gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

高野秀行『アジア新聞屋台村』

2008-08-14 15:14:00 | ノンジャンル
 日本は体操男子団体で銀を取りましたが、その演技の高度さに驚きました。以前は10点満点だったのが、今は15点台の点数が出るほどになっています。とても人間技とは思えない素晴らしさでした。

 高野秀行さんが'06年に出した「アジア新聞屋台村」を読みました。台湾人の若い女性・劉さんが経営するエイジアンという会社が発行するタイ語と日本語で書かれた新聞にコラムの執筆を頼まれた著者が、エイジアンで出会う人々や出来事について書いた本です。
 著者がオフィスに行くと、日本にいるタイ人、台湾人、ミャンマー人、インドネシア人、マレーシア人とそれぞれの国に興味を持つ日本人に向けて、それぞれの言葉と日本語からなる5紙の新聞が作られていて、日本人のスタッフが一人もいないことから日本語で書かれた記事におかしな日本語が多く見られることから、著者は自ら5紙の日本語の部分の校閲をするようになりますが、それまで編集長もいなければ会議を開いたこともない会社に戸惑い、著者は無意識のうちに会社の日本化をしていこうとします。
 社長の劉さんはエネルギッシュな人ですが、安定した収入がある仕事は退屈だといって放り出し、一獲千金を目指して自前の電話会社を作ったり、いろんなことに手を出しては失敗しますが、明るさを失いません。そんな劉さんに著者はあきれながらも、惹かれていきます。
 スタッフにも個性溢れる人が多くいて、日韓問題に敏感で、仕事のまとめ役であり、著者が淡い恋心を抱く美人だが姉御肌の韓国人、大金持ちの息子のインテリのインドネシア人、やはり大金持ちの娘でインテリのタイ人、敬虔なイスラム教徒のインドネシア人らが登場します。
 そして著者は最後に次のようなことに考え至ります。「日本に最も欠けているもの、それは選択肢なのだ。会社でも家庭でも学校でもボランティア活動でも、日本の集団というのは価値観が著しく集約されている。その価値観から外れると、はじきだされる。
 集団を離れても自力でやれる強い人はいい。だが、集団にはついていけず、かといって一人でやっていける強い人はそう多くない。たいていの人は弱いのだ。
 そういう群れからはぐれた人たちの選択肢となりうるのがエイジアン人なのである。
 日本人みんながエイジアン人になったら、それは困る。しかし、エイジアン人は社会からこぼれたものを拾い上げる力がある。(中略)
 今までも十分、エイジアン的に生きてきたが、このときあらためて私は決意した。
 私は私の培ってきたエイジアン魂で生きていこう、と。」
 なぜ著者がこういう気持ちになったのかは、「日本人同士は同質性のなかにわざわざ差異を探すのが得意だが、外国人同士は異質性のなかに共通項を探していく。(中略)そのなかに入れば、とても気楽に仲間が見つけられる。」ことに気付いたからです。
 最近頻発する無差別殺人の容疑者の供述を聞いても、彼らがすごく疎外感を感じていることが分かります。彼らのそばにエイジアン魂を持った人がいてくれれば、彼らも犯罪を犯さなくて済んだかもしれません。そんなことも考えさせてくれ、また楽しませてもくれる、とてもお得な本がこの本です。ぜひ書店で手に入れられることをオススメします。