ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Ⅷ Tell Me A Bedtime Story

2007-11-21 00:00:26 | Weblog
この曲はハービーがマイルスバンドを退団して最初のリーダーアルバム「ファットアルバートロウタンダ」からの抜粋だ。このアルバムはワーナーブラザーズからリリースされている。確か冷蔵庫とその中の食べ物の写真がジャケットになっていた。今手元にはない。これはテレビのシリーズ物のサウンドトラックとして録音されたものらしい。そういえば妙な音楽だった。まあでもこんな名曲も含まれていたんだからよしとしよう。とにかくいい曲だ。ハービーの才能と教養がつまっている。レパートリーにしているピアニストも多い。ここではハービーはエレキピアノを弾いている。エレクトリックピアノはまだ世に出て数年の頃だ。まだこの頃はマークがフェンダーローズとなっていた。その後フェンダーが手を引いてローズだけになった。ボクも何台も買い変えた。ちょっとずつ違って良くなっているようなそうでないような・・・。ハービーは情報によると鍵盤部分は相当古いモデルを気に入ってずっと使っていたようだ。何かが気に入ったんだろう。自分の楽器だからそのぐらいの思いいれがあって当然だ。エレクトリックピアノは不思議な楽器だ。今はもうほとんどの人がライブではあの音をサンプリングして使っているけど、元の楽器は前に座ると独特の匂いがして、出る音も独特だ。音楽のテクニックの内容によって簡単に弾ける部分と弾きにくい部分とがあって「慣れ」が必要だ。ヴォイシングも多少変えないとアコースティックピアノと同じにはいかない。でもとにかく一世を風靡した。今はレコーディングスタジオに行けばあるけど、ライブではほとんど使われなくなった。でもあの「エレキピアノの音」を世の中に浸透させてしまった。'70年前後はエレキピアノを使うかどうかがピアニストにとって結構大問題だった。嫌って絶対弾かない人もいた。大御所ならそれでもいいけど、かけだしはそんなことは言ってられない。借金をして楽器を買い、重い楽器を運んでセッティングして演奏する。はんぱじゃない重さだから、演奏の前に疲れるし重いものを運んで指は硬直してしまう。立派なグランドピアノが置いてあるのに言われるままにフタを閉めてその前にセッティングしてやったこともある。そういう時代だった。まあ何事も経験だ。ハービーハンコックはマイルスから独立し当然のように、グループを組んでリーダーとして活動しだしたけど、この頃からのハービーは苦難の連続だった。もちろん音楽的な意味だけど・・・。でもそういってふり返れるのもそれから何十年も頑張りぬいて今も現役として健在だからで、この頃はハービーハンコックという人はどういう人なんだろう、どうなってしまうんだろうと悲観的にみていた。人生は一筋縄ではいかない。


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