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 「すずめ」という歌集

2014-09-18 09:28:07 | 歌う

         ・・・ 「すずめ」という歌集 ・・・

 もしこの歌集名が 「つばめ」だったら私は読む気になれなかったかもしれない。暖かくなった頃の日本に颯爽とやってくる、優美でスマートな鳥、矢のように飛ぶ。カッコいいがいかにも要領のいい鳥、しかしすずめは身近にいて特に気が付かない小鳥である。8月末日、私は歌集『すずめ』の著者の藤島秀憲さんに初めて会った。「心の花」の全国大会の受付でちょっとご挨拶しただけだが、シンポジウム「われわれは国際化のなかで何を歌うか」での発言で彼に親しむことができた。歌壇では注目されているのに「すずめ」のような人。

 「いま53歳ですが、僕は海外を知りません。日本も本州以外は知りません。想像力と言葉の力で海外を歌えるでしょうか」などと。たしか青いTシャツだった。まるで「すずめ」みたいな人。目立たないが「すずめ」は人の行動を見ている、人が注意を向けると鋭く反応する知能を持つ鳥だという説もあるらしい。藤島秀憲は母の介護をして看取った後に認知症の父の介護を亡くなるまで1人でなさった。歌集『すずめ』には私の好きな作品がたくさんあるが父を詠まれた彼の歌を六首抄出してみる。  9月18日  松井多絵子

  いま父の前には昭和の天皇がいるらし幼馴染のように

  置時計より静かに父がいる春のみぞれのふるゆうまぐれ

  要介護1が2になり4になりベッドの柵をさぐる父の手

  わたしには死んでいる父 手加減をしながら心臓マッサージする

  印鑑をわれが二か所に捺すを待つ安置所前の父の人体

  二年後に父のお骨を取りに来んわたしは二歳老いたわたしは

       ※    ※    ※    ※

 藤島秀憲 1960年生まれ。 2007年第25回現代短歌評論賞受賞。

        第一歌集 『二丁目通信』により第54回現代歌人協会賞受賞。

        第二歌集 『すずめ』 (短歌研究社 2013年刊行 定価2000円、税別)

                芸術選奨新人賞・寺山修司短歌賞受賞。