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アヴィ・スタインバーグ『刑務所図書館の人びと ハーバードを出て司書になった男の日記』

2012-03-30 18:23:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、アヴィ・スタインバーグさんの'10年作品『刑務所図書館の人びと ハーバードを出て司書になった男の日記』を読みました。
 著者は敬虔なユダヤ教徒でしたが、ハーバード大学を出た後、将来への展望など特になく、新聞の死亡記事を書く仕事に就き、その後、健康保険に入れる仕事に就くために、刑務所の図書館司書の仕事を得ます。
 著者が言うには、受刑者の中で、いちばん司書に向いているのが風俗の男。逆にまったく向いていないのがサイコキラーと詐欺師。ギャング、銃器密輸人、銀行強盗は群衆整理がうまく、少人数の協力者と手を組んで、慎重に練った計画を抑え気味のテンションで実行するのが得意。ということは、司書の基本的技能に長けています。しかも、刑務所の図書室の魅力は本だけじゃなく、誰かを見かけたり、誰かに見かけられたり、本棚の間では、年配の受刑者が定期的に集まって討論したり、新しい笑いのネタを試したり、熱弁をふるったり、思い出話をしたり、情報を交換したり、知恵比べをしたりしています。古顔が回想録を書いていたり、野心家が大ヒット間違いなしのピンク映画の脚本を書いていたりもしています。刑務所の図書館は、しんと静まり返っていることはほとんどありません。大勢の人間が入り乱れ、著者も走り回っていることが多いのです。また「カイト」と呼ばれる受刑者間の手紙が大量に交換されるのも図書室の特徴です。
 朝一番でそろいの囚人服を着た25人ほどの受刑者が押し寄せてきます。まずは時間をかけてお互いに挨拶し、その後、どの受刑者も雑誌か新聞かその両方を読みたがり、また、たいていの受刑者は「ストリート系の本」を求めます。また、受刑者は一斉に雑多な要望をぶつけてきます。例えば、内緒で電話をかけさせてくれという要望は、どれも却下。小声で、エイズや血尿について教えてほしいとか、手紙を読んでほしいといってくる者もいますが、その手の要望にはすべて応じます。著者のパソコンで「一瞬」インターネットを見せてほしいという要望は、はねつけます。そして1時間が過ぎると、受刑者たちはようやく図書室を出て所属するユニットにもどり、また違うユニットの受刑者のグループがやって来ます。司書は二交代制で夜の9時まで働き、9時になると受刑者は全員テレビの前に集まり、刑務所からの脱出をめぐる人気ドラマを見ます。
 刑務所で働くストレスは大きく、著者は背中の激痛に悩まされることになります。情緒面の発育が止まったままの刑務官とのいざこざは小学生のけんかレベルでしたが、次第に手に負えないほどこじれ、無実の罪で懲戒処分まで受けることになります。深夜の公園では、元受刑者に強盗に会い、相手が「そういや、まだ二冊、本を借りていたっけ」と言ってゲラゲラ笑いながら夜の闇に消えていったこともありました。
 著者が受刑者の中でも特に強く記憶の残っているのは、幼い頃に捨てた息子が受刑者となって中庭でバスケットをしているのを見下ろすことに熱心だった、普段は無口で、出所後結局自殺してしまったジェシカ、将来はコックになり、テレビで自分の料理番組を持つのが夢で、受刑中から熱心にレシピを考案していながら、出所後すぐに射殺されてしまったチャドニーなどなどです。

 詳細な描写が多々なされ、よくここまで会話の内容などを覚えていたと感心するほどでした。受刑者や刑務官の姿も見事に描かれていたと思います。「刑務所図書館」という特異な空間に興味のある方にお勧めです。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/