❤ 待ってくれる文子さん ❤
朝日の「あるきだす言葉たち」の作者と共に歩きだすと、いつの間にか私一人が夜の迷路に置き去りにされる。でも1昨日の相沢文子さんの15句をくりかえし読み、文子さんは私がモタモタ歩いても待っていてくださる方に思えた。 「盆の月」より五句を。
☽ 秋暑し川の名前をまた忘れ
☽ 段ボールを積み上げられし部屋残暑
☽ 読みさしのページに残る暑さかな
この三句が作られたのは八月の半ば頃か。昨年の9月はたしか35度位からはじまり
残暑に悩まされた。その頃を思い出しながら作られたのではないか。強い日差しを反射する川の名前などどうでもよくなる。熱を収めたような段ボールが積み上げられた部屋は風通しが悪い。読んでいる本のページまで熱を帯びている。私は今にも燃えそうな郵便に触れたことが何度もあった。
☽ 盆の月受話器しづかに置かれけり
受話器をとればあの世の人からの言葉が聞こえそうな盆の夜。月光は受話器を照らす。
☽ 改札を出る人ばかり初嵐
帰宅する人ばかりの駅。夜更けなのか。台風の予報で帰宅を急ぐ人々か集う改札口。
※ 相沢文子さんは1974年新潟市生まれ。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。
伝統を大切になさりながら着眼点の新しさも備えた俳人ですね。
秋月よ、今夜は我が家に来てね。出窓にケータイを置いておきますから。
9月4日 松井多絵子