は便利屋さん。理央さんは最初は謎な近寄りがたい特別な存在ですが、都の影響でだんだん丸くなっていきます。他にも都の影響を受けてしまう人たちがいて、彼女はいわば台風の目みたいな感じです。

都と上総と理央さんのその後が知りたいなーと思うような終わり方でした。

藤田麻貴の現在の絵柄と比べるとまだ若干固いですが、こういうの好みです。


レビュー:滝口琳々作、『新☆再生縁-明王朝宮廷物語-』全11巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月06日 | マンガレビュー

『新☆再生縁-明王朝宮廷物語-』は9年間の連載を経て昨年12月に最終巻が出て完結した男装少女マンガですが、史実に少々の脚色を加え、架空の人物は4人しか居ないというほど歴史的骨格がしっかりしており、1巻で無実の罪で投獄された父の敵の手に落ちそうになった孟麗君が追っ手を逃れて川に飛び込み、溺れ死にそうになったところをたまたまお忍びで舟遊びをしていた皇太子に助けられるという運命の出会い(その時は互いに名乗らず別れる)を果たしたのち、父を救うため、男装し酈君玉(り くんぎょく)として科挙を受けて状元及第して宮廷に飛び込み、っそこで皇太子に再会し、臣下として彼に仕えることになってしまい正体がばれないか冷や冷やする一方、皇太子が生まれた時から萬(ばん)貴妃という皇后でもないのに後宮の実権を握り、皇帝を言いなりにさせている女から命を狙われ、近頃は皇帝からも冷遇されているということを知り、また彼の賢君ぶりや優しい人柄に惹かれて心から忠誠を誓い、皇太子を工程の座に着けるために臣下として並々ならぬ努力をする物語です。

麗君(君玉)と皇太子の間の恋愛関係、麗君の親同士が決めた許嫁・蝗埔小華(こうほ しょうか)との関係、君玉の同期で榜眼及第した劉奎璧(りゅう けいへき)との緊張関係など緊迫した人間関係が盛りだくさんでかなりハラハラさせるストーリー展開。1巻を読むともう先が気になって止まらなくなるほど魅力のあるマンガです。


レビュー:一条ゆかり著、『プライド』全12巻(集英社クイーンズコミックス)

2017年04月17日 | マンガレビュー

今日は復活祭の月曜日でまだのんびりさせてもらってます。明日から仕事、という現実には目とつぶり、耳を塞ぎ、脳みそのリフレッシュを図るためにひたすら非現実の世界へ逃避しております。昨日の晩から読みだしたのは昨年夏に購入した一条ゆかりの『プライド』です。当時レビューを書こうと思って、時間の関係で書き損なってしまった作品で、今回読み直した次第です。

『プライド』は月間コーラスで2002年12月号から2010年2月号まで連載されていたマンガで、2007年、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞し、実写映画化されたり、舞台化されたりしている作品なので、知っている方も多いと思います。

非常に対照的な性格と境遇の二人の歌姫のお話。一人は有名なオペラ歌手の娘で、美しく誇り高いお嬢様の浅見史緒。2歳の時に母を亡くし、父子家庭で育ちました。もう一人は男とお金にだらしない母親の下で育って性格がちょっとというか、かなりアレな音大生・緑川萌。母親は昔オペラ歌手になることを夢見ていたため、娘を音大に入れましたが、かなり恩着せがましく、娘にお金をせびったりします。普通なら出会いもしないし、出会っても友達にはならないだろう二人ですが、音大卒業を控えた史緒はある日、ハウスクリーニングのバイトで彼女の家に来ていた萌に出会います。直後、史緒は父の経営する会社が倒産し、イタリア留学してプロを目指すという予定が不可能になってしまいます。2人は優勝者に留学と帰国後のCDデビューの権利が与えられるコンクールで再会しますが、史緒の尊大な態度に傷つき嫉妬していた萌は、決勝で史緒の出番直前に「あなたのお母さんはあなたを庇って死んだのよ」という衝撃的な事実を言い放ち、その言葉に動揺した史緒を舞台で失敗させて優勝をもぎ取ります。

いやあ、勝負の世界は怖いですね~。バレーならトゥーシューズに画鋲を入れるとかいう感じの意地悪ですね。こうして始まる二人の因縁ですが、史緒の大学の同級生で無一文同然の史緒を助けてくれた恩人、ピアノ科の池之端蘭丸の母が経営する銀座のクラブ「プリマドンナ」でそれぞれ違う事情で働き始めます。史緒は歌手として、萌はホステスとしてですが、ひょんなきっかけで二人一緒に(女装した)蘭丸のピアノで歌うことになり、二人の声が絶妙なハーモニーを生み出し、1+2が5になることが判明し、それがきっかけでSRMというトリオの結成と相成ります。史緒はウィーン、萌はイタリア、蘭丸はニューヨークへそれぞれ旅立ちますが、トリオの活動は断続的に行われます。

コンクールでの優勝を逃し、当面の生活費だった500万円の貯金を奪われてほぼ無一文になってしまった史緒がウイーンに留学できたのは、クイーンレコード会社副社長(次期社長)の神野隆が両親の「結婚しろ」攻撃をかわすため、世間的に見てどこからも文句の出なさそうな史緒に「結婚という契約」を援助と引換えに持ち掛け、彼女が本当は蘭丸に心をときめかせつつも、それを受けたことによります。

一方、コンクールに優勝した萌は主催者であるクイーンレコードに何かとお世話になりますが、その中で神野隆に出会い、彼に思いを寄せるようになり、かなりぐちゃぐちゃした四角関係になります。

そうしたドロドロしたしがらみもある一方で、芸を極めようと努力する若者たちが生き生きと描かれているため、ストーリーが重くならずに済んでいます。一条ゆかりならではのユーモアもドロドロ感を少なくするのに貢献していると思います。

史緒は一見嫌味で高慢ちきなお嬢様に見えますが、(そう見えてもおかしくない態度をとってます)不器用で、人付き合いが下手なだけで、本当はかなり素直で真っ直ぐで、潔癖なところもありますが、かなり器の大きい格好いい娘さんです。恋愛方面がにぶにぶなところがまた魅力です。他人に関心を示し、心を開くようになることで、ないと言われていた表現力・演技力を身につけていく、硬い蕾が花を開いていくような成長を見せてくれます。ちょっと『ガラスの仮面』の姫川亜弓みたいな感じがしないでもないです。

萌の方は、育った環境のせいでかなり卑屈になってるところがあり、人を妬んで憎んで時にとんでもなく意地悪ですが、いろんな人との出会いの中で自分を好きになる努力をして、最後の方はかなり好感の持てる魅力的な女性に成長します。でも史緒と比べるとなぜか理不尽に苦労している感じです。苦労している、という意味では『ガラスの仮面』の主人公・北島マヤに似てなくもないです。基礎がしっかりした確かな技術力を持つお嬢対表現力豊かな庶民階級の苦労の多い女というライバル構図はかなり共通していますね。でもマヤは貪欲ではあっても基本的にお人好しで人を貶めようとはしないので、萌とキャラが被るということはありません。

ラストはちょっとご都合主義的なハッピーエンドのような気がしないでもないような。


レビュー:一条ゆかり著、『砂の城』全7巻(リボンマスコットコミックス)

レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)

レビュー:一条ゆかり著、『正しい恋愛のススメ』全5巻(クイーンズコミックス)



レビュー:佐伯かよの著、『緋の稜線』全25巻(eBook Japan Plus)

2017年04月16日 | マンガレビュー

『緋の稜線』は「Eleganceイブ」1986年7月号から1999年6月号まで掲載された漫画で、1994年に、第23回日本漫画協会賞を受賞した作品です。漫画の「古典」にはまだ入らないかもしれませんが、昭和を代表する少女・女性向け漫画とは言えるのではないでしょうか。

旧家・胡桃沢家の三女として昭和元年に生まれ、「その大きな瞳で世の中を見るよう」と父に名づけられた瞳子(とうこ)の波乱万丈な人生を描いた漫画です。フェーズの区分は色々可能かと思いますが、私的には、戦中・終戦後の瞳子が中心となって夫・省吾のいない婚家・各務家を守り、銀座の菱屋百貨店を再建するまでを第1フェーズ、省吾の帰還(終戦後英語・ドイツ語が堪能だったため通訳として米軍に引き留められ働かされていたために復員が遅れた)から飛行機事故で省吾が行方不明になるまでを第2フェーズ、夫の死を認めず彼を会長に据えたまま瞳子が会長代理として菱屋グループを率い、子どもたちがそれを引き継いでいくまでを第3フェーズと分けてみるのがいいのではないかと思っています。

瞳子の夫となる各務省吾は大店の御曹司として才覚のある美丈夫な人ですが、ヨーロッパ留学を控えたある日、偶然見かけたおてんばな10歳の少女瞳子に一目惚れし、いつか嫁にする女と心に決めるあたりはかなり変です。そして、その6年後に留学から帰ってきて、つてを使って彼女との見合いをできるようにし、召集が1週間後に控えているからと、その見合いの日に彼女を手籠めにしてしまいます。そうしないと他の人に奪われてしまうと考えた、という実に身勝手な理由ですが、まあそうなったからには瞳子は省吾に嫁がざるを得ない、そういう時代ですね。嫁いだからには婚家に尽くし、東京大空襲で義父を失い、家業の百貨店も破壊されて終戦を迎え、その瓦礫の中から菱屋再建を決意する辺りは非常にけなげです。彼女はただけなげなだけでなく、かなりの才覚の持ち主で、人を惹きつける魅力も持ち合わせており、実際に再建を軌道に載せられた辺りは大したものです。

その後、行方不明だった昇吾とも再会。帰還の夜には離縁を申し出るも、昇吾に誘われた登山で、紅に染まる山並みは近くで見れば激しい起伏も遠くから振り返ればなだらかな道、ともに越えようと諭され、夫と真に心を通わせることになります。しかし、それでめでたしめでたしとならず、図らずも複雑な家庭を築いてしまいます。まず瞳子が肺病を患う幼馴染・新之助を見舞いに行き、長年彼女に思いを寄せていた彼は長くない我が身を嘆き、自分の生きた証を残したいと、これまた身勝手な理由で瞳子をレイプし、それがまた実を結んでしまって第1子健吾が誕生。第2子は夫婦の実子の昇平。そして第3子・望恵は、夫婦それぞれ別事業に関わってすれ違いが続いたことにより、省吾が芸者・芙美香を諸種の事情から身受けして、彼女との間にもうけてしまいます。芙美香は肺病を患い、命がけで望恵を生み、後を瞳子に任せ、瞳子は望恵を自分の子として育てることになります。第1子、第3子とも夫婦にとって非常に葛藤の多い誕生でしたが、その葛藤はもちろん子どもたちにも引き継がれます。唯一夫婦双方の血を引く次男・昇平も、それはそれで悩むことになり、兄と妹がなまじ優秀であるだけに、プレッシャーに押しつぶされそうになり、ついに家出してしまいます。

そんな感じで焦点は瞳子の子どもたちに映っていきますが、彼女のすぐ上の姉寿々子の恋愛・結婚、そして戦災孤児4人をいっぺんに引き取って育てる様子、またその子どもたちの生き方なども描かれています。瞳子の長男・健吾と寿々子に引き取られたリサの恋愛事情とか。

それぞれに山あり谷ありの稜線のような人生が描かれています。物語はちょうど昭和の終わりで締めくくられていますので、余計に「昭和の漫画」という感じがしますね。その中に描かれている女性の地位(の低さ)も、それを乗り越えて新しい時代を作ろうとする女性たちのエネルギッシュさも「昭和」な感じです。まあ、その頃に比べれば日本の女性の地位もましにはなってきたと言えるのでしょうね。

浮気で外に子供を作るようなエネルギーは平成の男たちも持っているのでしょうか? なんだか生涯未婚が増えている中、そういうパワーもなさそうな気がするのは私だけでしょうか。そして平成の女たちは浮気されたら離婚という決断をするケースが多いのでは。


レビュー:新谷かおる作、佐伯かよの画『Quo vadis』全20巻(幻冬舎コミックス)

 



レビュー:新谷かおる作、佐伯かよの画『Quo vadis』全20巻(幻冬舎コミックス)

2017年04月15日 | マンガレビュー

昨年の秋に佐伯かよのの絵柄に惹かれて全19巻大人買いして、完結していなかったことに悶絶したものでしたが、漸く最終巻である20巻が発売されたので、内容の細かいところを忘れていることもあり、1巻からまた一気読みしました。イースター休暇で副業の仕事も小さいのしか入ってないので、随分のんびりしています。

さて、『Quo vadis~クォー・ヴァーディス』ですが、まずタイトルはラテン語で「君はどこへ行く?」を意味しています。もちろん「君はどこへ向かっているのか?」とも訳せます。作品中の登場人物が「私はどこへ行くのか」のふり仮名として「クォー・ヴァーディス」を当てている個所がありましたが、もちろんそれは間違いで、正しくは「クォー・ヴァードー(Quo vado)」と人称変化させなければなりません。

まあ、ラテン語の蘊蓄はともかくとして、この作品自体は一言でくくってしまうと「吸血鬼の話」です。そういうと身も蓋もないですが、ジャンルとしては吸血鬼ものです。ただそこに壮大な過去と未来の時間軸が組み込まれ、ストーリーのスケールを大きくしています。色々な謎解きはストーリーが進行していく中で明かされていきますが、比較的最初から分かっている設定は、数万年後の未来では人類の生殖機能が完全に失われ、人工授精・人工培養によってのみ人口が調整されるようになり、不老不死となっていますが、種としては滅亡寸前の状態にあるということです。そこで人類がそうなる歴史の分岐点を探ろうと研究し、特別なタイムカプセルを作成して過去に飛んだ研究者8名。リーダーは金髪の美しいフレイア教授。最初に登場するのはオーディンという研究者で、彼は8000年間の間を生きて、仲間を探し続け、殆ど偶然大木と生体同調したフレイアを現代で発見します。彼女はなぜか10歳の体になっていました(この謎もあとから解明されます)。彼女はオーディンのように古代ではなく、15世紀ころのドイツの森の中にランディングし、その時代にとある経緯から魔女狩りの対象となり、追って来る村人から逃げるために大木に生体同調することで姿を消し、それからオーディンに発見されるまで眠っていました。

世の中には数千年の昔から吸血鬼がおり、第一世代、第二世代はヴァチカンによって管理され、第二世代によって吸血鬼化された第三世代は各国の吸血鬼ギルドに管理されることになっていますが、暴走するものはヴァチカンの最高評議会から派遣される執行人によって始末されることになっています。この組織にオーディンはなぜか「真祖」と呼ばれており、執行人の一人であるソフィアに400年前から命を狙われています。

この未来から来た研究者たちと、吸血鬼、そしてそれを管理し、時に裁くヴァチカン。それらが絡み合ってストーリーが進行していきます。その中でびっくりな設定は、イエスキリストが不老不死で、子どもの姿でヴァチカンに居ることと、聖母マリアも同じく不老不死だということ、そして、実はイエスの父親が未来からジャンプした研究者の一人であるヨシュアで、彼は自分の遺伝子をウイルスによって操作して、生殖機能を取り戻していた、ということでしょうか。マリアとイエスが不老不死になったのはこの遺伝子操作の際に使われたウイルスに感染したから、ということになっています。そしてイエスの血を飲んだ者たちは、死ぬか、吸血鬼化した、ということになっています。この「吸血鬼はウイルス感染」というのも珍解釈で面白いです。山岸涼子の『日出ずるところの天子』における「聖徳太子は超能力者で、同性愛者」という珍設定と同じくらい衝撃的な面白さです。

登場人物もかなりキャラが立っていて、魅力的です。

「最後の審判が始まった」というところから、ストーリーはどんどん緊迫感を増していき、その中で登場するもう一人の未来からの来訪者の陰謀が明かされていき、個人的に話の収拾がつかないような方向性に脱線していくような感覚に襲われました。結論部は人類の進化そのものが「鶏が先か、卵が先か」の問いのように数十億年という時間軸でループしていまい、ちょっと首をかしげるようなものでしたが、「それも(物語として)ありかも」と思わせるぐらいの説得力はあると思います。「荒唐無稽」と言えば、最初の設定からしてそうなので、それが受け入れられない方は読むべきではないでしょう。

私的には、この作品は秀逸なSFファンタジーマンガだと思います。


レビュー:一条ゆかり著、『正しい恋愛のススメ』全5巻(クイーンズコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

『正しい恋愛のススメ』の初版発行は1996-1998年で、古い作品ですが、これもとっても面白かったです。

主人公はパワフルで一風変わった思考回路を持つ女子高生・小泉美穂。黙っていればかなりかわいい女の子だけど、恥じらいもなくずけずけと口に出してしまうところが玉に瑕、というキャラ。彼氏の竹田博明はかなりの美少年だけど、「だるい男」。美穂とも彼女の押しに負けて断るのが面倒だから付き合いだしたという、年の割に冷めていて、ちょっと退屈している男の子。そんな彼に、見かけは優等生だけど随分意味深な同級生・護国寺洸から「出張ホスト」のバイトを持ち掛けられます。最初は怪我した彼の代理として。「寂しい女に愛情を売るのが仕事。体はオプション」と言われて、博明は依頼者の好みに合わせて自分を演出することに興味を示し、本格的にそのバイトを始めます。その過程で紹介されたのがバイト先の店長(ホモ)の元妻で、現在は彼の上客となっている玲子さん(39)。彼女は美人で、年齢を感じさせないかっこいい大人の女(職業作家)。博明は彼女に段々惹かれていき、「欲情」を感じていることに気付いて戸惑ったり、初心な感じがかわいい。

ただ、この玲子さんは実は博明の彼女・美穂の母親でした。玲子も娘の彼と分かった後も気に入っている博明との関係を止められず、博明は玲子の指示通りそのまま美穂と付き合い続けるのだけど、美穂は彼が誰かに恋をしていることを敏感に感じ取って…という母娘で争う三角関係の話なんですが、美穂のキャラのせいでかなりコミカルになっています。博明は相当悩み苦しむのですが… 美穂はかなり後まで母親が恋敵とは知らないままでした。なんというか、すごくすっ飛んでて強い女の子。「最後に笑う女」という影の呼び名(by護国寺)に相応しいキャラです。結局、玲子と博明はお別れ旅行で気持ちの区切りをつけて別れます(その旅行中に美穂とその親友にばったり出くわし、全てばれてしまうのですが)。美穂は英作文が認められてイギリス留学の誘いが来たので、母・玲子に慰謝料として留学資金を請求(つえー!)。父とばれてしまった原田とともに渡英します。

なんとなく美穂のパワフルなノリは有閑倶楽部の有理を思い出させますね。有理の方がもっとハチャメチャで、恋愛方向はからっきしでしたが。

どこらへんが【正しい】恋愛なのかよく分かりませんが、楽しい恋愛をしたくなるような作品でした。

ちなみに本編は1-4巻で、5巻は番外編のみが収録されています。


レビュー:一条ゆかり著、『砂の城』全7巻(リボンマスコットコミックス)

レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)


レビュー:一条ゆかり著、『砂の城』全7巻(リボンマスコットコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

『砂の城』は随分古い作品です。初版発行はなんと1979年-1982年。私はその頃はまだガキンチョで、少女漫画は『なかよし』に掲載されているようなもの、あとは『ドラえもん』なんかを読んでた時期で、『砂の城』が理解できるような年齢ではありませんでしたが…

私がゲットしたのは電子書籍です。紙書籍の方はもう手に入らないのではないでしょうか?

さて、この『砂の城』ですが、読んで楽しいものではありません。どちらかと言うと泣いちゃう感じです。スタートがまずかなり不幸です。

フランスの富豪ローム家に生まれたナタリーは、屋敷の前に捨てられていたフランシスと兄妹のように育てられ、結婚を誓い合います。ナタリーの両親は二人の関係を温かく見守っていたのですが、唐突に飛行機事故で亡くなってしまいます。叔母がナタリーの後見を引き受けますが、二人の結婚には反対。二人は追い詰められて海に身を投げます。ナタリーは運よく助かりますが、フランシスは発見されず、死んだと思われていました。それから数年後。童話作家としてそれなりに活躍するようになったナタリーはフランシス目撃情報のあったとある島へ行き、彼と再会しますが、再会したその瞬間に彼は交通事故に遭い、かなり危険な状態で病院に運ばれます。しばらくして金髪の美しい奥さんが現れます。彼は記憶喪失になっていて、命の恩人である彼女と結婚し、一児の父となっていました。結局フランシスは記憶を取り戻し、ナタリーを認識し、戻れないことを明らかにして彼女を追い返そうとしますが、傷が酷くてそのまま亡くなります。フランシスの奥さんも後追い自殺。あとに残されたマルコ(4)は金髪であることを除けばフランシスにそっくり。引き取り手のない彼をナタリーは引き取ることにしますが、その際彼の名前はマルコではなく、フランシスだと教え込みます。こうして二人の生活が始まるわけですが、フランシス・ジュニアはママが恋しい年齢ですし、ナタリーは自分の思い人を奪ったその金髪女性が許せないので、ついジュニアにつらく当たってしまったり。だけど昔の恋人(父)にそっくりのジュニアに愛情もあり…とかなり葛藤します。

2・3巻はフランシス・ジュニアの学園生活が主に描かれています。彼の天使のようなキャラに癒されてしまう複雑な事情を持つ上級生たちや一緒にやんちゃをやる同級生たちなどが登場し、割と青春っぽく話が進んでいきます。フランシスは「ナタリーを守るのは自分」と思い、彼なりに一生懸命男を磨いていきます。同級生の妹でかわいいと評判のミルフィーヌはフランシスに夢中になり、彼女の両親は正式にお付き合いを…とナタリーに話を持ち掛けて、彼女はすごく複雑な心境。フランシスとミルフィーヌを見ているのがつらくなってきたその時、アメリカで彼女の童話が海外部門で賞を取り、スポンサーからアメリカに招待されたので、彼女は逃げるように渡米してしまいます。4・5巻はナタリーのアメリカでの生活を中心に物語が進行します。スポンサーのジェフと友人以上にはなれないナタリー。ジェフが奥さんと仲直りしたのを機に、ナタリーはフランスへ帰国して、18になったフランシスと再会。フランシス父とそっくりの彼を見て、また複雑な思いをするナタリー。6巻でついにナタリーは自分のフランシス・ジュニアに対する気持ちを認め、二人は晴れて恋人同士に。だけど、ミルフィーヌがフランシスを諦めきれずにかなり色々やらかしてくれて、フランシス・ジュニアも彼女に恋情は抱けなくても少なくとも妹のように大事に思っているので無碍にもできず、その優柔不断な態度でナタリーを不安にさせ、流産をきっかけについに心を壊してしまいます。フランシスが出かけている間、彼を探して雨の中待っていたナタリーは肺炎になり、意識が戻った時は正気に返っていたけど、それが最後の夜になってしまいます。フランシス・ジュニアを抱きしめながら「愛している」と繰り返して、亡くなります。本人は愛する人に抱かれ、諦めていた恋を成就することができてそれなりに幸せを感じつつ短い人生を閉じてしまうのですが、彼女はもうちょっと幸せになっても良かったのでは?!と思ってしまうのは私だけではないでしょう。ナタリーは不幸な過去のせいでかなり精神的なもろさを持った女性なので、若いフランシス・ジュニアには荷が重かったのかも知れません。本来博愛的にやさしい子だというのが災いしたというか。

『砂の城』は最近の少女漫画にはほとんど見られない悲劇的名作だと思います。あまり何度も読み返したいとは思いませんが… やはり私はハッピーエンドの方が好き。


レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)

 


レビュー:一条ゆかり著、『天使のツラノカワ』全5巻(クイーンズコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

この頃一条ゆかりの漫画に凝ってます。彼女の作品は大昔に『有閑倶楽部』を読んだくらいだったのですが、そちらも最近全巻電子書籍でゲットしました。ただ長々続くので、レビュー書きづらくてそのまま放置。

この『天使のツラノカワ』は2000年-2002年に初版発行なので、『有閑倶楽部』よりは新しめですが、やっぱり古いですね。だけど笑えました。

主人公の篠原美花は牧師を父に持ち、神戸の教会で純粋培養された敬虔なクリスチャンですが、里帰りから東京へ戻り、幼馴染兼彼氏のアパートにお土産を持って行った時に浮気現場に遭遇し、思いっきり失恋。そのショックでフラフラしていたら転んで足をねんざ。病院に行って治療してもらった後自分のアパートに戻ると、そこは空き巣に荒らされた後だった…という不幸3連発に合って、やさぐれてしまいます。通帳も盗まれ、口座もあらされてしまっていたので所持金数千円でかなり切羽詰っているところに出会ったのが小説家で遊び人の龍生とバイトの達人・紫生。美花の彼の浮気相手だった魔性の女・沙羅は実は龍生の姪で、彼に報われない恋をしている欲求不満から手あたり次第に人の彼氏にちょっかいを出すしょーもない女。紫生と美花はひょんないきさつから知り合い所有の一軒家で同居することになります。この3人との出会いは美花の世界を一変させますが、逆にその3人の方も美花の純粋・天然ボケ・クリスチャンパワーに振り回されつつも、徐々にいい方に変わっていきます。一番可笑しいのはもちろん主人公のボケ具合ですが、遊び人である筈の三十路の男・龍生が美花に惹かれ、彼女と世間公認の仲になっても彼女を落とせない(セックスできない)ことに焦り、彼女が無自覚に惹かれているっぽい紫生にみっともなく嫉妬してしまい、そして本人も自分の変わり果てた姿に動揺するところなどは見ものです。紫生も徐々に美花に惹かれていきますが、漸く夢中になれるもの・演劇を発見し、そちらに情熱を傾けて男として成長していきます。沙羅は叔父・龍生を卒業し、家を出て紫生と美花の住む家に転がり込み、モデルとして自立し始めます。沙羅の方もだんだん素直になっていくのがほほえましいです。龍生も美花と過ごすうちに書く楽しさを思い出し、5年ぶりに小説を書くまでに癒されます。大筋だけ見ると割と真面目というか、結構深刻な過去があったりとか、こじらせた人間関係とかでドロドロしそうなんですが、美花のぼけたクリスチャンパワーでそういうものをみんなふっ飛ばして、全てコミカルになってしまうところが凄いなと思った次第です。