ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

The Eye Of The Hurricane

2008-02-29 01:27:52 | Weblog
ハービーハンコックのオリジナルでセッションナンバーと言っていいだろう。でもアンサンブルはちゃんと練習しないと難しい。顔を合わせてすぐに出来る曲じゃあない。最初の収録は「Maiden Voyage」だ。やはりこれもマイナーブルースというべきなのか?テーマはちょっとサイズが伸びているし、1番カッコと2番カッコで最後のリズムパターンが違う。これもこの曲の特徴だから、無視するわけにはいかない。このアルバムでは一応12小節単位でソロをやっているけど、ハービーのヴォイシングを聞くと全くブルースにはなっていない。その後、V.S.O.Pで演奏したりしている時は小節もわくをはずしてしまっている。全く自由なインプロヴィゼーションの素材としてこの曲を使っているだけだ。でもこの曲の構造はミュージシャンのインスピレーションを喚起するに充分なひらめきを持っている。やはり名曲だ。最初の4小節はFm7-B♭7-E♭M7-A♭7-D♭M7という4度進行、そのあと5小節目はF♯m7でトップノートは13度のD♯だ。そして5拍のフレーズが2回と6拍のフレーズが1回で合わせて4小節、この時のコードは左手は完全にFm6を押さえているけど、その上に乗っている音がG.B♭.D♭そしてトップノートはF♯だ。いろんな解釈はあるかもしれないけど、ここは機能としてはトニック、9.11.♭13.♯15というテンションを加えたものと思ってさしつかえはないと思う。まあ考え方はともあれ、いい音だ。ハービーの教養が感じられる。そして最後の部分の2番カッコは1番カッコのフレーズを2拍3連の4つ割に引き伸ばして、しゃれたアレンジをしている。だから全体を通してブルースのおおまかな形式を利用した曲で、このテーマをもとにインプロヴィゼーションをすることがいわば前提だ。これはモダンジャズ独特の考え方でこの曲は純粋なジャズナンバーといっていいと思う。本当のインプロヴィゼーションの腕が試される曲だ。相当のレベルでないと音楽にならない。きびしい曲だ。次回もうちょっと書きます。

Stolen Moments Ⅲ

2008-02-25 01:24:58 | Weblog
ドリアの第6度というのはドリア旋法の主音から長6度を形成する音のことで、この旋法の特徴的な音とされている。そして問題は第3音と増4度音程になるということだ。二千数百年前からすでにこの音程に対する人間の戦いは始まっていた。この音程を避けるため6度音を少しさげて行くとエオリア調いわば現在の短音階に近づいてきた。でもあえてこの長6度音を使って刺激を求める手もある。特にジャズで使う場合、3度音との間に形成される三全音が「Jazzy」なハーモニーになることがある。同じマイナーブルースでもビルエヴァンスの作った「Interplay」は6度音は全て短6度だ。作曲家の意図によるということだ。オリヴァーネルソンは長6度を選択した。ギリシャ旋法はジャズミュージシャンだけでなく過去の作曲家たちも頻繁に音楽に取り入れてきた。ジャズのアドリブ素材として、ギリシャ旋法を使うのは非常に分かりやすい。美しいそれぞれの旋法の名前と一緒にすぐ頭に入る。それはそれでいいんだけど、これはあくまでも12音平均律をギリシャ旋法にあてはめただけのもので、実は「似て非なるもの」なんだ。ギリシャ旋法の考えの基本になっているのはテトラコードだ。完全4度を一つの単位としてその中に音を二ついれる。そしてそのテトラコードをコンジャンクトとディスジャンクトというふたつの考え方で組み合わせる。音楽を6:8:9:12という割合で考えていた。この考えは第4倍音までの考え方だ。ギリシャ時代は「数」に対する考え方が今とは随分違っていたんだろう。ピタゴラスは「数」を信仰する宗教のいわゆる教祖だったといわれている。ピタゴラスのコンマといわれるものも音楽を第4倍音までで定義づけようとする発想から出てきた端数だ。第5倍音が出てくると音楽の考え方が全然変わってくるからその後人類はその問題を解決して12音平均律を世界中に浸透させるのに二千年近くかかってしまった。ギリシャ時代の音楽はわずかに譜面は残っているらしい。理論好きだったギリシャ人は文献としての音楽論はたくさん残している。遺跡には楽団らしき人たちが演奏した形跡もある。一体どんな音だったんだろう?才能のあるミュージシャンもたくさんいたはずだ。ドリア旋法はとても重要な旋法だったと言われている。ドリアの第6度は二千数百年前のギリシャを感じさせる音なんだろうか?

Stolen Moments Ⅱ

2008-02-22 03:10:24 | Weblog
この曲は「マイナーブルース」だ。この言い方はいわば俗語になるのかな?よりマイナーキーいわゆる短調に近いブルース、というかブルースの形式を持った楽曲ということだ。ミュージシャンの間ではそれで通じる。ソロパートは12小節だけど、テーマはドミナントの部分が引き伸ばされて全部で16小節になっている。このドミナントの部分はコードネームはつけられない。無理やりコードネームで分からせようというのはナンセンスだ。4度を積み重ねた和声を半音で上げ下げしながらメロディーはブルーノートを使ったシンプルなフレーズの繰り返しだ。ここはおたまじゃくしで書けばいい。この曲のような4度の和声、ブルーノートがからんでいるもの、そして対位法的なもの、和声的ではあるけど掛留が複雑化したワーグナーのトリスタン和音みたいなもの、こういうものはコードネームで書くのはあまりなじまない。コードネームの成り立ちを考えたらしょうがないことだ。まあどんな書き方をされていてもプレイヤーのやることはその楽曲の構造を理解してインプロヴァイズするということだ。オリヴァーネルソンはブルースという音楽の詩的な面そして純粋に音楽構造としての面をうまく組み合わせて音楽を作っている。ジャズにとってブルースはこういう存在だということだ。最初の8小節、まず気になるのはドリアの6度だ。この音がこの曲の色合いを決定づけている。ドリアというのはギリシャ旋法から来た名前だけどこれについては、ううん・・・異論というほどではないけどちょっと違った考え方も持っているのでまた次回に・・。

Stolen Moments

2008-02-18 01:56:44 | Weblog
オリヴァーネルソンの作品だ。10年前ぐらいまでボク自身もよく演っていたけど何故かずっとやっていなかった。ひょんなことで演る機会があり、またやってみようという気になった。それでブログに書いてみようということで久しぶりにCDを聞いてみた。聞くのは本当にひさしぶりだ。この曲の内容は後においといてこのアルバム「Blues And The Abstract Truth」のことをちょっと・・・。録音は'61年、オリヴァーネルソンの意欲作であり代表作だ。と同時に制作したインパルスレコードにとっても意欲作だ。インパルスと言うと、とにかくジョンコルトレーンクァルテットを抱えていたレーベルだ。このアルバムといいとにかく新しい実験的な音楽をサポートしていたようだ。ジャズが贅沢な時代だった。このアルバムは全曲ネルソンのオリジナルでアルバムタイトルからも分かるように「ブルース」、ううん・・「ジャズミュージシャンから見たブルース」を主体にしたアルバムだ。優れたミュージシャンであるとはいえ全曲ネルソンのオリジナルというのは商業的にはかなりリスクがある。よくやった。でもインパルスの勇気のおかげでこんないいアルバムが後世に残った。サイドメンには当時のスタープレーヤーがずらりだ。リズムセクションはビルエヴァンス、ポールチェンバース、ロイヘインズ、ラッパにフレディーがいてホーンにはなんとエリックドルフィーもいる。よくこんなすごいメンバーを集めたもんだ。そしてこの超個性派が揃ったバンドからいい音楽を作り出したオリヴァーネルソンにとにかく拍手だ。大変だったと思う。本当に。音楽全体の内容、そしてこの「Stolen Moments」のことについては次回に。

Moment's Notice Ⅱ

2008-02-15 16:03:32 | Weblog
この曲はアンサンブルと言っても、テーマの時の最初の8小節、リピートしてまた8小節、それのリズムパターンがバンド全体でビシッと合うかどうか、それだけだ。そしてもっとしぼると一番最初のメロディーのGの音の「出」がピタッといくかどうかということだ。譜面には半拍休んで音を出すとしか書かれていない。ジャズのリズムにはいろんな音符が交錯している。譜面にはこう書くしかない。でも実際にはこのテンポだとまだ3連音符のニュアンスがないとスウィング感が出ない。もうすこし早いテンポだと3連音符はほとんど消えてしまう。逆にずっと遅いテンポになるとキッチリした3連音符が聞こえるから問題はほとんど起きない。でもこの曲のこのテンポはその意味では中途半端なテンポではある。このテンポだとドラムは3連音符のニュアンスを残したたたき方になる。要するに最初のGの音は半拍休んだ後ではなく3連音符をふたつ休んだあとになるわけだ。2で割ったものをひとつ休んだ後か3で割ったものを二つ休んだ後かでは当然ズレが起こる。ほんのわずかなことだけど実際にはこのズレが非常に気になる。この場合は全員が3連音符をちゃんと意識して休符をしっかりとらないとアンサンブルはうまくいかない。この曲の場合はそれでもこういう意識をはっきりさせれば大丈夫だけど、大体リズムがバンドで合わないのは、誰かが休符をしっかり取れない時が多い。休符の長さをしっかり落ち着いて取れる演奏ができるようになったら音楽は相当な腕前だ。休符がなかったらどんな音楽も成り立たない。そんなことはみんな分かっているのに人間はどうしてこうもあせるんだろう?ジャズのバンドの中ではいろんなニュアンスのリズムが飛び交っている。ミュージシャンそれぞれがしっかりした音符と休符に対する意識を持っていれば、最初は合わなくてもお互いにすり合わせをしてだんだん合うようになる。それが「バンド」のいいところだ。でもリズムに対する意識が希薄だといくらやっても永久に合わない。トレーンのこのアルバムのミュージシャンたちは当時のジャズエリートたちだ。当然アンサンブルは練習したと思うけど、それぞれリズムに対する意識が高いから、2で割ったもの3で割ったものそしてその中間だったりとジャズ独特のリズム遊びの術を心得て軽く合わせているように聞こえる。とてもレベルの高いことなんだけど・・・。