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鈴木清順監督『峠を渡る若い風』その6

2021-04-04 08:32:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

 楽屋。千場組の人々へ母「本当に皆さま方のお力ぞえのおかげですわ。ありがとうございました。うれしくて、うれしくて」「冗談じゃねえ。礼を言いたいのはこっちの方だ。近頃こんなに気分がすっとなることはなかったよ」「どうぞ、何もありませんけど」山口、現われて「まったく素晴らしい。大成功だ」美佐子「じゃあ私たちの勝ちね」「そうだとも。立派な勝ちだ。どうだろ。向こう半年契約してくれんだろうか? 私の小屋を次々と回ってほしいんだ。まずこの若松で10日。次に仙台で半月。もちろんギャラもうんと弾むよ」。拍手喝采。ヘラクレス、飼っている小鳥に「お前にも~買ってやるぞ」「母ちゃん、これで子供を産めそうだぞ」「俺はニュースタイルの服を新調しようかな」。山口「どうしたの?」美佐子「ありがとうございます。父も喜んでいることでしょう。契約はお受けします」。心配そうに見つめる信太郎と美佐子の母。「美佐子、お前は東京に」「いいのよ。お母さん」「美佐ちゃん、乾杯しよう。皆さん、乾杯」かんぱーい!の大合唱。手すりに置かれたピエロの衣装に気づく信太郎。
 ケン「おっさん、覚悟はいいか?」「ああ、これで思い残すことはねえ。久しぶりに大入りの舞台に出られてうれしかった。礼を言うぜ」。信太郎、ケンの背中に拳銃を構え、「ケンさん、いい加減にしろよ。しつこいぞ」「人の仕事に口を出すなって言っといたはずだぜ」「じゃ、どうしてもやろうって訳かい?」「うるさい。俺だってやりたい訳じゃねえ。ただこれをぶっぱなさないと、俺の顔が立たないってことよ」「拳銃を撃てばメンツが立つって訳かよ」「ところがな、あいにく俺はハジキを外したことがねえんだ」「そうか。じゃあ、まあ、やってくれや。どうしたんだ。早く撃ちなよ」「催促するねえ。気分が悪いじゃねえか」「なるほどな。じゃあ俺は後ろを向いてタバコでも吸ってらあ」。拳銃、発射。栗田「う~」ケン「あれ?」という表情。何発撃っても栗田は倒れず。信太郎「ハハハハ、これでメンツが立つはずだよ」「この野郎、空砲入れやがったな。いつすり替えたんだ?」「夕べさ。初日の晩が危ないと思ったからね」「あきれた野郎だ」「さっきのあんたの言い分からすれば、これで栗田さんを撃つ必要はないはずだぜ」「よ~し、いち抜けた。おっさん、達者で暮らしなよ」。去るケン。
 橋の上を歩く信太郎と栗田。「信太郎さーん!」「ではお先に」「では」。美佐子「どこ行ってたの?」「ちょっと栗田さんと話があったんだ」「それならいいけど、どっか行ってしまうんじゃないかって」「この公演の間はずっといるつもりだよ」。
 歩いていく二人。
「ごめんなさい。私。約束破っちゃって」。うなずく信太郎。「一団の人たちの顔を見てたら、私ってやっぱり芸人の子なんだわ。信太郎さんとは住む世界が違うのよ。でもあなたと一緒のときはとっても楽しかったわ。こんな楽しい時はもう二度と来ないわね」「僕たち、まだ若いんだ。いつかまたきっと会えるさ」「そうね。そうなってくれればいいけど」「美佐ちゃんみたいな人、初めてだ。学生なんて口ばっかり達者で、いざとなると何もできやしない。それに比べると美佐ちゃんはいつも一所懸命生きようとしている。立派だなあ」「ありがとう。あたしは信太郎さんの優しい気持ちが好きだったわ」。握手する二人。橋を渡る二人。美佐子、信太郎の腕を取り「もう少し一緒に歩いてちょうだい。ねえ、東京へ帰っても、あたしのこと忘れないでね」「ああ」。
 山道を進むトラック。山の中腹で停まる。荷台から飛び降りる信太郎。「じゃ、失礼。仙台の公演が成功するように祈ってるよ」。美佐子から荷物を受け取る信太郎。「どうしてもここで降りるの?」「ああ、少し景色を見ながら歩きたいからね。それに峠を降りたら、また別れられなくなるしな」。うなずく美佐子。「じゃ、さよなら」恵「お兄ちゃん、あたしたちもいつかトレーラーを引っ張ってアメリカ中を興行して歩くわ」。投げキス。美佐子「運転手さん、出してちょうだい。うんとスピード出してね」。急に動き出したトラックに荷台の人々、驚き、あわてる。皆、手を振り「さよなら」「また会おうぜ」「元気でな」。信太郎もさかんに手を振る。カバンの中から万国旗。歌が始まる。曲がり角でトラックが見えなくなると、万国旗を首にかけ、トラックが行った逆の方向へ信太郎は歩き出し、映画は終わる。

 こうしてあらすじを書いていても、少しも飽きない映画でした。ここでも『踏みはずした青春』と同じく、移動撮影が多用されていました。