ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Ⅸ Hidden Shadows

2007-11-24 02:02:12 | Weblog
この曲は「セクスタント」からの抜粋で、当時ハービーはセクステットを率いて精力的に活動していた。新しい音楽イメージがあったのは確かで、それを具体化して世に発表するために苦労していた。この頃のバンドは「ムワンディシバンド」と呼んでいたようだ。でも芸術というのはイメージを具体化するのは至難の業だ。この音楽自体はある程度目的を達成しているかもしれないけど、音楽は業界を通してアルバムとして発表する以上、たくさんの人に受け入れられて経済的な見返りがないと世間からは失敗作とされてしまう。つらいところだ。このテイクをよく聴くとハービーのイメージする音楽とくにその構造を理解するのはかなり難しいと思う。本当は筋の通った方向性があるんだけど、よく聴かないとバラバラに聞こえる。まるでまとまらない国連会議みたいだ。当時最新のアナログシンセサイザーも取り入れてとにかく新しい音楽を作ろうとしている。ハービーにとってはそれがジャズなんだ。結果はどうあれこれはこれでいいと思う。ハービーハンコック自身はどう思っていたか分からないけど、何かを創るときに必ず襲ってくる苦しみがあったことは確かだろう。でも苦しみは創造の欲望の裏側にあるものだ。創造の欲望がなければ苦しみもない。でもその欲望が満たされた時、歓喜の瞬間が訪れる。これが芸術家の特権だ。経済的にはあまりうまく行かなかったこの時期、音楽もはっきりしないと言われていたこの時期、ぼくも当時はそう思っていた。でも今はこの音楽の奥にハービーハンコックのミュージシャン魂を感じる。


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