WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『東慶寺花だより』(著者:井上 ひさし)

2017-09-10 20:24:04 | 本と雑誌

体調を戻すためにこの一か月、心掛けて休養とプライベートをしっかり確保する日々を送ってみたら、時間のたつのがゆるやかに感じられ、新鮮な発見だった。今までバタバタ仕事に追われて、うわっもう一週間終わり?とか、ついこの前お正月だったのに今年も半年過ぎるの?とかいう毎日だったのに。近所に新しくできた専門店で、焙煎された芳醇な豆の香りを楽しみながらのんびりと美味しいコーヒーを頂いたり、仕事帰りに書店に立ち寄って新刊を選んだり、スーパーマーケットで食材を買って帰って料理をつくるという大満足な生活で、やっと健康が戻ってきたようだ。

いま送っているような、現代の快適な暮らしよりもいいと言うつもりはないけれど、江戸時代の後半、鎌倉の東慶寺に移り変わる四季が美しいこの本を読んでみると、きっと昔のほうが、ひとの時間に対する感覚はゆっくり流れていたんだなぁと思う。

鎌倉は大好き。ところが恥ずかしながら東慶寺が駆け込み寺とは知らなかった。関東一円、もうどうにも我慢できなくなった妻が旦那から縁を切るために駆け込む。お寺で2年の我慢をすれば離婚が認められるものの、道行の途中で気づかれて連れ戻されたらおしまいだ。今みたいに新幹線とかタクシーのない時代だから大変である。午後、そのへんにちょっと用足しに行くような恰好でふうっと何気なく家を出て、角を曲がった瞬間、脱兎のように走り出し、夜を徹して何十キロも駆け通す。直前で追いつかれそうになったら櫛でもかんざしでも、身につけているものを境内に投げ込めばよし。この時代の離婚は、判子をおした紙1枚で片のつかない必死のドラマ。日本の誇る小説家、井上ひさし氏の洒脱な文章と、優しい人情のにじむ鎌倉の町の佇まいが味わい深い。

この記事についてブログを書く
« 『悪いヤツほど出世する』(... | トップ | 『紙の動物園』(著者:ケン... »

本と雑誌」カテゴリの最新記事