体調がリカバリし、演奏中しかもピアニシモのときに咳が止まらなくなったり呼吸困難に陥る恐れがなくなってきたので、好きな音楽のチケットをまとめておさえた。聴いていると別世界の扉をあけてくれるようなうつくしいクラシックが大好き。弦管・打楽器と数十人の指が作る音だけで壮大な叙事詩を表出させるオーケストラ。88の鍵でフル構成のオーケストラなみの音域を作ってしまうピアノ。それから、音色にのせた舞踏でステージに繊細な物語を立ち上げるバレエ。それ自体はシンプルな表現形態なのに、聴き手の心に視覚的効果まで招いてしまうのは、まさに芸術であろう。
本も同じで、小さいころから読書好き、こう大量の冊数を自分のなかに通過させていると、並べられた言葉とイマジネーションの蓄積からか読んでいるうちに自然とビジュアルが浮かんでくる。特にこのシリーズは半端なく、おもしろいだけじゃなく、SFとしてとても優れた作品。金属の鳥かごの中でゆっくり回る科学者の首、ブラックジャック・テーブルでの運命を賭けた真剣勝負に、皮膚に移植された電子の神経が銀色にメリメリと枝を吹いてくる少女、完璧な武器になるふわふわな優しい毛の金色のネズミ。
読む前からこれはハマりそうだと思って、3連休の予定をあけておいた。予想通り、一度ページをめくりはじめると止まらない。Kindleもさすがなもので、一巻読み終わるとすかさず次巻のタイトルを表示してくれるから、まんまとクリックして続けてしまう。掃除のあいまに読み、チキン・カチャトーラを煮込みながら読み、今日は伊勢丹に買い物に行ったあと、帰ってきて自宅近くの喫茶店で読んだ。私はここでよく同世代のマスターとカウンターごしの世間話をするのだが、あまりにも集中していたために、向こうも声をかけるのをはばかられたらしい。3冊読み終わって完全に虚脱状態。ああ、コーヒーがおいしい。