徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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レビュー:一条ゆかり著、『砂の城』全7巻(リボンマスコットコミックス)

2016年07月15日 | マンガレビュー

『砂の城』は随分古い作品です。初版発行はなんと1979年-1982年。私はその頃はまだガキンチョで、少女漫画は『なかよし』に掲載されているようなもの、あとは『ドラえもん』なんかを読んでた時期で、『砂の城』が理解できるような年齢ではありませんでしたが…

私がゲットしたのは電子書籍です。紙書籍の方はもう手に入らないのではないでしょうか?

さて、この『砂の城』ですが、読んで楽しいものではありません。どちらかと言うと泣いちゃう感じです。スタートがまずかなり不幸です。

フランスの富豪ローム家に生まれたナタリーは、屋敷の前に捨てられていたフランシスと兄妹のように育てられ、結婚を誓い合います。ナタリーの両親は二人の関係を温かく見守っていたのですが、唐突に飛行機事故で亡くなってしまいます。叔母がナタリーの後見を引き受けますが、二人の結婚には反対。二人は追い詰められて海に身を投げます。ナタリーは運よく助かりますが、フランシスは発見されず、死んだと思われていました。それから数年後。童話作家としてそれなりに活躍するようになったナタリーはフランシス目撃情報のあったとある島へ行き、彼と再会しますが、再会したその瞬間に彼は交通事故に遭い、かなり危険な状態で病院に運ばれます。しばらくして金髪の美しい奥さんが現れます。彼は記憶喪失になっていて、命の恩人である彼女と結婚し、一児の父となっていました。結局フランシスは記憶を取り戻し、ナタリーを認識し、戻れないことを明らかにして彼女を追い返そうとしますが、傷が酷くてそのまま亡くなります。フランシスの奥さんも後追い自殺。あとに残されたマルコ(4)は金髪であることを除けばフランシスにそっくり。引き取り手のない彼をナタリーは引き取ることにしますが、その際彼の名前はマルコではなく、フランシスだと教え込みます。こうして二人の生活が始まるわけですが、フランシス・ジュニアはママが恋しい年齢ですし、ナタリーは自分の思い人を奪ったその金髪女性が許せないので、ついジュニアにつらく当たってしまったり。だけど昔の恋人(父)にそっくりのジュニアに愛情もあり…とかなり葛藤します。

2・3巻はフランシス・ジュニアの学園生活が主に描かれています。彼の天使のようなキャラに癒されてしまう複雑な事情を持つ上級生たちや一緒にやんちゃをやる同級生たちなどが登場し、割と青春っぽく話が進んでいきます。フランシスは「ナタリーを守るのは自分」と思い、彼なりに一生懸命男を磨いていきます。同級生の妹でかわいいと評判のミルフィーヌはフランシスに夢中になり、彼女の両親は正式にお付き合いを…とナタリーに話を持ち掛けて、彼女はすごく複雑な心境。フランシスとミルフィーヌを見ているのがつらくなってきたその時、アメリカで彼女の童話が海外部門で賞を取り、スポンサーからアメリカに招待されたので、彼女は逃げるように渡米してしまいます。4・5巻はナタリーのアメリカでの生活を中心に物語が進行します。スポンサーのジェフと友人以上にはなれないナタリー。ジェフが奥さんと仲直りしたのを機に、ナタリーはフランスへ帰国して、18になったフランシスと再会。フランシス父とそっくりの彼を見て、また複雑な思いをするナタリー。6巻でついにナタリーは自分のフランシス・ジュニアに対する気持ちを認め、二人は晴れて恋人同士に。だけど、ミルフィーヌがフランシスを諦めきれずにかなり色々やらかしてくれて、フランシス・ジュニアも彼女に恋情は抱けなくても少なくとも妹のように大事に思っているので無碍にもできず、その優柔不断な態度でナタリーを不安にさせ、流産をきっかけについに心を壊してしまいます。フランシスが出かけている間、彼を探して雨の中待っていたナタリーは肺炎になり、意識が戻った時は正気に返っていたけど、それが最後の夜になってしまいます。フランシス・ジュニアを抱きしめながら「愛している」と繰り返して、亡くなります。本人は愛する人に抱かれ、諦めていた恋を成就することができてそれなりに幸せを感じつつ短い人生を閉じてしまうのですが、彼女はもうちょっと幸せになっても良かったのでは?!と思ってしまうのは私だけではないでしょう。ナタリーは不幸な過去のせいでかなり精神的なもろさを持った女性なので、若いフランシス・ジュニアには荷が重かったのかも知れません。本来博愛的にやさしい子だというのが災いしたというか。

『砂の城』は最近の少女漫画にはほとんど見られない悲劇的名作だと思います。あまり何度も読み返したいとは思いませんが… やはり私はハッピーエンドの方が好き。


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