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三崎亜記『玉磨き』

2013-11-19 10:01:00 | ノンジャンル
 6つの短編からなる本です。
 『玉磨き』は、石の玉を両手で磨く動作をし、そこに宿ってこられたモノを玉と同時に磨き、納めるという「玉磨き」という伝統行事を一人で続けている老人と、それを家業として継ごうと思っている一人娘の話。
 『只見通観株式会社』は、通勤を「させられる」ものから「する」ものへと意識転換するために、通勤観覧車というものを考えだし、実際に会社としても軌道に乗せている社長へのインタビュー。
 『古川世代』は、現在三十八歳の人が二十二歳の時、ある週刊誌が「今現在二十二歳の人達は古川という姓を持つ人たちによって牽引されている優秀な世代」という特集記事を組んで以来、古川という姓を持つ二十二歳の人が世間でもてはやされ、やがてネットでその優れた古川が5人に絞られるのですが、彼らが二十五歳になった時に起こった2つの事件により、古川姓を持つ人たちは逆にバッシングを受けることとなり、優れた5人のうち俳優になっていた1人が自殺するに当たって、政府は古川姓を名乗ることを禁止し、ネットからも“古川世代”という言葉をフィルタリングで排除し、十年たって事態も沈静化してから古川姓に戻ることを許すようになったという話。
 『ガミ追い』は、以前、近くを通ると身体に不調を感じるガミという存在が信じられていて、定められた方法で追い師がガミを追い詰め、捕まえたガミは“ご寝所”に収められ、そこで“お成り代わり”されたガミは、氏切によって切り分けられ、“ワガチガミ”として求める人のところへ届けられていましたが、郊外の急速な宅地化で六十年前に「ガミ追い」は消滅していました。しかし、SNSが盛んになり、ネット上に書き込んだ感情を視覚化してみた結果、『不安』や『悪寒』、『頭痛』などのキーワードの色分けだけ、発生源が一カ所に集中し、しかも時間を追うごとに移動していくことに気付いた小早川は、「ガミ追い」の知識も得て、十一人の仲間を従えて、ガミを捕まえることを始めます。捕まえたガミはアクリル樹脂のパッケージに小分けし、ネットオークションで売りました。しかし、ガミ追いにはたまに「崩れ」が生じ、追い師たちの多くが命を落とすことが報告されていました。小早川はガミに異変が起こった際、すぐに追い師たちに緊急警報を鳴らすシステムを構築していたのですが、それでも5年の間に小早川はじめメンバーの皆が病死し、それは六十年前に崩れで死んだ追い師たちの死に様と酷似していました。
 『分業』は、引きこもりの人々を「作業員」にして、絵画や楽譜、写真、小説や医学の専門書、コンピューターのプログラミング言語などを仕様書として提示し、それから何らかの「部品」を作ってもらい、必要に応じてまたその「部品」に、他の「作業員」に手を加えてもらい、それを何度か繰り返し、完成した「部品」となるのを私は見学させてもらいます。最初の女性が作ったものと、それに手を加えて作られたものはまったく異なるもので、最終的に完成したのは、単なる直方体でした。私は「これはどういった形で社会の役に立つのでしょう?」と訊くと、社員の人は「私たちの生活を支える大切なものとしか、お答えできません。あなたもどこかで目にしているはずですよ。必ず」と答えるのでした。
 『新坂町商店街組合』では、5年前から急に発生するようになった海の突然の盛り上がりによって、町が海中に沈んだままになった商店街組合の会長へのインタビューから、歩くことによって道を公認する「歩行技師」が密かに遊覧船をチャーターして、海の底の町の道を公認すること、海の上から金属の郵便物を海底の町へ落として届ける郵便屋の存在、などについて語られます。

 「はじめに」の部分から「終わりに」の部分、しかも参考文献(!)まで、これらの物語が全て事実であったかのような仕掛けが施されていて、改めて三崎さんのエンターテイメント性に瞠目させられました。面白い本を求めている人には請け合いです。なおくわしいあらすじに関しては私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)の「Favorite Novesl」の「三崎亜記」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto