一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

イタリア紀行●その5

2011-10-13 04:44:09 | 紀行

イタリア紀行 ●その5 イタリア、カフェ事情

 ある朝、イギリス人の友人Pさんが、「イタリア式の朝ごはんを食べましょう」と、私たちの宿、カーサ・モレッロを訪ねてきた。イタリア人は朝食に何か特別なものを食べるのだろうかと、興味津々で彼に従った。連れていかれたのは宿にも近いある小さなカフェである。結構混んでいる。どうやら皆、朝食をとっているらしい。

 

何のことはない、それはパンとコーヒーだった。これなら私の朝食と変わりはないではないかと思っていると、パンの内容が問題なのだった。いわゆる菓子パンである。クロワッサンでも、中にチョコレートやクリームが入っているものが好まれるのだという。カプチーノと甘い菓子パン、Pさんにいわせれば、これこそ典型的なイタリア式朝食なのである。

 

どうやらイタリア人は、女も男も甘いものが好きなようだ。中年の、体躯も堂々とした男性が、独りカフェでアイスクリームを食べている。それもガラスの器に華やかに盛られたアイスクリームである。小さな旗まで立っている。私たち日本の男は、いくら食べたいと思っても、あのようなアイスクリームを注文することはできない。イタリア人は、自らの欲望に素直なのだろうか。それに人目を気にすることもあまりなさそうである。

 

自らを美しく見せたい、この思いも欲望の一種だとすると、イタリア人は女も男も、この欲望に忠実であるようだ。とにかくカッコイイのである。身体にピタリと合ったファッションは、スマートな体躯とあいまって、眩しさを覚える。女性の胸元は大きく開いている。イタリアに到着した当初、目のやり場に困ったものだ。

 

さて、カフェの起源はヴェネツィアにあるという。おそらくサン・マルコ大聖堂前の広場こそ、その発祥の地ではないか。有名なカフェ・フローリアンは敬遠して、私たちはワーグナーが通ったというカフェ・ラヴェナに腰を落ち着けた。





 

 ヴェネツィア随一の観光区域だけあって、人また人である。中国人の団体がひときわ目を惹く。それに引き換え、日本人の観光客にはほとんど出会わなかった。現在の世界経済を反映して、まことに興味深い現象である。

 

このカフェ・ラヴェナは結構な値段がしたのだが、他のカフェはとにかく安い。カプチーノは1.5ユーロからせいぜい2ユーロである。それにどのカフェのコーヒーもとても美味しい。昼間ふらっと入って注文するのはカプチーノ、食後はエスプレッソである。キリマンジェロやらブルーマウンテンやらと種類は多くない。アメリカン(イタリア語ではアメリカーノ)を注文すると驚くことになる。普通サイズのカップの底に少量のエスプレッソと、カップ一杯のお湯が出てくるのだ。お好みでエスプレッソを薄めなさいという訳だ。いく分アメリカ人を馬鹿にしている(もちろん、味の薄い、普通のアメリカンを出す店もある)。

 

暑い夏のことである。私はほとんどTシャツで通したが、そんな姿はほとんど見かけなかった。ポロシャツ姿がほとんど。ジーンズとTシャツという典型的なアメリカン・スタイルは、日本とちがいここイタリアでは、定着度が極めて低い。このあたりにも、アメリカ文化に対するある種の抵抗感があるのだろうか。

 
 イタリアという社会のなかでカフェの果たす役割は様々である。なかでもユニークなのが公衆トイレ機能だろう。日本は、駅や公園など公共の施設にはトイレがあり、またいざというときにはコンビニでも借りられる。イタリアではこうはいかない。駅のトイレは有料であるし、小銭がないと入れない場合もある(0.6~0.8ユーロ)。公共の施設も有料が多く、まったく設置していない所もある。概してトイレを探すのには苦労する。そこで、至る所に存在するカフェが頼みの綱となる。もちろんトイレだけ借りるというわけにはいかない。おもむろにコーヒーを注文し、暫しの間を置いてトイレを拝借するのである。

 
トイレで驚いたのは、いわゆる和式、つまりしゃがんで用をたすトイレが結構多かったことだ。ヨーロッパで和式のトイレに出会うとは思ってもいなかった。和式のトイレしかないカフェでは、我々男性は困ることになる。また、和式と洋式の中間くらいのトイレもあって、これは女性が困るだろうなと、他人事ながら心配したものだ。ホテルや私たちのB&Bではもちろん洋式である。それに必ずビデがある。ビデのスペースのことも考えると、この機能も組み込んだ日本のトイレは優れものだと、つくづく思った。

 
カフェの果たす役割といえば、何といっても人とのコミュニケーションだろうか。私たちの滞在が夏であったせいか、カフェといえばオープン・カフェであった。陽射しは強くても湿気がないので、日陰は過ごしやすい。快い外気、美味いコーヒー、そして心を許せる友人とのとりとめもない会話……。これこそが生きている幸せ、という気分が伝わってくる。時間はゆったりと流れる。夜の時間も長い。

↓パドヴァのシニョーリ広場。22時に近い。イタリア人のおしゃべりはいつまでも続く。

以下は私の撮ったスナップ写真中の様々なカフェ。
↓ヴィチェンツィアのシニョーリ広場。


↓ヴィチェンツィアの路地

↓ヴェネツィアで



↓バールやレストランを流す音楽師たち(ここまでヴェネツィア)
 
↓ヴェローナのブラ広場
 
↓マントヴァのエルベ広場
 j-mosa



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