ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Yesterdays Ⅱ

2013-08-25 18:15:50 | Weblog
細かい部分のピアノのヴォイシングを考える時、どうしてもピアノの前に座って落ち着いて考えるというのが必要になってくる。ひとつひとつのコードの押さえ方だったら道を歩いていても思いつくことはあるしそれが成功することもある。でも曲の流れの中での的確なヴォイシングとなると楽器がないと無理だ。これはどんなに鋭い耳の人でも一緒だと思う。ある意味人間の限界だろう。12音の構造から論理的に考えても、その価値があってこそのピアノという楽器だと思う。ジャズの演奏で必要な要素はもうひとつ、そのヴォイシングがバンドの中でどう響くかということだ。これもやってみるしかない。ある程度以上のことは頭の中のイメージだけではどうにもならない。長年経験を積むとジャズのバンドの中でこのコードがどう響くかというのは想像はつくけど、何かヴォイシングの新しいアイデアが浮かんだ時は実際にバンドの中で弾いて試すしかない。当然失敗はつきものだ。いいと思ってやったことがあまりにひどい結果で落ち込むこともある。もちろんその反対の大成功もある。自分でドキドキすることすらある。ビルエヴァンスがジャズの面白さを初めて体感したのは、たったひとつの譜面にない音をヴォイシングに加えてその響きに感激した時だと自ら語っていた。こういうことは長い音楽活動の経験を積んだあとでもあることだ。決して小さいことではない。ひとつの音に感激できる感性がミュージシャンには絶対必要なのだ。

Yesterdays

2013-08-17 17:51:16 | Weblog
1933年、Jerome Kern の作品、世界中でレコーディングされ、演奏され、歌われた回数はもう無数だ。とにかくジャズスタンダードに必要な条件をたくさん兼ね備えている。まず一番の大きな音楽的理由としてメロディーの2度進行があげられる。最初の2小節のフレーズはちょっと隠れてはいるけど、実は2度下行している。そのあと2小節ごとのフレーズがトナリティーにそって下行している。これは歌いやすさとして申し分ない。そしてその旋律を支えるコードは確固たる機能和声だ。インプロヴィゼーションの素材としてもっとも受け入れやすい。16小節が繰り返される形式も演奏しやすい要因のひとつだ。そしていろんなテンポ、リズムの形にも適応できる。おおまかに書いたけど、この音楽的な特徴はジャズスタンダードというか、20世紀以降とくに20世紀前半のアメリカの音楽のひとつのパターンだ。当時は単にポップス曲だったけど、その素材がジャズインプロヴィゼーションにおあつらえ向きだったのだ。もちろん消えていった曲もたくさんあると思う。というか消えていった曲のほうが多いかもしれない。いくらヒットしてもジャズの素材になりにくいものはスタンダードにはならない。この曲はジャズミュージシャンが演奏の素材として研究し、アドリブの方法論を持ち込むのにぴったりだ。そしておまけにバラードとしての良さ、説得力も持ち合わせている。いろんな演奏のしかたができる。確かに何十年演っても飽きない。


クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス
クリフォード・ブラウン,ニール・ヘフティ,リッチー・パウエル,バリー・ガルブレイス,ジョージ・モロウ,マックス・ローチ
ユニバーサル ミュージック

Centerpiece Ⅳ

2013-08-11 17:50:43 | Weblog
音楽のジャンルにかかわらず、バンドというのは必ずリーダーが必要だ。人間が何人か集まって音楽をまとめようと思ったら誰かが引っ張っていかないとうまくいかないということだろう。何十人のバンドとなったらコンダクターが必要になることもある。それどころか、指揮者という特別な地位は音楽の世界ではもう尊敬される音楽家の役割として完全に確立されている。ジャズのコンボというのはひとりひとりが自分の解釈でソロをやるし、自由度が高いというのがジャズの本文でもあるし、リーダーなんか特別必要ではないのではないかと思われがちだが、それは大きな間違いだ。リーダーというかとりしきる人のいないジャムセッションなどはいつもグシャグシャになってしまう。とても音楽をやってる気分にはなれない。ジャズバンドのリーダーというのは独特の役割があって、そのリーダーの楽器にもよるし個性にもよる。で、即興演奏でなんらかの方向性を示すということは言葉を換えれば、なんらかの束縛を加えるということなのだ。音楽全体の流れであったり、コード進行であったり・・・。とくにピアニストが弾くコード進行というのは、音楽の流れの指針としておおきな役割を果たしているので、どこにどう弾くかというのは細心の注意を払わなければならない。管楽器奏者がリーダーの時、バッキングに関してはうるさく注文をつける人が多い。でもそれは当然のことだ。ピアニストがリーダーの時、バッキングで音楽をいわば牛耳れるからそれが音楽の「ヒップ」を奪っていないか、常に気を配る必要がある。でも、結果的には絶対的な正解はない。自由と束縛はそんなにはっきり分かれるものではないのだ。どちらが心地よいか、場面によっても違うし、ひとそれぞれ受け取り方も違う。ただバランスが重要なんだと肝に銘じておくことだ大切だ。

Centerpiece Ⅲ

2013-08-05 17:10:58 | Weblog
作曲家に必要な能力としてよくハーモニー感覚が取りざたされる。「ハーモニー感覚」??分かったような分からないような言葉だ。でもこの言葉の意味を突き詰めても意味はない。「ハーモニー」というもの自体が考えれば考えるほど難解なものだから仕方がないような気がするからだ。でも定義は一応ある。二つ以上の音が同時に鳴った時に起きる音楽的な効果、まあこんなとこか・・・。あいまいな言葉ではあるけど、「ハーモニー」や「和声」という言葉なしでは音楽を語る時にボキャブラリーが不足してしまう。実は音楽を語ったり、言葉で説明したりする時、この「ハーモニー」という言葉は人によって全然意味合いが違っているのだ。だから読む方、聞く方がそれを頭に入れて解釈しないと誤解が生じてしまう。で、作曲家に必要とされるこのハーモニー感覚はジャズミュージシャンにもとても重要な能力なのだ。ブルースのソロの音選びの時にもっとも必要なのはこの「ハーモニー感覚」だ。コード進行にほとんど縛られないブルースという音楽で即興でメロディーを作っていく時に和声を感じるというのは、いわばジャズの現場独特の感覚かもしれないが、それが演奏の出来を大きく左右するのだ。これはもちろんソロ奏者の能力だが、もうひとつ重要な役割を担うベースラインというファクターがある。即興で、次どんな音が出てくるかわからないのにそれにどう対応して良い音を選び即興的な良いハーモニーを作っていくのか?ベーシストの作曲家としての資質が問われる部分だ。新しい和声をその場で作りだしながらインプロヴィゼーションをやる、ブルースはの能力が試される素材なのだ。