田丸まひる歌集・『硝子のボレット』
三年前に 「未来」の会員になった 田丸まひる は30代の女子、いただいた彼女の歌集を緊張しながら読んだ。10年前に第1歌集『晴れのち神様』を上梓、未来入会後1年で 「未来賞」 を受賞している。選考委員の一人の加藤治郎は応募作 「ひとりひとり」を初めて読んだとき「問いと否定を畳みかけてくる、欲望を隠さない、その熱量」に圧倒されたらしい。『硝子のボレット』の帯は紫、白文字の加藤治郎の言葉は<行為の果てにあるもの>
おなじ結社でも彼女に私は会ったことがない。彼女についての情報は作品からである。恋の歌が多いが、私は精神科医らしい彼女の仕事の歌に関心がある。
♠ もぎたての不定愁訴をぶちまけた診察室の壁がふるえる
♠ 眠れずに白身魚を焼いたこと電話報告される真夜中
♠ 一生眠れる薬ほしがる女子生徒に言い返せない 夕立ですか
恋は誰でも詠める。相手がいなくても架空の恋。この3首は医者でなければ詠めない。
♠ 父親になってくれないひとなんか捨ててしまえと書く診断書
♠ やわらかな睫毛がゆれる思春期の恋のはじまりカルテに記す
精神科の患者は恋を患う女が多いのだろう、田丸まひる医師も恋の患者になることも?
♠ 愛してるどんな明日でも生き残るために硝子の弾丸を撃つ
歌集最後の頁に1首のみ収められたこの歌から 「ボレット」とは弾丸であることを知る。
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田丸まひるサマ 生き残るために私もガラスの弾丸を撃ちたいです。
9月23日 松井多絵子