ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Along Came Betty

2008-06-30 02:22:16 | Weblog
ベニーゴルソンのジャズメッセンジャーズ時代のヒット曲、今では優雅なセッションナンバーとして、管楽器奏者のお気に入りだ。曲の内容については徐々に書くことにして、ジャズメッセンジャーズというバンドについてちょっと触れてみよう。バンドリーダーのアートブレイキーという人はドラマーとしても超のつく一流プレーヤーだけど、ミュージシャンとして、そしてバンドリーダーとしても歴史に名を残した「Jazz Giant」だ。'61年に来日して熱狂的な歓迎を受け、すっかり親日家になってしまい、その後もう数え切れないくらい日本に来ていた。よほど日本が好きだったんだろう。もう30年以上も前だけどブレイキーが来日していた時、公演が終わるとメンバーを引き連れて六本木のクラブへやってくるのがお決まりになっていた。その店ではもちろん歓迎されるし、ちょっと演奏したらいくらでも「ただ酒」が飲める。誰も文句は言わない。その店で何度もブレイキーを見かけた。ボクはまだ20代前半だった。時々その店で弾いていた。ブレイキーがメンバーを引き連れてやって来たけどピアニストがいない時があって、2曲だけだけど参加させてもらったこともあった。たいした演奏ではなかったけど、とにかくアートブレイキーと演れた。いい思い出だ。アートブレイキーは親日家でもあったけど、アフロアメリカンの誇るべき音楽としてジャズの地位を高めた人物だ。そして彼がライフワークとして正に命をかけて運営し続けた「The Jazz Messengers」、アートのこのバンドのやり方がたくさんのジャズタレントやジャズスタンダードを生み出した。ホレスシルヴァー、ベニーゴルソン、ボビーティモンズ、シダーウオルトン、リーモーガン、ウェインショーター、作曲の能力に長けたミュージシャンが目白押しだ。ミュージシャンのこの能力を引き出したのがアートブレイキーのやり方なんだ。うううん・・・たいしたこと書いてないのに長くなってしまった。また次回に。

Gloria's Step Ⅳ

2008-06-27 02:38:33 | Weblog
m7-5のコードはハーフディミニッシュと呼ぶ人もいるぐらいで、ディミニッシュコードに近い不安定な要素をもっている。もともとは短調のサブドミナントの機能をもった和音だけど、第6音をフラットさせてエオリア調に近づけたために第2音を根音にするこのコードの5度がフラットして増4度になりその結果不安定な和音になってしまった。物理的に考えると根音は3度音だけどどちらにしても増4度という音程は内蔵することになる。この曲の場合このコードが連続した後G7+9-C7+9そしてE♭7+9と続く。結局Bの部分は最初の2小節以外は不安定なままだ。全体を見渡してみて言えることは「アンチビバップ」ということだ。若いラファロがそう考えていたかどうかは分からないけど、マイルスのモード的な考えとはまた違う新しいジャズの素材だ。この曲を作って実際に演奏するにあたってビルエヴァンスがどの程度関わったのかは分からないけど、このトリオとしてのコンセプションを明確に表現した曲だと思う。でもエヴァンスはこの曲をこのアルバム以降レコーディングしていない。ライブではやっていたのか?分からない。スコットラファロ以外のベーシストとはこの曲を演りたくなかったのか?この時のこの演奏以降一度も演っていないのか、エディーゴメスやマークジョンソンに聞いてみないと分からない。ラファロがもし事故にあわなかったら、その後どんな存在のミュージシャンになっていたか、まわりにどのぐらいの影響を与えていたか想像もつかない。ほんの数年という期間に残した音源がその後数十年世界中のミュージシャン特に同業者に多大な影響を与えるというほんとに稀な「Scott LaFARO」という存在、どう表現していいか分からない。これがカリスマか。

Gloria's Step Ⅲ

2008-06-23 23:25:39 | Weblog
Bの部分について・・・。Em7-FM7と進んだ後Am7-5,Em7-5そして全音下がってGm7-5、Dm7-5このm7-5のコードの連続というのはめずらしいといえばめずらしいけどあり得ないことではない。このコードそのものについてはまたいずれということにして、ここではルートの5度進行について・・。あえて5度進行と言ったのは、根音が5度上行つまり4度下行するということだ。4度上行に慣れ親しんだ我々の耳にとって、4度下行はちょっと特殊な時間の進み方に感じる。この形の終止形はプラガル終止と呼ばれ日本語では「変格」と訳されている。4度も5度も倍音列の下の方にあって基音とはとても関係の深い音なのに、上がるか下がるかでどうしてこんなに受ける印象が違うんだろう?3全音の解決とセットになったドミナントモーションという4度進行に慣れた耳には4度下行するコード進行はなにか時間が逆行したようにさえ聞こえる。これこそが人間のタイム感覚なのかもしれない。時間の進行というのは相対的なものなんだ。アインシュタインの相対論をちゃんと分かっているわけではないので、宇宙空間の時間の伸び縮みと音楽のコード進行を一緒くたにするつもりはないけど、人間の時間の進み方に対する感覚というのは、状況にとても左右されやすいものなんだろう。逆に考えたら和声進行というのはその人間の陥りやすい「錯覚」をうまく利用したものでもあるわけだ。そうか、音楽というのは時間のイリュージョンの芸術なんだ。コード進行の謎は深い。

Gloria's Step Ⅱ

2008-06-20 07:59:47 | Weblog
この曲はAB2種類で構成されている。演奏する時はAABでワンコーラス。まずAから・・・。全体は5小節だ。コードネームでいうとFM7-E♭M7-D♭M7-C7-Fm7、5小節という単位はインプロヴィゼーションをやるにはとても大変に感じるけど、実際に演ってみると全く違和感がない。30年近く前にこの曲を覚えて今まで何度も演奏してきたけど、小節の数のことで混乱したことはない。一緒に演った他のミュージシャンも数を間違えたことはない。ちょっと不思議な感じがするけど、実際はそうなんだ。そしてこの曲ラファロは最後まで4分音符、日本語で言ういわゆる4ビートを弾かない。コード進行がそれに合わないというのがその理由のほとんどだろう。実際の演奏の時ソリストが何人かいたり演奏そのものが長くなったりしてベーシストがたまらず4ビートを弾いたことは何度かあるけどあまりいい結果ではなかった。やはり合わないんだ。この曲は和声構造が理由でベーシストのそういうアプローチが要求されるけど、ベースが2分音符で弾くか4分音符にするかは音楽的にはどちらでもいいケースが多くてほとんどはベーシストのセンスに任されている。でも2にするか4にするかが音楽の成否を分けることもよくある。重要なんだ。本当にケースバイケースで簡単にこうすればいいということはできない問題だけど、ベーシストに今はどちらを選ぶべきかという注意力と感性がなにより必要なことだけは確かだ。

Gloria's Step

2008-06-15 03:08:19 | Weblog
伝説のカリスマベーシスト、スコットラファロの作品、ビルエヴァンスの「Sunday At Village Vanguard」に収録されている。一曲目だ。このアルバムは本来は誰の耳にも届かないで終わったテイクを集めたものだ。レコーディングをいやがるビルエヴァンスを説得して日曜日の午後にヴィレッジヴァンガードで何回かライヴをやらせ、録音隊を店に待機させ、演奏を録った。そしてその中から抜粋して出来上がったのが名盤「Waltz For Debby」だ。エヴァンスはこのトリオを自分のキャリアの中で最高のユニットだと確信していた。アルバムはビューティフルな形で仕上がった。仕上がる予定だった。音楽にはなんら問題はなかった。後は発売を待って世間の評価を仰ぐだけだ。しかし信じられない悲劇が起こった。このレコーディングの10日後スコットラファロがルート20で車の運転を誤り、木に激突して即死してしまったのだ。エヴァンスの動揺ぶりは尋常ではなかったらしい。史上最高のピアノトリオは幻のように消え去ってしまった。ラファロは20代前半という若さだったけど、その天才ぶりはミュージシャン仲間にはすでに知れ渡っていた。実際その当時このトリオが世間的にどういう評価を受けていたかは定かではない。でも何十年後になってもこんなに高い評価を受けるバンドであるとはだれにも想像できなかっただろう。特にプロのジャズミュージシャンの間での評価の高さは異常だ。ラファロを失くしたリヴァーサイドレーベルは追悼の意味を込めて、日曜日の午後にヴァンガードで録ったエヴァンストリオのテイクの中から抜粋して「tribute to Scott LaFARO」として一枚のアルバムを作った。それがこの「Sunday At Village Vanguard」だ。1曲目の「Gloria's Step」と最後の6曲目「Jade Vision」はスコッティーの作品だ。ラファロは死んでしまった。でも残されたわずかな遺産とも言うべきこの作品が世界中のジャズベーシストに与えた影響は計り知れない。このアルバムを聞いたのがきっかけでプロになったベーシストも世界中にいっぱいいると思う。そしてその人たちは何十年もこのアルバムを聞き続けている。「Gloria's Step」の内容については次回から・・・。