gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

董啓章『地図集』その2

2013-09-20 08:04:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 1880年に描かれたヴィクトリア市の軍事施設に関する地図にまつわる話“閑話角〔噂話コーナー〕と兵営地(Scandal Point and the military cantonment)”、『日の出号世界漫遊記』の中でイギリス人のジョン・スミスが20世紀初頭のヴィクトリア市中区を描写した“スミス氏の一日旅行(Mr.Smith's one-day trip)”、第十代総督のデヴォーが自らの回顧録で語った“総督府の景観(the view from Goverment House)”、香港島周辺海域で調査を行ったとされる、イギリス艦硫黄号の艦長ベルチャーが夜の海上に巨大な蝦蟇(ひきがえる)を見たという“ベルチャーの夢の中の蝦蟇(the toad of Belcher's dream)”、ヴィクトリア市が裙帯路(クワンタイロウ)に戻ることになったという“裙帯路の返還(the return of Kwan Tai Loo)”、太平山に伝染病が発生した話“太平山の呪い(the curse of Tai Ping Shan)”、「香港要塞施設要図」と題され、イギリス人製作にして日本語で覆刻された現存するヴィクトリア市地図はその正確さを評価されていますが、一方で日本史学者藤田のび太によると、それは日本で流行った遊びの「攻略ゲーム」であり、たまたまそれが実際の香港の地図と一致していたという“攻略ゲーム(war game)”について語られます。第3部の“街路篇”では、香港でも最も歴史の長い通りで、泉が湧いていたとも言われる“春園街(Spring Garden Lane)”、沿道にはもともと雪廠〔氷貯蔵所〕があり、工場内の氷室に入って故郷の厳寒の冬を体験する、たいへん好まれた秘密のレクリエーションが行われていたという“雪廠街(Ice House Street)”、造幣工場で銀貨を作ったが、なぜか砂糖ができてしまったという伝説のある“糖街(Sugar Street)”、義姉妹の契りを結んだ7人の少女の伝説がある“七姉妹道(Tsat Tsz Mui Road)”、もともとは渓流が走っていたため2つの道路に分かれたという“堅掌道東と堅掌道西(Canal Road East and Canal Road West)”、軍紀整頓で名を上げたオールドリッチ少佐の名に由来する“愛秩序街(Aldrich Street)”、占領された街という意味もあり、また中国人高級娼婦の集結地にもなったという“水坑口街(Possession Street)”、優雅な名前にしようと名付けられた“詩歌舞街(Sycamore Street)”、夏には水田に通菜を植え、秋になると西洋野を植えていたことから名付けられた“通菜街と西洋菜街(Tung Choi Street and Sai Yeung Choi Street)”、多くの住民が川で洗濯をしていて、やがて洗濯が専門職になっていったことから名付けられた“洗衣街(Sai Yee Street)”、もともと「公衆広場」という意味だった“衆坊街(Public Square Street)”、なんの物語も伝聞も持ち合わせていない“柏樹街(Cedar Street)”について語られます。そして4部の“記号篇(Sugns)”では、地図記号について書かれていますが、内容が難解な“図表凡例の堕落(the decline of the legend)”、「香港の外地物品購入図」を例にして語られる、やはり難解な“台風の眼(the eye of the typhoon)”、巨大災害の発生の際、住民が遁走できるように秘密に設計されていたという“赤鑞角空港(Chek Lap Kok Air Port)”、土地利用を色分けすることを論ずる“換喩の系譜(the metonymic spectrum)”、標高や海抜を表すことを論ずる“想像の高度(the elevation of imagination)”、地質図を論じた“地質種類分岐(geological discrimination)”、地図における方位を論じた“北進偏差(north-oriented declination)”、ガイド・マップで数字を論じる“数字の旅(the travel of numbers)”、デジタル地図を論ずる“記号の墓穴(the tomb of signs)”、地下鉄地図を例にして地図における時間を論じた“時間の軌跡(the orbit of time)”が論じられます。最後に「後記――誠実なる遊戯」と題して、『地図集』は確かに一篇の小説であり、学者の厳粛な口調で書かれながらも、本書は先ず人の笑いを取るものでなければならず、また本書は単なる遊戯でもなく、熱い思考で書かれ、ところによっては筆致は感性に傾きすぎ、ほとんどセンチメンタリズムに陥ったとも書かれています。
 そして付録として書かれた『与作』は、日本への飛行機の中で知り合った日本人の男とおそらく香港人の女が、男の叔父が手作りで作ったセルロイド製のメガネをめぐって結ばれていくという話でした。
 『地図集』、確かにすごい本でしたが、あまりのすごさに付いて行けない部分もあったことを告白しておきます。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto