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川上未映子『愛の夢とか』

2013-09-13 08:33:00 | ノンジャンル
 '13年に刊行され、谷崎潤一郎賞を受賞した、川上未映子さんの7つの短編が収められた本です。
 『アイスクリーム熱』では、わたしが勤めるアイスクリーム屋に2日おきに規則正しくアイスクリームを買いに来る青年は、べつの女の子が空いていても何となくわたしに注文するし、1回につき一度はわたしの目をじっとみます。ある日、駅まで一緒に歩いて帰らないかと誘ってみてから、わたしは彼と一緒に帰ることが多くなりました。わたしは作れもしないアイスクリームを作るのが得意だと彼に言い、彼の自宅を訪れ、失敗したアイスクリームを彼に食べさせてしまいます。それ以降、彼はアイスクリームを買いに来なくなり、店もつぶれ、ある日、自分の声がどんなだったかなんて、最初からわたしは知らないことに思い至るのでした。
 『愛の夢とか』では、わたしは川の近くに家を買って、2ヶ月したらとても大きな地震がきて、しばらくはゆううつでぐったりしていましたが、やがて気の向くままばらを買っていました。ばらの花をきっかけに気がむいたら植物の鉢植えなんかをぽつぽつ買うようになっていって、今ではけっこうな数になりました。ある日隣人の奥さんが声をかけてくれ、自分のピアノの練習に立ち会って欲しいと言ってきます。それからわたしは隣の家を火曜と木曜に訪れ、お互いをテリーとビアンカと呼び合うようになり、わたしが通い始めてから13度目についに、テリーは“愛の夢”という曲を最後まで間違うことなく弾くことができました。二人はお互いに拍手をし、くちづけもし、その時の二人は白髪女と四十女ではなくテリーとビアンカでした。しかし、それ以降、二人は会うこともなくなり、ピアノの音がすることもなくなるのでした。
 『いちご畑が永遠につづいてゆくのだから』では、夫が帰宅してわたしと眠るまでが、いちごとからめながら、「待機」「訓練」「内部」「冷蔵庫」「見蕩れる」「却下」「復讐」「決定」「寝室」「夜の底」という章立てのもとで語られていきます。
 『日曜日はどこへ』では、わたしは小説家の死をアイフォンで知ります。わたしは今まで読んで来たその小説家の死にショックを受け、バイトを休みます。そしてその作家のことを教えてくれた雨宮くんのことを思い出します。わたしたちは高3から21歳の夏まで付き合い、別れ際、もしこの作家が死んだら、デートでよく使っていた植物園で会おうと約束していたのでした。わたしはその約束を果たしましたが、雨宮くんは現れませんでした。帰りの電車では向かいに座っていた男性が作家の本を持っていて、「残念でしたね」と声をかけてくれるのでした。
 『三月の毛糸』では、妊娠中の妻と僕が実家から寄り道して京都のホテルに泊まった時、妻が何もかもが毛糸でできた世界の夢を見たと言いだし、その一方で、自分が産もうとしている子を残酷な世界に導いていこうとしているのではないかと不安を口にし、僕がそれを慰める話。
 『お花畑自身』では、夫の事業の失敗で、わたしは家屋敷を手放すことになったのですが、それまで手をかけて育ててきた庭木への執着を断ち切れず、新しい女主人が外出した隙に庭に入り、水やりしていたところを女主人に見つかり、やがてそんなに庭を愛してるなら庭の一部になればいいと、顔を除いて地面に体を埋められてしまう話。
 『十三月怪談』では、時子は腎臓の病気で、1人だけの家族である夫・潤一を残して逝ってしまいます。その後、魂となった時子は、潤一の姿を見守り続け、最後に、潤一の時子と別れた後の人生が語られます。

 『いちご畑が永遠につづいてゆくのだから』は難解な散文詩といったもので、理解に苦しみましたが、それ以外は日常のスケッチがうまく描かれていたと思います。特に『十三月怪談』で魂となった時子の独白の部分は映画『シェルブールの雨傘』を想起させる素晴らしいものだったので、私のサイト(Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto))の「Favorite Novels」の「川上未映子」のところに一部を転載させていただこうと思います。また装丁が『となりの猫村さん』を彷佛とさせるノホホンとさせるものであったことも付け加えておきたいと思います。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto