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マット・リドレー『繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史(上)』

2011-02-07 05:20:00 | ノンジャンル
 リュック・ジャケ監督の'05年作品『皇帝ペンギン』をWOWOWで見ました。零下40度にもなる冬の営巣地で、移動に数十日かかる餌場との間をオスとメスが交互に行き来しながら子供を育てる様子を撮ったドキュメンタリーでしたが、美しい南極の風景と、氷の下で餌を取るペンギンたちの様子が素晴らしいと思いました。

 さて、朝日新聞で紹介されていた、マット・リドレーの'10年作品『繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史(上)』を読みました。
 まず、エピローグにおいて、人間の文化が累積的に進化したのは、異なるアイデアが融合する必要があったと語られます(例えば、紙と印刷機の出会いなどなど)。そして人間は「交換」と「分業」を発見して、仕事が専門化し、その結果、革新(イノベーション)が促進され、時間の節約につながり、人間は消費者としても生産者としても多様化し、暮らし向きは良くなってきたと説明されます。そしてこうした合理的な楽観主義の見地に立てば、商品とサービスとアイデアの市場は、人間が全員の向上のために正直に交換や専門化を行うことを許すので、世界は現在の危機を脱することが予想されるようになります。そしてこうした考え方は、証拠を眺めることにより至ったもので、著者はその証拠を以後提示していきます。 第1章ではまず、世界一人当たりのGDPが1800年以降飛躍的に伸びているグラフが提示され、現在の生活レベルが過去のどの時代のそれよりもはるかに上であることが述べられます。そしてこのように、生活に追われる労働から解放され、自由な時間を得られるようになったのは、交換と専門化、そしてその結果として生じた分業に起因していることが語られます。第2章では、化石人類が登場した100万年前から停滞していたテクノロジーが、20万年前辺りを境にして、血縁者以外と初めて物を交換し始めたことから、進化し始めたことが説明されていきます。第3章では、繁栄と進歩の基盤である人間の協力と交換という土台全体は、幸運な生物学的事実に依存していることが語られ、信頼を土台とした交換の歴史が述べられます。第4章では、農業は自然種を利用しやすいように品種改良してきた歴史なのであり、今後人口に食糧を供給するには、集約的農業によって農地を効率的に使い、農地以外の自然を守ることが必要だと述べられます。第5章では、交易の増大が都市や余剰農産物を生んだことが語られ、その後、交易の歴史が具体的に説明されていきます。
 ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』にとても似た構造を持った本で、同じように大変示唆に富んだ本でした。後半を読むのが楽しみです。