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三羽省吾『JUNK 毒にもなれない裏通りの小悪党』

2012-03-11 09:10:00 | ノンジャンル
 瀬川昌治監督の'67年作品『喜劇・団体列車』をスカパーの東映チャンネルで見ました。主役は前半は助役の試験を受ける駅員、後半は四国一周の団体旅行の添乗員となる渥美清、マドンナ役の未亡人で子供もいる佐久間良子と、彼女をライバル視する女性というシンプルな三角関係の物語でしたが、渥美清の熱演ぶりで笑わせてもらいました。

 さて、三羽省吾さんの'11年作品『JUNK 毒にもなれない裏通りの小悪党』を読みました。2編の中編からなる本です。
 『指』では、小三の息子と5才の娘と妻を持つ公務員の俺は、幼い頃からの盗癖を抑えることができず、週末になるとターミナル駅で掏摸を重ねていました。ある日、見事な掏摸を働く男をたまたま見かけると、男は俺を既に掏摸と知っていて近づいてきて、掏摸の集団に引き合わせます。集団のリーダーであるバーサンは、知人の警察官サクラから、地元の犯罪集団を駆逐し、掏摸に対しては指を切り取るという外国人の犯罪集団が西から東上してきているので、あらかじめ警察に警戒線を引かせるため、バーサン傘下の掏摸に集団で犯行を行わせてほしいと言われていると言い、その計画に俺を誘うのでした。俺は掏摸のテクニックを改めて習い始めると、盗癖への衝動を抑えることができるようになります。計画が始まってしばらくすると、俺を誘った男・ボーヤが外国人の集団に拉致される事件が起こり、計画は一旦中止となります。しばらくして自分の元を訪れてきたボーヤは、右手の2つの指を失っていて、俺は彼に子供ができて、堅気になるためにわざとそうしたと思うのでしたが、彼は俺は両手使いなのを忘れたのか、とうそぶき、彼らに比べてみれば、俺の掏摸など大した問題ではないと思うのでした。
 『飯』では、無職で借金を抱えている俺は、遠い知人から、刑務所の入り口の前にある飯屋でバイトをしながらある人物が刑務所から出てくるのを見張るという仕事を1ヶ月30万で請け負います。その飯屋を一人で商うジジィはまもなくケガをして入院してしまい、その後店を一人でやることになった俺は、味付けにちょっとした工夫をすることで店がネットで話題になり、行列ができるほどの人気店になってしまいます。やがてジジィの息子を名乗る男がたまにやって来て店の売上を持っていくようになりますが、俺への仕事の依頼人の男は、それは自分の父であり、怪しい商売にばかり金を注ぎ込んで大きな借金を抱えていること、ジジィの妻は以前は有名な鍵師で、引退してからこの店を始め、妻が死んだ後ジジィが店を継いでいること、ジジィの妻は遺産として金庫を残していて、それを開けてもらうために有名な鍵師である是枝という男が出所してくるのを待っていることを教えてくれます。是枝は刑務所に入っていた頃から俺の店の出前を取っていて、そのうまさから出所して自分から店に顔を出し、金庫を開ける仕事を請け負ってくれることになりました。金庫には金庫を開けてくれた人へのお礼として8千万の現金と、ジジィの家族に渡してほしいという店の新しい暖簾が入っていました。是枝さんとと俺は相談して、お金はすべてジジィの孫に渡すと、孫はそれを父の借金返済に当てましたが、父はそれまでに犯した罪で刑務所に入ることになり、退院したジジィも昔の癖で盗みを働いてしまい入所することになります。そして店をジジィの孫と続けることになった俺は、精算しなければならないと思っていた彼女との関係も先延ばしにして、取りあえず今やれることをやろうと思うのでした。
 
 一人称の文章にも関わらず、内面的な描写が最低限に抑えられていて、気持ち良く読むことができました。設定が非日常にもかかわらず、登場人物の中にすっと入っていける、そんな文章だったと思います。是非手に取って読まれることをお勧めします。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/