ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Oleo Ⅳ

2010-06-26 01:56:56 | Weblog
リズムチェンジという形態がなぜモダンジャズの世界のインプロヴィゼーションの素材として長年存在しているかと言えばそれはその自由さ、それも適度の自由さだ。A-A-B-Aという形、ブリッジをはさむ形、もちろん縛りはあるけど自由な部分が多い。この基になったガーシュインの曲は歌詞もあり、トニックとドミナンテを繰り返す、いわゆる循環コードの曲だ。コードという縛りも大きい。だけどインプロヴィゼーションの世界でのリズムチェンジの意味するところはコードの縛りがないに等しいほどゆるいのだ。これにはジャズが編み出したスウィングリズムとベースのウオーキングラインが大きく関わってくる。コード進行の縛りが適度にゆるくなると音楽が「線的」要するに対位法的になってくる。それも即興的に・・・。まして複数のミュージシャンが絡んでやるからやるたびに新しいハーモニーが生まれる。それは計算された機能的なものではない。その独特の面白さを小節数や形式と言った守るべき最低限のルールの中で一緒に楽しむのだ。対位法的か和声的かというのはもちろん音楽家としての大きな個性でもあるけど、演奏する曲である程度決められる部分もある。美しいコード進行を持つバラッドはそのコードの中に音楽的価値を見出さざるを得ない。でもリズムチェンジをコード進行に縛られて演奏してたらアドリブが全く展開していかない。対位法的か和声的かという問題は別に白か黒かというものではなくて音楽は常に両面を持っているものだ。ただそのバランスがどっちに傾いているかということだ。ジャズインプロヴィゼーションはコード進行にそって和声的にやる、それは一面的な捉え方だ。2つ3つの線が自由に絡み合って即興で和声を作っていく。これもジャズインプロヴィゼーションの大きな要素であり楽しみだ。

Oleo Ⅲ

2010-06-19 01:50:51 | Weblog
楽曲のキーの問題は聴く側にたつとたいした問題ではないけど、演奏者にとってはかなりのハードルになるケースもある。やはり楽器によって個人によって得意不得意がある。ジャズの世界に長くいるといろんなことをやらされるから移調にも自然とだんだん強くなってくる。かけだしの頃のピアニストは大変だ。ピアノという楽器の性質上キーをずらずというのは場合によっては大変な苦痛になる。だけどキャリアと練習でだんだん克服できる。12個のキーが完璧に自由という人はいないと思うけど移調にあまりに弱いのも考えものだ。頑張って練習したらその分鍵盤と「お友達」になれる。逆に言うとピアノの鍵盤を自由にあやつるのはそれほど難しいということだ。ジャズはそれだけではない。インプロヴィゼーションが待ち構えている。いろんなキーのメロディーやコードを押さえるだけならちょっとした訓練でできる。でもインプロヴィゼーションはまた別のそのキー独特の慣れが必要だ。アドリブというのはどうしても自分の「歌」を弾こうとする。そこにはトナリティーをしっかり感じるという感覚が必要になってくる。そこでそのキーのスケールをマスターする。そこまではすぐできる。でもスケールというのは音が7つだ。問題は残りの5つの音の感じ方扱い方なんだ。こなれたキーだと残りの5つの音いわゆる派生音も自分の歌のなかに入っている。でも慣れてないキーだとそういかない。7つの音から自由に離れられないのだ。12音の中のキーというのは基音に対してスケールの残りの6つの音とスケールにない5つの音の関係が耳ではっきり感じられ、また楽器のテクニックで使いこなせないとマスターしたとはいえないのだ。即興演奏だと残りの5つの音の扱いによって熟練度があからさまになってしまう。ややこしいキーや難解な調性の曲でも譜面をなんとかものにすれば音楽に聞こえるクラシック音楽とは根本的に違う。こうやったらこの問題を克服できますよ、とは簡単には言えないけど結局はいらいらしながら自分の耳と闘うしかない、のかな?

Oleo Ⅱ

2010-06-11 01:06:46 | Weblog
リズムチェンジというのは一定の構造、主にコード進行のことを指すわけで、キーは別になんでもいい。この「Oleo」はオリジナルはB♭だ。ソニーロリンズ自身もこのキーでやっている。この曲を他のキーでというのはほとんどないけどトミーフラナガンがCのキーでやっていたことがあった。理由は分からない。楽曲のキーを決めるのにはいろんな理由がある。歌曲だったら歌手の音域に合わせる。器楽曲だったら楽器の音域やテクニック上の問題を考慮する。シンフォニーになると楽器の種類も多いからそれをうまく調節するのも作曲家の腕のひとつだ。ピアノ曲は音域の広い楽器の特性を生かしていろんな選択肢がある。音域的に一番よい響きのキー、あれやこれや試して決定する。ジャズスタンダードの場合、楽器それぞれの音域的な問題はまずない。でもジャズという音楽が管楽器奏者に引っ張られてきたという経緯から管楽器が吹きやすいキーのものが多い。だからフラット系だ。ロックはギターがリードしてきたからシャープ系だ。コントラバスを弾くジャズベーシストは弦楽器を操るわけで本来は開放弦を使うためにはシャープのほうがいいけど、長年フラットに慣らされてそれが普通になっている。たいしたもんだ。でもフラットがいっぱいついたキーで速いテンポをずっとやると開放弦が使えなくて途中でばててくる。それでもまじめにラインを考えるベーシストは頑張り続ける。反対に今までに何人か遭遇した要領のいいベーシストはどの音を弾くかを無視して開放弦で休んでしまう。無意識にビートのほうを優先するのだ。共演者にとってどちらがいいかというと実は後者なんだ。ジャズという音楽は安定したビートが命で音の間違いは実際の演奏では実はそんなに問題ではない。まあ程度問題だけど・・・。共演者というのはそのひとが感じているコードの流れやもっと大きくいえばその人の「音楽」を聞いているのだ。それがインプロヴィゼーションだ。

Oleo

2010-06-04 23:27:27 | Weblog
リズムチェンジといわれる曲の代表だろう。ソニーロリンズが若い時に書いた。多分20代前半?1954年にはもう録音している。リズムチェンジというのはジョージガーシュインの「I Got Rhythm」とほぼ同じコード進行の曲全般を指す言い方で、ジャズミュージシャンの間の隠語だ。ほかにもとにかく曲はいっぱいある。この「Oleo」はなんといってもメロディーのリズムパターンが独特でビバップの特徴がよくでている。ソニーロリンズはビバップの創成期にはかかわっていない。年代が違う。でも20代の前半から注目される天才だったから、バドパウエルやモンクとも競演している。当然その頃影響をうける音楽はビバップだ。その後成熟してからは新しいモダンジャズのスタイルを作り上げた紛れもない「Jazz Giant」だ。このリズムチェンジという曲の種類を作り出したのはモダンジャズだ。インプロヴィゼーションの素材を求めてさまよっていたミュージシャンが探り当てたのがこの曲、というかこのコード進行なのだ。自由な中に適度の縛りがある。アドリブの腕を磨くのに絶好の素材。今でも世界中のセッションでやられているのはこのリズムチェンジとブルースだ。まあ確かに面白い。コードのことなんかをあれこれ考えているうちはどうにもならないけど・・・。リズムチェンジというのはどう考えてどんなコードでやるんですか?ボク自身もかつて先輩に質問したことがあった。ひとから聞かれたこともたびたびある。この質問に答えるときにジャズインプロヴィゼーションの難しさが集約される。バリーハリスがこの曲について解説していたことがある。インプロヴィゼーションについてはこう言っていた。「Anything OK」