ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Spring Is Here Ⅲ

2010-02-25 01:17:03 | Weblog
リハーモナイズやアレンジの目的はと言われたらもちろん曲を良くすることだ。ただややこしくすることではない。成功することもあれば失敗することもある。絶対というものもない。でも時代に応じて要求されるサウンドも変わってくる。モダンジャズのリハーモナイズに関してはその信念に「ヒップ」という金言がある。この信念にしたがってコードを変えるのだ。ドミナント7THのコードを使って増4度を響かせブルーノートを匂わせてブルージーにする。とにかく落ち着かせない。常にワクワクさせる。コードネーム云々とは一致しないけどヴォイシングには長7度(短2度)を多用する。ピアノの長7度音程は12音の象徴だ。こういうリハーモナイズが半世紀にわたってジャズの世界で行われてきた。まだ新鮮に感じる人もいるだろうしどうしても受け入れられないひともいるかもしれない。ボク自身はもう完全に慣れた。日常のサウンドであり普通の音楽だ。でも飽きない。やはりいまだに魅力を感じる。数十年前にビルエバンスのコードを聴いて背すじがゾーッとするようなことはさすがになくなったけど・・・・。

Spring Is Here Ⅱ

2010-02-19 02:25:46 | Weblog
リハーモナイズという言葉はいわゆるジャズ用語ではあるけど、作曲やアレンジにたずさわっている人は音楽のジャンルを問わず何百年も前、もしかしたらもっと前から行っていたことだ。曲のどの場所を作り直すか、どのくらいの厚みの音にするか?なんの決まりもない。ジャズミュージシャン、特にピアニストはこれをほとんど全ての曲でやっている。ほぼ即興でやることもある。長い間あれやこれややっているうちに個性がかたまってくる。それがその人の「サウンド」だ。もちろん基本の和声法はマスターしておかないと手も足もでない。でも出来上がったものがその人の音としてはっきりとした意志表示ができるレベルのリハーモナイズとなると大変だ。センスが要るし経験も要る。そして全体を通してこういう音にするという大きなイメージを持っていないと音楽というのは伝わらない。抽象的なイメージが絶対必要だ。そして逆に細部の音使い。一番大きなものと小さなもの、真ん中はそんなにこだわる必要はない。音楽を捉える入り口である大きなイメージと出口である出来上がったものの一音にこだわるのだ。半音の使い方ひとつで音楽は変わってしまう。リハーモナイズする曲選びも大変だ。レパートリーにしたい好きな曲をまず考える。でも人に依頼されて半分いやいややっているうちに火事場の馬鹿力が出て、いいアイデアが浮かぶこともある。リハーモナイズは究極の脳トレだ。

Spring Is Here

2010-02-11 01:28:18 | Weblog
不思議な美しさを持った曲だ。メロディーは2小節の単純なフレーズを2度進行させたものと後半は上がっていくスケールのようなもの、ほぼトナリティーに収まっている。でもコードは12音を駆使した微妙な色彩感のあるものだ。もちろんリハーモナイズはいくらでもできる。一体和声そして和声進行はなんのためにあるのだろう?メロディーだけだと思いもよらない表情を音楽に与えてしまう、そしてややもすれば音楽を縛ってしまう。やはりどういう理由で和声があるのかを演奏する人が理解していないと、コードをひいても音の数が多くなるだけで音楽を良くするという方向からずれてしまう。ミュージシャンは和声が何故必要なのかを自分自身の音楽と照らし合わせてしっかり理解しておくべきだ。数百年前、リアルクラシックの時代、和声は音楽のステイタスそのものだった。12個の音を組み合わせて得られる快感は人類の知恵の結晶だ。そしてそれらのほとんどは「安らぎ」を与えるために存在した。立派な哲学がそこにあった。そして時代は移り人間の価値観も変化し音楽に対する欲求も多種多様になった。人間のいろいろなわがままに答えられるほど音の種類は多くない。とにかく12個なんだ。和声を考えるのは楽しいけどその反面、もう限界のすぐ手前でウロチョロしているような気がしてならない。

Bird Of Paradise Ⅳ

2010-02-05 01:03:37 | Weblog
この曲は「All The Things You Are」のフェイクではあるけど、完全なパーカーの世界である以上別のタイトルも納得せざるを得ない。ということはこのイントロとエンディングも込みということだ。このイントロ、なんとコメントしたらいいのだろう。チャーリーパーカーのセンスといってしまったらそれまでだけど、原曲からこれを引き出すのは常人では無理だ。でもインパクトが強くジャムセッションのときは世界中今でもこれだ。イントロダクションというのは演奏する曲をやりやすくしなければいけない。イメージを与え、トナリティーを与え曲を引き出す。かなり難しい作曲だ。ピアニストは日常的にこのプレッシャーと闘っている。でももしこの原曲を与えられてもこのイントロのイメージを思いつく人はほとんどいないと思う。パーカーは何を思いついたのか?音楽には遊びの気分やジョークも必要だ。それも音楽の一部分だ。それにしてもこれは不思議なイントロだ。音楽の場面転換にはいろんな手法がある。全体の中でいろんな関連性を持たせた計算されつくされたものや、なんの脈絡もないもの・・・。サビと言われる部分はもっともそれに当たる部分で、いろんなものがある。でもこのイントロはイントロからコーラスに移っただけで場面転換してしまう。イントロだけでひとつの世界を創ってしまう。エンディングにも使う。そしてコーラスの中の魅力的なインプロヴィゼーション、全部を含めて「Bird Of Paradise」なんだろう。