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堀川惠子『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』

2011-02-25 05:02:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、堀川惠子さんの'09年作品『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』を読みました。永山則夫の生い立ちから裁判の経過を調査したノンフィクションです。
 先ず、無期懲役になった山口県光市母子殺害事件の被告に対し、死刑を熱狂的に求める広島市民の姿を見てショックを受けた著者が、裁判員裁判が始まることも併せて、現在の死刑判決の基準ともなっている永山則夫の裁判の調査をする決心に至った経緯が語られます。そして永山則夫の未調査の遺品が蔵一つ分もあることが明らかにされ、著者がその調査から始めたことが語られます。そして以下では、永山の生い立ち、事件と裁判の経緯が語られていきます。永山の父は博打にうつつを抜かして家に帰らず、多くの子供を抱えた母は、面倒を見ることのできる子供だけを連れて網走から逃げ、永山ら残された4人の幼い兄弟は零下30度の中で一冬を越します。兄から鼻血が出るまで殴られるというDVにさらされていた永山は、学校でも虐めに会い、中学校はほとんど登校せずに過ごします。中卒で上京するも、周囲になじめずに職を転々とし、盗みのために侵入した横須賀基地で偶然拳銃を手に入れると、発作的にホテルの警備員を射殺し、その後数カ月の間に、それが露見されるのを防ぐために3件の殺人を犯します。その後も犯罪を重ねますが、警察に見過ごされた後、ようやく逮捕されます。4人の殺人ということから一審では死刑判決を受けますが、その後、彼の本を読み、自分自身もフィリピン人の父と日本人の母との間に生まれた「あいのこ」として差別を受け、戸籍すらもなかった女性と文通を重ねた結果、結婚し、また犯行に及んだ年齢が少年に限り無く近い19才と3ヶ月ということ、本の印税は被害者の遺族へ送っていること、その悲惨な生い立ちが社会に対する憎しみを生んだことなどを鑑み、2審では無期懲役の判決を勝ち取ります。しかし、最高裁は前例を破って高裁への差し戻しを決定し、その結果、永山の心は荒廃して離婚し、結局死刑が確定して、処刑されます。現在の死刑の基準として言及される「永山基準」というのは、最高裁で示された9つの因子のことを指しますが、そこでは死刑と無期懲役を分ける線引きがなされている訳ではなく、その後の調査や研究でも、被害者が単数なら無期懲役、複数なら死刑というのが原則といった程度の分け方しかされていないのでした。
 裁判によって同じ犯罪でも死刑になったり無期懲役になったりというのが現状であり、以前より死刑に対する慎重さが裁判に欠けてきている印象を強く持ちました。フランスでもイギリスでも世論の強い反対にもかかわらず、議会が死刑を廃止してきている歴史を考えれば、日本でも今死刑を廃止することは可能であると思います。償いや反省をさせないままに加害者を殺してしまう死刑の虚しさには、私も深く共感しました。死刑の存続に賛成する方には特に読んでほしい本です。

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